アメリカのエリート学生も学ぶ、アドリブでうまく話せるようになる方法
人前で急に話を振られたら、どうしますか?
アドリブでいい感じに受け答えできたり、自分の意見をすらすら述べられたりできたら理想的ですが、多くの場合、そうはいきません。
日本でも同様の結果かもしれませんが、アメリカでのアンケート調査によれば、アメリカ人はほかの何よりも「人前で話すこと」を恐れているそうです。
予測不可能なタイミングで訪れることが多いため、人前で話す機会を避けるのは難しいでしょう。だからこそ、事前に備えておくのが最善策です。
そこで今回紹介するのは、『Think Fast, Talk Smart 米MBA生が学ぶ「急に話を振られても困らない」ためのアドリブ力』(翔泳社)という本です。
本書ではアメリカのMBA生も学んでいる、アドリブで話せるようになる6つのステップが解説されています。不安への対処法やコミュニケーションの取り組み方など、「アドリブに関する才能などない」ことを前提に、誰もがうまく話せるようになるノウハウを学べます。
さらに、応用編として雑談や祝辞、商談、質疑応答などのシチュエーション別の「話し方のレシピ」とコツがまとめられています。本書の内容に従って練習と実践を繰り返せば、間違いなく自信がつく1冊です。
この記事では「はじめに」の一部を抜粋して掲載しますので、「人前で話すこと」が苦手な方はぜひ一読してみてください。
はじめに
「あなたはどう思いますか?」
このシンプルで、一見当たりさわりのなさそうな質問を投げかけられ、返事に困るという経験が、誰にでもあるでしょう。周りから返事を期待されて緊張と不安におそわれ、すくみあがってしまう人もいるかもしれません。
次のようなシチュエーションで「あなたはどう思いますか?」と問いかけられたら――。
大人数でのズーム会議に参加中、うわの空で昼食のことを考えていたのに、上司にいきなり話を振られる
重大発表を台無しにするほどひどいプレゼンを聞き終えて帰ろうとしたところ、せまいエレベーターで発表者と乗り合わせ、感想を求められる
絶対に採用されたい会社に呼ばれた懇親会で、他の社員も同席する中、面接官の役員に意見を聞かれる
広い講堂で高名な教授からランダムに指名される
心構えのない状態でいきなり質問されると、言葉につまり、怖じ気づくものです。すばやく、明確に、少しでも感じの良い答えを返さなければとプレッシャーを感じます。何よりも、下手なことを言って恥をかきたくないという思いに駆られます。
正直に認めましょう。「あなたはどう思いますか?」と不意に質問される時、本音ではこう思っているはずです。「聞かないでくれ!」
即答を求められるのは誰にとっても恐怖
自分の意見を求められる時以外にも、とっさに考えて話す必要に迫られる機会はたくさんあります。結婚式の披露宴で、急に祝辞を頼まれる。オンライン会議にログインしたところ、たった一人で待っていた最高経営責任者(CEO)から話しかけられる。立食パーティーで、仕事に役立ちそうな人脈を紹介される。プレゼンの後に突然、聴衆からの質疑に15分ほど応じてほしいと頼まれる。
厄介な事態に直面し、アドリブでの対応を余儀なくされることもあります。恥ずかしい失言を言いつくろう必要に迫られる。大事な営業プレゼン中にIT機器が故障し、何とか切り抜けなければならない。イライラして発した余計な一言を謝りたい。頭がいっぱいになり、相手の名前や肝心なポイントをど忘れしてしまうことも――。
ほとんどの人にとって、自然発生的なコミュニケーションは恐怖です。米国でのアンケート調査によると、虫より、高所より、針より、ゾンビより、おばけより、暗闇より、ピエロより怖がられているのが「人前で話すこと」。
しかも、これは事前にスピーチを用意できることを前提とした回答です。準備の時間も、台本もメモもない、即興での受け答えに対しては、一段と恐怖感が強まるという調査結果が出ています。
人前で話すことにあまり緊張しないタイプでも、言い間違えたり、言葉につまったり、思うような反応が得られなかったりすれば、冷や汗をかくでしょう。うまく立ち回れない自分に焦るという悩みは、即答を求められる不安と同じくらいよく聞かれます。
このような思いにとらわれていると、当意即妙にそつなく受け答えできるコミュニケーションの達人になろうといくら努力しても、うまくいかない可能性があります。
注目されて緊張するのは当然
どうか試してみてください。まず、胸の前でいつも通りに腕を組みます。そして両腕をいったんほどき、今度は反対の腕を上にして組んでみます。変な感じがするでしょう。
一瞬、どうやって腕を組むのかわからなくなるはずです。思ったように身体が動かずに戸惑い、ちょっとしたパニックに陥ったかもしれません。
即答を求められると、同じような感覚になることがあります。
普段はたいてい、ただ腕を組むのと同じように、自分が何を考え、何を言いたいかわかっています。それなのに、シチュエーションが変わって人前に立たされ、プレッシャーがかかると、頭が混乱し、精神的な余裕がなくなり、怖じ気づいてしまいます。
その時、闘争・逃走反応が生じて胸がドキドキし、手足が震え、「水道管の逆流」と呼ぶべき現象が起きます。つまり、通常は乾いている部分(手のひら)が汗をかき、通常は湿っている部分(口の中)がカラカラになります。
いつもの調子を取り戻せないまま、言葉につかえ、しどろもどろになり、言いよどみます。話が脱線します。立っていれば足元ばかりに目がいき、座っていればイスの中で縮こまります。落ち着きがなくなり、何度も「ええと」「あの」を繰り返します。
「アドリブの才能」なんてものはない
即興で受け答えできる能力は、生まれつきの性格や才能の一部だと思われがちで、「できる人にはできるし、できない人にはできない」とよく勘違いされます。私たちは「恥ずかしがり屋だから」「数字の方が得意な人間だから」などと言い訳し、素質に恵まれていないと自分を納得させます。頭の回転が遅いから無理だと決めつける人もいます。
たった一度の出来事で、もう一生うまくコミュニケーションできないと思い込むこともあります。図書館で働くアーマは60代後半で、孫娘の結婚式にその場でぴったりの言葉を選んで贈りたいけれど、立ち上がって話すことを考えただけで背筋が寒くなると言います。
どうして怖いのか聞いてみると、何十年も前の高校時代の経験が原因だと話してくれました。教師の問いかけに答えたら、「これまで教え子から聞いた発言の中で一番出来が悪く、ばかげている」と言われ、クラス全員の目の前で恥をかかされたそうです。
これがきっかけで、アーマは人の集まる場所を避けたがるようになり、その後の生き方も大きく変わりました。司書という職業を選んだのは、仕事上で唐突なコミュニケーションにわずらわされずに済むからです。考えてもみてください。たかが一度、受け答えに失敗しただけで、アーマは人生の選択肢を大幅に狭めることになったのです。
極端な例に聞こえるかもしれませんが、似たような行動を取っている人は少なくありません。過去の失敗によって受け答え能力の低さを思い知らされ、なりゆきで話すことに強い恐怖を抱くようになります。すると、あがってしまってパフォーマンスがさらに悪化し、緊張感がいっそう強まり、ますます話し下手になるという悪循環に陥ります。
不安な気持ちがさらにふくらむと、「こんなのできない」という考えばかりが頭に浮かぶ状態になり、人目を避け、たとえ優れたアイデアや意見を持っていても発言しなくなります。
自然発生的なコミュニケーションに苦手意識を持ち、うまくできないままでいると、仕事や人生でつまずきかねません。
私が何年も前に勤務していたIT系の小さなスタートアップで、同僚のクリスが目玉製品の位置付けについて素晴らしいアイデアを思いついたことがあります。戦略の組み直しを必要とする大胆な提案だったため、社内で徹底的な検討が行われました。詳しい説明を求められ、厳しいながらも当然の質問を突きつけられると、クリスは固まってしまいます。
緊張して、的外れであいまいな返事を続けるばかり。上司も同僚もがっかりして彼の意見に耳を傾けなくなり、せっかくのアイデアが正当に評価されませんでした。
最終的にクリスは解雇されましたが、その6カ月後に何と、まったく同じアイデアの採用が社内で決まります。唯一違ったのは、いきなり質問を浴びせられても、新しい社員を迎えた担当チームが説得力をもって的確に説明できたことでした。
Think Fast, Talk Smartを達成するには
とっさに話すのが苦手なアーマやクリスのようなタイプにも希望はあります。本書を通じて、皆さんにそう理解してもらえると嬉しいです。
生まれつき外向的で気後れせず、機転が利き、口が達者な人はいます。しかし、素質に欠けるからと言って、不得意なままとは限らず、そう生きることを運命付けられたわけでもありません。自然発生的なコミュニケーションに最も重要なのは、もともとの適性でも性格でもなく、話すという課題へのアプローチ方法です。
思考のスピードを上げ、よりスマートな話し方を身につけること(Think Fast, Talk Smart)は、誰にでも可能です。
人当たりが良く、社交的で、話し上手だと自負している人も、本書で紹介するメソッドと、文脈ごとに適した型を取り入れれば、さらに自信と余裕を持てるようになります。
メソッドには6つのステップがあります。
1つ目のステップは、どんなコミュニケーションでも人は緊張するもので、アドリブで話そうとすればなおさら神経がすり減るという常識の再確認です。不安への対処法を各自に合った形で作り上げ、気持ちを落ち着けることを学びます。
2つ目のステップは、コミュニケーションへの取り組み方と、自他に対する評価の仕方の見直しです。受け答えを求められた時、相手と関係を構築し、手を取り合うための機会だと考えられるようになります。
3つ目のステップは、心構えをあらため、リスクを恐れず、ミスをしても「映画のワンシーンの撮り直しみたいなものだ」と気持ちを切り替えられるための取り組みです。
4つ目のステップでは、相手が何を話しているか(そして何を話していないか)に耳を傾けつつ、自分の内心の声や直観にも注意を向けられるようにします。
5つ目のステップでは、メッセージをよりわかりやすく、的確に、説得力をもって伝えられる話の組み立て方を学びます。
6つ目のステップでは、話の焦点を絞り、相手の心に届く形でわかりやすく簡潔に伝えることを通じ、肝心な部分から聞き手の注意をそらさない方法を身につけます。
6つのステップで紹介されるテクニックの一部は、話しているその瞬間から実践できます。とはいえ、6つのステップに含まれるスキルの数々は基本的に、いつか求められるであろう突然の受け答えに備え、時間をかけて育まれることを前提としています。
アドリブで話すための一番の秘訣は、練習と準備にあります。時間をかけて古い習慣から脱却し、行動を意図的に選択することを学べば、誰でも優れた話し手になれます。
逆説的ではありますが、突然のシチュエーションをうまく乗り切るには、事前の準備が必要なのです。自分の考えや個性を最大限に引き出すためのスキルを鍛えなければなりません。
新しいスキルを学ぶに当たり、自分にプレッシャーをかけすぎないようにしましょう。とっさの場面でも優秀なコミュニケーターとなるには、時間がかかることを忘れないでください。すぐに完璧になろうと焦る必要はありません。
自然発生的なコミュニケーションの能力を磨くには、粘り強さ、意志の強さ、そして自分へのいたわりが必要とされますが、私の教え子やクライアントたちが知っている通り、人生を大きく変えるほどの効果があります。
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