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【魔女と獣とふたり旅】くさび石となまけた龍と溶岩湖(3/10)【TRPG/リプレイ/完結済】

どかり…と置かれた石柱の大きさに…いや、それを砕いた細腕に、否が応でも目の前の女児が”龍”だと認識させられる。

―しかし、たしかにこれは。

「…!…これは上質な!いえ、特級品ですよ!!」
「そうだろう?そうだろう?」

女児、もとい龍は微笑む。

「我はこれを最上としていたのだ。…だが、より美味いモノが食えるとあらば。例えそれが秘蔵の一品であったとしても、喜んで渡そう。」
「ふ~む。なるほど。腕によりをかけなければ...。…やっぱり周りの環境もあって”火”が強めだな…。」

顎に手を当てて思案を巡らせる。

「...そうだ!」

思い付いたように魔石が入った袋から数種類取り出して並べ始める。
 
「これとこれだったらどっちが”美味しそう”ですか?」

赤と青の魔石を指さしながら。
 
「……?! …赤、それは炎の魔力。我が好む気候は灼熱故に、赤の魔石は好きだ。かといって冷気を帯びた青も捨てがたい……。時として、別の味を食すと飽きも感じにくいからな…」

急に言葉数が増える。

「甲乙つけがたい。難題だ。……強いて言うなら……」
「強いて言うなら?どっちです?」
「………。…………。……………。………………………ッ!!」

女児龍は、長考に長考を重ねた結果、赤を指さした。その顔にほんの少しの後悔が滲み出ていた。

「...まぁ、その日の気分でもいいんですよ。青が欲しい時はまた言ってくれて大丈夫ですから。」
「そ、それならばいい。」
 
スフィは、女児龍の滲み出た感情に人間味を感じ、思わず笑顔で返す。そして黄色と緑の魔石を指差しながら聞く。
 
「じゃあ、次は...これと、これです。」
「………!!」
 
女児龍は上体を仰け反らせ、両手で頭を抱えた。

「…貴様…!!我に苦渋の選択を強いて愉しんでいるのか…?!そうだな?! そうに違いない!!」

苦しい表情を湛えた女児龍は、震える人差し指で黄色の魔石を指さす。

「えぇ~…そんなつもりじゃ…。……あっ。」

スフィは女児龍の口元に光るものに気づく。
女児龍は、すかさず吸い込んだ。
 
「…もしかして、これも食べたいです?」
「愚問だ。愚問過ぎるぞ。全てだ、全てを喰らいたい。黄は大地、緑は植物の生き生きとした魔力が内包されている。美味いに決まっている。」
「…我が種族は魔力の浪費が激しいが故に、基本的に好き嫌いは無い。魔力の量があって、尚且つ質が良いのが最高だ。今、出された物の全ては量・質の両面で最高評価だ。」

まくし立てる女児龍。スフィは能天気に返答する。

「へぇ~そうなんですかぁ。あ、じゃあ食べてもいいですよ?前菜ってことで。」
「!? ……本当か?!」
「え? はい。」 
「…では遠慮なく!!」

手に取り、素早く口の中に放り込む。

「!?!?!?」
「は!??!?!」 
「…美味い……!!……な………んなんんだこれは………!?」
「んふふふ~。まだ前菜ですよ!」

美味しそうに食べる姿に思わず頬が緩む。

「さて、龍さんの好みは”火”、”土”...相性が良さそうなのは”森”かなぁ~。っと。」

自分の造った試作品を平らげていく龍を横目に、石柱から取り出した鉱石を彫刻刀で整えていく。

「いいねぇ~。美人さんだね~!もっと可愛くしてあげるからねぇ~!!」

かりかりと小気味よい音を立てながら、鉱石をノリノリで加工していく。

「...よし!こんなもんかな!」

完成した”美味しい”魔石は巻き上がる炎のように黄と赤の光を放っていた。

「ここで隠し味~...ふふふ。」

土の魔力の流れを変えて、”森”のフレーバーを追加する。火のエネルギーもまた、森に活力を与えるように。

「うん!いい出来!とびきりのカワイ子ちゃんでちゅね~~~!!」

スフィは恍惚とした表情で両手に魔石を掲げる。女児龍は出来上がった魔石をまじまじと見つめる。

自給自足の為に、魔石を作る工程をジィ…と見つめていたが、何一つ分かる事は無かった。やはり自分では作れないのか…と絶望しつつ、これから出来る魔石を食べてもいいという希望に縋る。

「……出来たか?」
「えぇ。出来ましたよ!”美味しい”魔石を造るなんて初めてでしたけど、上手く行ったと思ってます!」
「では、本当にいいんだな?」
 
念押しの確認をする。

「どうぞ。召し上がれ~。」

完成した魔石【溶岩湖の畔~森林の香りを添えて~】を配膳する。女児龍は複雑に輝く魔石をまじまじと見つめる。

「…よし」

右手で恭しく摘まみ、口を大きく開け、ポイッと放り込んだ。

「???!???!??!??!???!???!???!」

驚愕で目が見開かれる。めっちゃ噛んで味わっている。ガリボリバリと豪快な音を響かせながら、飲み込んでいく。
 
「この灼熱の地で、炎の魔力は分かる、大地故黄も理解できる。 が…緑だと…!?美味いー!!!!美味すぎるーーー!!!!」

雄叫びは山中に響き渡るのであったーー……


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