あなたにとって幸せな時間とは? そして幸せでない時間とは?
家事や仕事、そのほか諸々の雑事に追われ、かといって空いた時間や休日はだらだら過ごしてしまう。それがむしろいいのだと感じる人もいるかもしれませんが、やはり有意義で充実したと実感できるような日々を過ごしたいと思うのが人の常。
そのためにはやはり、幸せだと感じられる時間を過ごすことが不可欠です(もちろん、幸せでない時間を減らすことも!)。では、あなたにとって幸せな時間とは?
これはあくまで一般的な話になりますが、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)アンダーソン経営大学院のキャシー・ホームズ教授によれば、幸せな時間には「誰かと一緒に過ごすこと」と「外へ出ること」が大きく関わっていると、心理学と行動科学の研究が示しているそうです。
ホームズ教授の著書『「人生が充実する」時間のつかい方 UCLAのMBA教授が教える“いつも時間に追われる自分”をやめるメソッド』(翔泳社)では、そうした幸せな時間の作り方が解説されています。本書は同校のMBA生(経営学修士の学生)に教えられている内容がベースになっており、アメリカのAmazonで2022年のベストブックに入るほどの高い評価を得た原書の邦訳版です。
今回は本書から、幸せな時間を作るための方法と、幸せでない時間の共通点について論じられている「第3章 幸せな時間、幸せでない時間―最も賢明な時間のつかい方」の一部を抜粋して紹介します。
本当はもっと幸せな時間を過ごしたいと思っているのに動き出せない方は少なくありません。少しでも、充実した人生のためのお役に立てれば幸いです。
幸せな活動の共通点(1)誰かと一緒に過ごすこと
哲学者や科学者、芸術家、そして『マトリックス』のような有名な映画や『星の王子さま』のような本はどれも、同じような結論に達しています。その結論をビートルズは、「All You Need Is Love(愛こそはすべて)」という曲のタイトルで簡潔に表現しています。
バックグラウンドやキャリア、ライフステージの違いがあっても、学生たちが見つける共通点として一番よくあるのが、愛する人と過ごす時間が最も幸せというものです。この「愛する人」には、親しい友達やパートナー、子ども、親、ペットも含まれます。
あなたがこれまでの2週間を振り返ったとして、最も幸せな時間のうち少なくとも一つは、心から大切にしている誰かと一緒に過ごした時間があるはずです。実際に今、手をとめてその記憶を思う存分味わってください。たくさんの幸せ――幸せを感じるだろうと期待し、実際に経験し、思い出になる幸せ――は、このように人とつながる活動から生まれます。なのでぜひ、最近の幸せを味わってほしいと思います。
親しい相手に投資する時間は、時間のつかい方として最善であることが、実験で証明されています。幸せになるには、こうした人間関係を持つことが好ましいし、むしろ必要なのです。かなり前に行われた幸福学の研究に、エド・ディーナーとマーティン・セリグマンによるものがあります。
大学生200人以上を対象に、ある学年度にわたり時間を記録してもらい、そのデータから、非常に幸せな人(幸福感で常に上位10パーセントに入る人)と非常に不幸せな人(常に下位10パーセントに入る人)を比較しました。
その結果、非常に幸せな学生は、非常に不幸せな学生と人口統計学的な違いはなく、客観的によい出来事と定義できる何かを多く経験したわけでもありませんでした。しかしながら、人との社会的なつながりの度合いは、著しく違いました。最も幸せな人たちは、親しい友達がいたり家族の絆が強かったりする傾向にあり、恋人がいる確率も高くありました。こうした違いが、時間の過ごし方に映し出されていたのです。
具体的には、幸せな人たちのグループはより多くの時間を友達、家族、恋人と過ごし、一人の時間が(いくらかはあったものの)そこまで長くはありませんでした。このデータが重要である理由は、幸せになるには、一つの要素だけでは充分でないものの、親しい人間関係は必要不可欠であることを示しているからです。言い換えれば、友達がいるからといって幸せが保証されるわけではありませんが、幸せになるには、友達が必要だということです。
この結果は、従来の心理学理論による「強く真摯なつながりを人と持つことが、心身の健康に不可欠」という主張と一致しています。アブラハム・マズローは、愛情――友情、家族、恋愛のどこから来るにせよ――が、人間の最も根本的な心理的欲求だと主張しました。マズローが提唱した、有名なピラミッド型の欲求五段階によると、人間が生き延びるために愛情よりも重要なのは、食料、水、安全な場所しかありません。
そして帰属意識(誰かを愛し、誰かに愛されているという感覚)があってはじめて、目標の達成や自己実現に向けて、個人が努力する価値があるのです。 出世街道をまっしぐらに進みたいのはすばらしいことですが、それはあなたの人生にいる人たちとの絆を犠牲にしないのであればです。出世街道の目的地に到着したとき、一緒に祝える人が誰もいなければ、そこまで満たされた気持ちにはなれないでしょう。
種として私たち人間は、生涯を通して、愛する人の支えや思いやりに頼りながら生きています。社会的なつながりが強い人は、早死にする危険性が低く、病気を克服する可能性が高く、生理学的あるいは金銭的に強烈なストレスを受けても、うまく耐えられることが、研究からわかっています。
人間は根っから社会的な生き物であるため、対人関係で拒絶されると、それを実際の痛みとして感じるほどです。意外かもしれませんが、人間関係で感じる痛みは、体に生じる痛みとまったく同じように、脳の活動に表れるのです。
婚約者に結婚を破棄されて痛みを抱えていた私を支えてくれたのは、慰めてくれた友人たちの存在でした。そして14年後、コロナ禍に見舞われたときに、オンラインで集まってお互いを精神的に支え合ったのも、同じ友人たちでした。そのため、もしまた「人生の満足度と友人の有無には強い相関関係がある」という別の研究結果が出てきたとしても、私はまったく驚きません。
とはいえ、こうした人間関係はただつらさを軽減してくれるだけではありません。よいときはもっとよくしてくれます。フランシス・ベーコンは1625年刊行の随筆のなかで、友情について「喜びは倍増し、悲しみは半減する」と書いています。
ほかの研究者が行った時間記録の調査でも、私の教え子たちの時間記録エクササイズでも、1日で最も幸せな時間は、愛する人とともに過ごす時間であったことを、忘れないでください。
こうしたことを知り、なぜ自分の場合、誰かと一緒に過ごす時間が一番幸せとは感じられないときもあるのだろう、と不思議に思った人もいるかもしれません。人と一緒に過ごす時間のなかにも、重要な違いがあります。単に誰かと一緒にいるからといって、強い帰属意識や友情、親近感を抱くわけではないのです。
私の場合、「社交的な活動」の一部は幸せの評価点が最高点でしたが、かなりネガティブな評価をしたものもあるし、それ以外はほとんどが中間点前後でした。教え子の場合、たとえそれが友達やパートナーと一緒だったとしても、「テレビの視聴」が最も幸せな活動のリストに含まれるケースはほとんどありません。
代わりに、リストのトップ3にあるのはたいてい、「妻と夜の散歩」「友達とハイキング」「ボードゲームでルームメイトに勝つ」「妹とのディナー」「娘とのコーヒー・デート」などです(最後は私のものです)。
これらの活動を構成している重要な要素は、単に自分以外の存在があることではありません。「その相手と一緒に過ごすことが第一の目的になっている」という点なのです。一緒に過ごす相手とのよい関係性がよい投資になる、と理解することで、幸せになれるであろう時間をさらに幸せにするにはどうすべきかの理解が深まります。
幸せな活動の共通点(2)外へ出ること
幸せの探求をさらに押し進めるべく、別の共通点を見てみましょう。学生たちがよく挙げる幸せな活動には、屋外で行われるという共通点も見られました。外に出て空の下にいるだけで心身が健康的になるのは、誰にとっても同じようです。
確かに、私の講座は1月に南カリフォルニアでスタートすることを考えると、そんなに驚く話ではありません。つまり、自分の活動時間を記録する際に、学生たちはニュースやSNSなどを通じて、自分がいかに天候面で恵まれているかを常に思い出させられます。
とはいえ、このデータポイントは、単に天候だけの話ではありません。例えば同じ冬の期間、ニューヨークやニューハンプシャーのような寒い地域にいる学生も、屋外にいることをポジティブな特徴として挙げているのです(コロナ禍ではリモートで講義を行わなければならず、学生はどこからでも出席できました)。
屋外にいると、間違いなく気分が上がります。運動が人の幸せリストに入るか、不幸せリストに入るかは、屋外か否かが違いとなります。また屋外で過ごすか否かは、夕食後のひとときが幸せリストに入るか(「妻と夜の散歩」)、入らないか(「妻と一緒にテレビ」)も予測できます。当時コロラド州に住んでいた教え子の男性は、自分の最も幸せな活動リストを分析し、こう言いました。「最も幸せな活動は三つともすべて、画面から離れて屋外にいるときだ」
学生たちがリストを観察して気付いた内容は、イギリス人2万人を対象にした、ジオロケーションの研究による結果と一致しています。研究では、参加者がイギリス国内のどこにいるかと、幸せとの関連性を調べました。研究者らはスマホのアプリをつかい、参加者の位置情報や、屋内、屋外、車内のどこにいるかを終始把握できました。また、屋外環境の記録も取れました。参加者は無作為のタイミングで、アプリから通知を受け取り、今その瞬間どのくらい幸せか点数をつけるよう求められ、何をしているか聞かれます。
100万件以上のデータからはじき出された結果は、明白でした。人は、屋外にいるときの方が幸せなのです。さらに、屋外での幸福感の高まりは、次の点に依存しません。
(1)天気(ただし、晴れていて暖かい方が幸福感は高い)
(2)活動の種類(ただし、データに見られた、幸福感が特に高まる活動のなかには、ガーデニングやバードウォッチングなど屋外でしかできないものも)
(3)環境(ただし、都市環境よりも自然や緑のなかにいる方が、幸福感が高い)
大切なのは、屋外に出る、それだけです。ところが残念ながら、自らの意思か義務かによらず、人は毎日約85パーセントの時間を屋内で過ごしています。
だからこそ、私はトレッドミルが好きではないのです。朝のランニングで外に出ることは、私にとってずっと大切なことでした。ロサンゼルスでのみならず、フィラデルフィアにいたときも同じでした(唯一の違いは、フィラデルフィアでは厚着をして、耳を寒さから守るヘッドバンドをしていたことくらい)。
元婚約者と一緒に住んでいたパロアルトの家を引き払ったあと、大枚をはたいて少しだけ家賃の高いサンフランシスコのマンションに引っ越しました。サンフランシスコ湾から数ブロックだったからです。ルームメイトがステキだったことに加えて、毎日外に出て、ゴールデン・ゲート・ブリッジの壮大な眺めを見ながら体を動かせるのは、私が幸せを再び取り戻すために大切なポイントでした。
ということで、運動にせよ、電話の受け答えにせよ、その活動を屋外でできないか、検討してみ
てください。気分が上がるうえに、新鮮な空気を味わえるはずです。
幸せでない活動の共通点
前述の通り、最も幸せでない活動をよく調べることからもまた、時間を賢明に投資するにはどうすべきかの洞察を得られます。つまり、どこに時間を費やすべきでないかがわかるのです。
人は悲しみに暮れるとき、自分ひとりだと思いがちですが、不幸せの根本的な原因は実のところ、みんな同じです――人間とは、わかりやすい生き物なのです。
ある活動が三つの基本的な欲求――(1)関係性(人とつながっているという感覚)、(2)自律性(自力でコントロールできるという感覚)、(3)有能感(自分にはできるという感覚)――のどれかを妨げる場合、自分は不幸せだと感じる可能性が高くなります。それでは、どの活動を避けるべきかを知るべく、三つをそれぞれもう少し詳しく見てみましょう。
孤独はつらい
これまで見てきた通り、私たち人間は、帰属意識を感じたい、他者とつながりたいというニーズを生まれながらにして持っています。だからこそ、人とつながる活動を最も幸せだと感じやすいのです。
その一方で、単独での活動は、最も幸せでない活動に挙げられがちです。ただしここで重要なのは、一人でいることや一人で行動することは、必ずしもネガティブな経験ではないという点です(私の場合、子どもや同僚から常に何かしらを求められているため、たまに自分だけの時間が手に入ると心から嬉しく思います)。
とはいえ、何かの活動のせいで孤独を感じるとき(例えば、人が誰かと楽しそうにしている様子をSNSで見るなど)、感情的な打撃となります。ジョン・カシオポが名著『孤独の科学』(河出書房新社)で書いているように、うつに最も直結するのは、孤独感です。
孤独感を避けるために、毎日少なくとも一つは、人と関わる活動をするようにしましょう。簡単
なことでよいですし、時間をかける必要もありません。
例えばスマホのSNSアプリをすべて閉じ、友達と実際におしゃべりするために電話をかけましょう。あるいは職場で、自分の近況について心の通った会話をするべく、同僚に話しかけてみましょう。働いている場所に誰もいない場合、人がいるところへ行き、誰かに話しかけてみましょう。
見知らぬ人に話しかけても、思ったほどギクシャクした状態にならないことは、複数の研究が証明しています。しかも最終的には、その会話のおかげで、あなた自身も話しかけた相手も、人とのつながりや幸せをかなり感じるはずです。
内気な人にとっては、こんなふうに自分の殻を破って外へ出ていくなんて、恐ろしいと感じてしまうかもしれません。でも、同じく内向的な私の言葉を信じてください。恐ろしい経験になるとは限りません。今より大きな幸せを選ぶための小さな努力だということを、忘れないでください。
勇気がいりますが、近所のカフェで試してみるとよいでしょう。次回コーヒーを飲むときは、自宅でいれる代わりにコートを着てカフェへ行き、列で待っている間に誰かに話しかけてみましょう。
まったく知らない人に話しかける際、ロブのようにいきなりヘビーでプライベートな質問をするのはおすすめしません。つまり、「人間関係親密性誘発タスク」の最後にあるような質問から始めてはいけないということです。代わりに、例えば天気や、ちょうど通りかかったかわいい犬など、一緒にいる空間にある何かを明るく口にしてみましょう。月並みに聞こえるかもしれませんが、気軽かつ心地よく人とのつながりを作り出せます。
やらないといけないことをやるのはつらい
人は、人生をコントロールしているという感覚を抱きたいものです。つまり、自分の時間をどう過ごすか、選択肢や自由意思があると感じたいのです。そのため人は、何をしろと指図されるのが嫌いだし、しなければいけない活動には不快感を覚えます。
だからこそ、第一の責務である仕事と家事は、最も幸せでない活動リストの大部分を占めるのです。実際にこの二つは、時間記録の調査で特定された最も幸せでない活動三つのうちの二つです。
とはいえ、仕事に関する活動から生まれる不満は、必ずしも仕事そのものではないことが、教え子たちの考察からわかります。それよりも、就業時間のうち、人に管理されていると感じるときや、人のスケジュールに左右されると感じるときが、とりわけイライラします。家庭では、夕食を作らなくてはいけないという感覚のせいで、退屈な家事だと感じます。
時間の無駄づかいはお金の無駄づかいよりつらい
人は、生産性を感じるよう駆り立てられており、目標を達成してそのアイテムをやることリストから外せると、気分がよくなります。そのため、無意味な活動、つまりそこから何の価値も生まれず、そのうえ楽しくさえない活動に時間を費やすと、時間の無駄だと感じます。
私も証言できます。大変な思いで何時間もかけて結婚式の計画を立てていたのに、それが実現しないと気付いたときは耐えがたいものでした。もっと有意義なことにつかえただろうに、はかりしれないほどの時間を無駄にしてしまいました。時間の無駄は、お金の無駄以上に誰もがひどく嫌うことが、複数の研究からわかっています。
時間の無駄づかいがなぜそこまでつらいかというと、お金と違い、失った時間は二度と取り戻せないからです。永遠に消え、返って来ることはありません。
私の教え子たちは毎日の活動のなかでも、「不要な会議」「何も考えずネガティブなニュースばかりをスマホで見てしまう」「通勤・通学」を時間の無駄だと考えており、そのためこれらは最も幸せでないものとして経験しています。
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