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認知症の予防には厳しい「新しい生活様式」の中でできる3つの対策

新型コロナウイルスの流行によって、私たちの生活は大きく変わりました。

ニューノーマルや新しい生活様式では、外出を控える、外出先では人と話さないようにするなど、感染を避けるために特に運動やコミュニケーションの面で制限が生まれています。

ですが、こうした生活様式は認知症の予防にはたいへん厳しいという現実があります。今後10年で国内では認知症の人が700万人を超えると想定されている中で、現在有力な予防法は、主に運動とコミュニケーションに関するものが多いからです。

認知症専門医で『科学的に正しい認知症予防講義』(翔泳社)を執筆された浦上克哉さんは、「外出を控えて家に閉じこもっていると運動量が減り」「以前のようにお友達と会うこともできず、コミュニケーションの機会を持ちにくい」と書かれています。

認知症は、発症の可能性を高めるリスク因子が40%まで明らかにされており、5人に2人は防げる病気になってきました。予防法は運動機能と認知機能を刺激することにありますが、ではこのウィズコロナの時代にはどんな方法が有効なのでしょうか。

本書では3つの方法が提案されています。今回はそれらが解説された「ウィズコロナ時代の認知症予防」のパートを抜粋して紹介します。

認知症の予防は、発症の原因物質が蓄積し始める20年近く前から行なっていかなければなりません。自分自身や家族、知り合いの認知症リスクを減らすために、本書を活用していただければ幸いです。

◆著者について
浦上 克哉(うらかみ・かつや)
2001年4月に同大保健学科生体制御学講座環境保健学分野の教授に就任。2005年より同大の医用検査学分野病態解析学の教授を併任。2011年に日本認知症予防学会を設立し、初代理事長に就任。日本老年精神医学会理事、日本老年学会理事、日本認知症予防学会専門医。

◆執筆協力
田中 留奈(たなか・るな)
2011年より医療者向けウェブサイト(m3.com)の編集者・メディカルライターとして従事。2019年より独立して「伝わるメディカル」を開業。日本認知症予防学会、日本医学ジャーナリスト協会の会員。
以下、『科学的に正しい認知症予防講義』の「講義3 「3つの習慣」で認知症リスクを増やさない」から「5 ウィズコロナ時代の認知症予防」を抜粋します。掲載にあたって一部を編集しています。

認知症予防は危機的な状況に追い込まれている

いま、日本の認知症予防は危機的な状況を迎えていることをご存じでしょうか。2020年に入ってから、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっています。

感染を防ぐために、緊急事態宣言下では極力外に出ないようにする自粛生活を強いられ、その後は新しい生活様式によってウイルスと共存しながら社会・経済活動を回していくという「ウィズコロナ時代」に突入したことは、よくご存じだと思います。

なかでも高齢者は、感染したときの重症化リスクが高いといわれており、自主的に自粛生活を続けておられる方も少なくないようです。

しかし、自粛生活や新しい生活様式は、認知機能にとっては最も悪い生活です。ここまで読んでこられた方なら、感染予防のための生活は、認知症予防のための生活とは正反対であることにお気付きではないでしょうか。

外出を控えて家に閉じこもっていると運動量が減ります。以前のようにお友達と会うこともできず、コミュニケーションの機会を持ちにくいですし、テレビを付ければ怖い感染症の話題ばかりで気が滅入ってしまいます。

ソーシャルディスタンス(人と人の距離を2メートル空ける)も、耳の遠い方との会話を難しくします。私も病院で患者さんと離れて診察しているのですが、非常に難しいと感じています。

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日本認知症予防学会の会員を対象としたアンケート調査でも、新型コロナウイルス感染症に関連して「高齢者の認知機能が悪化した」と答えた人は約半数もおり、「身体の病気が悪化した」と答えた人も2割強いました。

これは主に医療者や介護・福祉関係者が回答した結果ですので、もともと病気をお持ちの高齢者の状況を示していると考えられます。

しかし、健康であっても、感染を恐れて外出を控えておられる方は多いです。遠方に住むお子さんから「危ないから絶対に出ちゃダメ」などといわれると、なおさら家に閉じこもってしまいます。そしてどんどん認知機能が悪くなっていくのです。

このアンケートは2020年5~6月に実施したもので、新型コロナウイルスが問題視され始めて数か月程度しか経っていない時点での結果です。ウィズコロナ時代が長引き、事態はより深刻になっているように感じています。高齢者には感染対策だけでなく、よりいっそうの認知症予防対策が必要なのです。

ウィズコロナ時代の認知症予防のポイント

ウィズコロナ時代では、家でもできる認知症予防が重要です。その啓発のために、日本認知症予防学会として提言を出しました(下の図)。

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ここで掲げている対策も、基本は認知症予防の3つの習慣に沿っています。

すなわち、①1日に30分以上は体操や散歩などで身体を動かすようにすること(運動)、②歌や読書、絵画など自分が好きなことを日課にすること(知的活動)、③家族や友人との会話を楽しむこと(コミュニケーション)です。

以下、この3つについて詳しく解説していきます。

①1日に30分以上は身体を動かす

家の中に閉じこもっていると、運動量が大きく低下してしまいます。意識して、1日に30分以上は身体を動かすようにしてください。

家の中でもできる運動はたくさんあります。この本では「とっとり方式認知症予防プログラム」の運動を紹介していますので、参考にしていただけると幸いです。

また、できるだけ散歩や外出の機会を持つようにしてください。外に出たらすぐに感染するわけではありません。要はまめな手洗いや咳エチケットを徹底し、3密(換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面)を避ければいいのです。

都会では場所や時間を選ぶ必要がありますが、田舎なら密になるような場所はそんなにありません。そういったコースを選べば、マスクなしで散歩しても大丈夫です。

スーパーやコンビニなども、混む時間帯は大体決まっています(一般的に10~13時頃が混みやすい)。その時間帯を避ければ、付き添いの人と一緒に買い物に出かけても密にはなりにくいはずです。

ウィズコロナ時代だからといって、ただ閉じこもるだけではいけません。感染予防に注意しながら、これまでよりも意識して運動・外出する機会を作るようにしてください。

②自分が好きなことを日課にする

特に用事がないからと、家でただボーっと過ごしては、認知機能が低下する一方です。何かご自身が好きなこと、楽しいと感じることをやってください。歌を歌う、本を読む、絵を描くなど、何でもいいですが、できれば頭を使って指先を動かすようなことがベターです。色々な柄の布を使ってマスクを作るのもいいですね。

また、この本で紹介している「とっとり方式認知症予防プログラム」の知的活動を参考にして、興味を持てそうなものにチャレンジしていただければと思います。

また、知的活動にしても運動にしても、生活習慣の中に取り入れることが大事です。そのためには1日の過ごし方、日課を決めてやっていくことをお勧めします。例えば午前中は散歩に出て、お昼からは家でパズルを解く、などです。

日課が習慣化すると、認知機能が多少低下したとしても、意外といつまでも一人でできるものです。逆に、習慣化していないことは、認知機能が低下した後に新たにやろうとしてもなかなかうまくいきません。だからこそ、健康なうちに規則正しい生活パターンと認知機能に良い行動を習慣化させておくべきです。

③家族や友人との会話を楽しむ

新型コロナウイルスは、私たちから対面してのコミュニケーションの機会を奪いました。口から飛び出す飛沫が一番の感染源なので仕方がない面はあるのですが、だからといって会話もなく家に閉じこもっていては、認知機能が悪化してしまいます。

しかし幸いなことに、私たちの社会には離れていても連絡を取る方法がいくつもあります。手紙、電話、FAX、インターネットなど、家に居ながらにして外部とコミュニケーションを取ることができるのです。ウィズコロナ時代の認知症予防を考えるうえで、これらの通信手段を活用しない手はありません。

なかでもインターネットは、リアルタイムで相手の顔を見て話ができ、対面に近い形でコミュニケーションを取ることができます。実はこの本の制作も、鳥取と東京をオンライン会議システムでつないで行ってきました。今やなくてはならないツールになっています。

しかし、インターネットは難しいと思っている高齢者の方もいらっしゃると思います。実際に日本認知症予防学会で実施したアンケートでは、高齢者の3割くらいの方しかオンライン機器を利用できていないという結果が出ました。

そのような状況下で、医療者や介護・福祉関係者は担当する高齢者とどうやってコミュニケーションを取っていたのでしょうか。それは「手紙」です。

考えてみれば、昔は「手紙を書く」ということは当たり前だったはずです。今の若い人は手紙を書くのが苦手かもしれませんが、高齢者にとってはお手の物ですよね。かつての経験がコロナ禍において意外と役に立ったということです。

もうひとつ、コロナ禍で悪いことばかりじゃないなと思った点があります。

現役世代の働き方は、朝から晩まで会社に縛られる形から、テレワークの導入などにより自己裁量で場所や時間が選べるようになってきています。これなら周囲の目を気にせず、仕事の合間に両親へ様子伺いの電話をかけられるかもしれません。子どもも休校などで家にいる時間が長くなりますので、お孫さんや親戚などと電話をしたりオンラインで顔を見たりするチャンスも増えるでしょう。

このように、考えようによっては今まで以上に家族間でコミュニケーションを取る機会が生まれやすくなったのではないでしょうか。

「朝の来ない夜はない」とよくいわれます。コロナ禍を乗り越えた先には、以前のように気兼ねなく親戚と集まったり、旅行に行ったり、会食を楽しんだりすることができるように必ずなります。そのとき思いのままに楽しむためにも、ぜひ認知機能や体力を落とさないような生活を心がけてください。

講義のポイント

●密を避けてできる運動はある。1日に30分以上は身体を動かそう
●一人でもできる、自分が好きなことを日課にして頭を動かそう
●オンラインや手紙などを活用して家族や友人との会話を楽しもう


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