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介護施設で体調不良、いますぐ救急車を呼ぶべき症状

介護施設や家庭での介護時、サービス利用者の体調が急変した場合、その場で対応しなければならない症状がある一方で、すぐに救急車を呼ぶべき症状もあります。

スタッフとしていざというときに慌てないために、特にその場での対応が難しい症状についてはしっかり把握し、即座に判断して救急車を呼べるようにしておく必要があるでしょう。

それらの症状について、『急変時対応 介護スタッフのための医療の教科書』(翔泳社)の「PART2 症状別・即救急車を呼ぶべき症状」から紹介します。

今回紹介するのは「意識障害」「しびれ」「激しい頭痛」「めまい」の4つですが、本書ではほかにも多くの症状を取り上げています。介護の仕事をされている方は、ぜひチェックしておいてください。

  • 意識障害

  • しびれ

  • 激しい頭痛

  • めまい

  • ろれつが回らない

  • けいれん

  • 激しい胸の痛み

  • 不整脈

  • チアノーゼ

  • ショック状態

  • 息苦しくなる

  • 激しい腹痛

  • 急な嘔吐

  • 急な下痢

  • 喀血・吐血

  • 突然の下血・血便

  • 誤嚥による呼吸困難

  • 転倒・転落による頭部打撲、骨折

  • やけど

  • 溺水

  • 熱中症

◆監修者について
川邉正和(かわべ・まさかず)

大阪赤十字病院呼吸器外科を経て、2015年かわべクリニック開院。2018年東大阪プロジェクトを設立。『出会うことで、人が動き出し、ともに未来を変える ~穏やかなエンディングをみんなで~』をクレドとして、医療介護職に閉ざさない真の地域包括ケアシステム構築を目指している。

川邉綾香(かわべ・あやか)
2005年より大阪赤十字病院勤務。終末期患者様が救急搬送に至った経緯を知るなかで、『最期まで住み慣れた自宅で療養できる医療』を目的に、2015年にかわべクリニックを開院。すべてをコーディネートできる看護師の育成に取り組み、数多くの講演活動、ブログでの情報発信を行っている。

◆著者について
介護と医療研究会(かいごといりょうけんきゅうかい)

介護・医療関係をテーマに編集・執筆を行うグループ。介護・医療雑誌の取材、執筆などを手がける。介護・医療関係者が在籍し、介護業界をよりよくするために意見を交わしている。

※本書は、2019年1月に刊行された『介護現場で使える 急変時対応便利帖』(翔泳社)を底本として加筆修正を加えた改訂版です。


意識障害 さまざまな原因で起こり緊急を要する

※やったらNG
・自分1人で対処しようとする
  正しい判断や対処ができない可能性も。必ず誰かがそばにいるようにする
・その人のそばを離れる
  やむをえず離れる場合は、回復体位にする

意識障害の原因として考えられる疾患

脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)/脳腫瘍/髄膜炎や脳炎/てんかん/低血糖/
薬剤の影響(糖尿病薬、降圧薬など)/低酸素/アルコール中毒など

意識レベルのチェックに用いるジャパン・コーマ・スケール

意識レベルを示す尺度として、日本ではジャパン・コーマ・スケール(JCS)が用いられています。3-3-9方式とも呼ばれ、意識障害が重いほど数字が大きくなります。

一時的に気を失っていたが、意識が戻った場合

一時的に気を失うことを「失神」といい、「突然起こる短時間の意識消失」と定義されます。原因は、脳の血流が一時的に減少すること(一過性脳虚血発作)や低血糖などです。一過性脳虚血発作(TIA)は、頸動脈や心臓でできた血栓(血のかたまり)が、脳の血管に詰まるなどして起こります。

血栓が小さかったり、すぐに溶けてしまえば血流は戻り、意識も回復します。ただし、その後(※)本格的な脳梗塞を起こすことが多いので、決して見過ごさず、主治医に報告して指示を受けましょう

※ TIA発症後90日以内に脳梗塞を発症した人のうち、約半数はTIA発症後48時間以内に脳梗塞を発症したという報告があります。また、TIA発症後90日以内に脳卒中を発症するリスクは15~20%といわれています。

一過性脳虚血発作のチェックリスト

▶ 一過性脳虚血発作の症状
□ 失神
□ 顔の麻痺、手足の麻痺、言葉の障害(ろれつが回らない、言葉が出てこない)
□ 片目が見えなくなる(見えにくくなる)
□ 症状の持続時間は5~10分程度。ほとんどは24時間以内に消える

▶ バイタルサイン以外の症状もチェック
□ けいれんの有無
□ 手足のしびれ、麻痺の有無
□ 嘔吐の有無
□ 失禁の有無
□ 冷や汗の有無や顔色、チアノーゼの有無
□ 目(眼球)の動きや瞳孔の状態
□ ろれつが回らない、言葉が出てこないなど言葉の障害の有無

●ベッド上で意識を失っていたら?
ベッドを平らにし、枕ははずして、顔を横に向けます。心肺停止の場合は、心肺蘇生・AEDを行い、救急車を呼びましょう。

しびれ 体の片側だけに急に起こると危険

脳梗塞で最も多い症状は運動麻痺

脳梗塞で最も起こりやすい症状は、体の右半身あるいは左半身にだけ力が入らなくなる運動麻痺です。次に多いのは、ろれつが回らなくなることや、言葉が出てこなかったり理解できなくなったりする言葉の症状で、脳梗塞の約半数に出現します。

▶ 覚えておきたい脳梗塞の症状
□ 顔のゆがみ
□ 急に手足から力が抜ける
□ 片足を引きずっている
□ ものにつまづく
□ ふらついてまっすぐ歩けない
□ 片側の手足だけがしびれる
□ ろれつが回らない
□ 言葉が出ない、言葉を理解できない
□ 急なめまい
□ ものが二重に見える
□ 片側の目だけ、一時的にものが見えなくなる

脳梗塞の症状が短時間で消えたときは

脳の血管が一時的に詰まったものの、血栓(血のかたまり)が小さくてすぐに溶けてしまうと、顔のゆがみ、手足の脱力、言葉の障害(ろれつが回らないなど)といった症状も短時間で消えます。このような症状を一過性脳虚血発作(TIA)といいます。TIAは本格的な脳梗塞の前兆なので、決して放置してはいけません

※やったらNG
・しびれのある側を下にして寝かせる
  しびれのある側は血流障害を起こしやすいので、圧迫してはいけない
・無理に移動させる
  無理に動かすと、しびれの症状がひどくなる可能性がある

しびれの原因として考えられる疾患

脳梗塞/脳出血/脊椎症/椎間板ヘルニア/手根管症候群/肘部管症候群など

どんなしびれ?

「しびれ」と一言でいっても、症状はいろいろです。どんなしびれか、体のどの部位にしびれが起こっているのか、症状の特徴とそこから疑われる疾患などを、必ず確認しましょう

「FAST」を覚えて、脳梗塞を含む脳卒中に対応!

脳梗塞の場合、発症から4.5時間以内に、「経静脈血栓溶解療法(t-PA療法)」を行うことによって、約4割の患者さんは症状がほとんどなくなる程度まで回復します。

経静脈血栓溶解療法とは、t-PAという薬剤を点滴する治療法です。

しびれは、脊柱管狭窄症や糖尿病性神経障害などの慢性疾患でも見られますが、脳梗塞や脳出血などが原因の危険なしびれを見逃さないようにしましょう

激しい頭痛 重篤な病気の可能性大

突然頭痛が起こる危険な疾患

くも膜下出血/脳内出血/慢性硬膜下血腫/髄膜炎/脳炎

くも膜下出血の頭痛の特徴

くも膜下出血の頭痛の特徴は、今までに経験したことのない激しい頭痛が突然起こることです。「ハンマーで殴られたような痛み」と表現する人も多いようです。くも膜下出血は死亡率が高く、約半数は即死か昏睡状態となり、病院に運ばれて治療を受けても、後遺症なく元気になる人は25%ほどです。

項部硬直とは

首の後ろが硬くなり、首を前に曲げようとすると力が入って曲げられなくなる(抵抗がある)ことをいいます。髄膜炎やくも膜下出血に見られる症状のひとつで、炎症や出血の影響で髄膜が過敏になって起こります

※やったらNG
・鎮痛薬を飲ませて様子を見る
  危険な頭痛で、むやみに鎮痛薬を服用すると、診断や治療の妨げになる
・無理に動かす
  血圧が急変する可能性がある。激しい頭痛の場合は安静を保つことが大切

●普段飲んでいる薬が効かないときはどうする?
頭痛もちの人は、「いつものこと」と誤解して、重要な病気が原因の頭痛を見逃してしまうことも。普段と痛みや痛む場所が違うときや、いつも飲んでいる薬が効かないときは、すぐに病院を受診させましょう。

頭痛の基礎知識

頭痛は、大きく2種類に分けられます。ひとつは原因疾患のない頭痛(一次性頭痛)で、いわゆる「頭痛もち」の人の頭痛です。もうひとつは脳などの病気が原因で起こる頭痛(二次性頭痛)で、くも膜下出血による頭痛などはこちらに含まれます。

二次性頭痛は生命にかかわったり、治療しても重い後遺症が残ることもあるので、見逃さず、迅速に治療につなげることが重要です。

▶ 二次性頭痛を疑うサイン
□ 急または突然発症する頭痛
□ 50歳以降に発症する頭痛
□ 頭痛パターンの変化または最近発症した新しい頭痛
□ 姿勢によって変化する頭痛
□ くしゃみ、咳、または運動により誘発される頭痛
□ 痛みや症状が進行する頭痛、非典型的な頭痛
□ 外傷後に発症した頭痛
□ 鎮痛薬使用過多もしくは薬剤新規使用に伴う頭痛
など

▶ 頭痛以外の症状もチェック
□ 吐き気、嘔吐
□ しびれや麻痺
□ ろれつが回らないなどの言語障害
□ めまい、ふらつき
□ 意識レベル
□ けいれん
□ 呼吸の状態
□ 発熱

●救急車が到着するまで何をする?
利用者の安静を保ち、衣服をゆるめます。このとき、そばを離れずに声をかけながら症状を観察してください。発症時間やバイタルサイン、意識レベル、症状などを記録します。呼吸困難が現れた場合は、仰向けにして気道を確保し、AEDの準備(電気ショックを行うかどうかはAEDの指示に従う)をします。その後、主治医や家族に連絡をしましょう。

●救急隊に正確に状態を伝える
救急車が到着したら、「いつから・どこが・どのように痛むのか」を伝えましょう。バイタルや意識の有無、手足の脱力の有無、吐き気の有無、出血の有無も併せて伝えます。

くも膜下出血でも、強めの頭痛が続いている程度のことも。経験のない頭痛があるときは、痛みの状態やバイタルサインを確認して主治医に連絡しましょう

めまい 脳血管障害や脳腫瘍の可能性も

めまいの原因

めまいの原因としては、脳梗塞や脳出血などが考えられます。また、これらのほかに視力の異常、血圧の低下、うつ状態、低血糖、脱水などもめまいを引き起こすことがあります

※やったらNG
・歩行での移動
  転倒の危険があるので、必ず車いすなどを使って安全な場所に移動する
・ただのめまいと軽視する
  めまいの原因の判断は難しい。とくに、めまい以外の症状がある場合は要注意

めまいの種類と特徴

めまいには、「回転性のめまい」「浮動性のめまい」「立ちくらみのようなめまい」があります。それぞれ症状や原因が異なるので、「めまいがした」という訴えがあったら、どんなめまいか利用者に確かめて記録しましょう。

▶ めまい以外の症状をチェック
□ 吐き気、嘔吐
□ しびれ、麻痺
□ ろ れつが回らないなどの言語障害
□ 頭痛
□ 意識レベル
□ 難聴
□ 耳鳴り
□ 耳が詰まった感じ
□ 冷や汗

●救急隊に何を伝えたらよい?
救急隊には、いつからめまいが続いているか、どれくらい続いているかを伝えます。そのほか、バイタルやめまいの種類、頭痛や手のしびれ、麻痺、ふらつきの有無、持病や服用している薬の有無を伝えましょう。

これは危険なめまいかも……と見抜く力が大切。さまざまな原因で起こるめまいですが、危険なめまいの特徴をしっかり押さえておきましょう

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