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フランス美術史をたどる箱根?

会社の休暇制度を使って家族で箱根に行ってきた。私にとって妻と子供と3人での旅行というのは何気に初である。まあ子供が産まれてから基本ずっとコロナだったからこれもやむを得ない。初めての家族旅行として選んだ場所が箱根だったのだ。思えば日本の中でも箱根と言うところは非常に希少な場所だと思う。

・首都圏から近い(ロマンスカーで新宿から1時間半)
・自然がいっぱい(迫力ある大涌谷や美しい芦ノ湖など)
・ケーブルカーやロープウェイなど乗り物も多種類(子供が喜ぶ)
・温泉がある(つかの間の休息)

などなど、なかなかここまでしっかりそろっている場所と言うのは珍しい。今回の旅行では外国人の方々の多さにも驚いた。考えてみれば箱根のようなスポットは外国にもそうありはしない。つくづくイザナミ様とイザナギ様は素晴らしき贈り物を我が国にくれたものだと思う。

そんな箱根に魅せられたのか、箱根に多くの別荘や高級ホテルがあることは周知のとおり。都会の生活に疲れた多くの日本人が、休暇での非日常を求めここに別荘やホテルを作ったのもうなずける話だ。手軽に我々を都会の喧騒から解放してくれる、そんな魅力を箱根は湛えている。

さて、箱根と言ったらもう一つ忘れてはならないのが「美術館のメッカ」だということだ。私は今回家族に許可をもらいあちこちの美術館をハシゴした。当然駆け足にならざるをえなかったが、これだけクオリティの高い美術館が周囲の風景に溶け込んで存在していること、これは大いに日本が誇るべきことである。ポーラ美術館

にて日本人が特に好きなフランス美術を眺めつつ、人間の美意識について思いを馳せる。

(余談だが、日本には少々アクセスは悪くとも周囲と調和した高クオリティの美術館が多い。直島をはじめ瀬戸内海の島々、島根の足立美術館、青森の十和田美術館など、いずれも美術ファンには必須のスポットである。)

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19世紀前半、産業革命をきっかけに資本主義が一気に台頭、ヨーロッパの主要国は一気に都市化していった。フランスにおいても例外でなく、都市には工場が林立し人々の生活も周囲の風景も一気に様変わりしていった。この産業革命という大きすぎる変革から、芸術界も無関係だったはずがなかった。
巨大な工場群、高層化していく建造物、都市には車両があふれ大気汚染で空気は霞んでいく。競争に敗れた人たちは路上に放り出され、夜の街には情婦が並ぶ。そんな負の側面も生み出しつつ、欧州を皮切りに世界のほとんどの国は資本主義を発展させていった。それと同時に、それまでごく身近なものとして存在していた「田舎の風景」への回顧、郷愁をも生まれ、そこに「美意識」を感じるようになっていった。

こうしてフランスでは、マネらは資本主義社会へ警鐘を鳴らすような作品を発表した。「鉄道」という作品では親子の関係の希薄化を、「オランピア」では娼婦を描き、ナポレオン三世治下で繰り広げられる急速な社会の変化をキャンバスに切り取っていった。また同時に「バルビゾン派」という、パリ近郊のフォーテヌブローの森そばのバルビゾン村あたりに腰を据え、ごく平凡な風景を描く一派も誕生した。ルソー、コロー、ミレーなど、それまで「画材」としてあまり取り上げられなかった田園風景や農民の姿を描く画家が台頭した。そして彼らが確立した画風は、モネやルノワールなど「印象派」へと引き継がれてゆく。

この様に日本でも特に人気の高い19世紀のフランス美術は、まさに産業革命の副産物だったということになる。そういえばこの2月、フランス印象派の表現は、パリの大気汚染の描写だという説が発表された。

大気汚染がフランス印象派生む? 光の散乱強まり風景かすむ | 共同通信 (nordot.app)

上記の学説がその後どこまでの信用を獲得したのか不明だが、取りも直さず産業革命と資本主義の台頭は、芸術面においても新たな表現を生み出したということだ。もし産業革命がなかったら、我々の日常生活もさることながら、芸術だってまた別の様相を呈していたということになろうか。過去の事柄に「IF」はないが、それもそれでまた見てみたかった気もする。(ちなみに音楽界における影響に関しても以前言及したので、下記ご笑覧ください。)

どうも人間は「普通に身近にあるもの」の価値は、「失われないと気付かないもの」らしい。これは芸術に限ったことではない。「孝行のしたい時には親は無し」なんてことわざもあるくらいだから、悲しいかなそれが人間の性分ということなのだろう。

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さて再び箱根である。東京のコンクリートジャングルでの仁義なき戦いの日々に疲れた人々(含自分)が美しい自然風景を求め殺到してくる。これだけ人が多いとあまり「非日常」ってわけにもいかないのでは?とも思うが、まあそれでも十分満足させてくれるだけの包容力を芦ノ湖は持っている。
多くの外国人観光客の方も満足してくれたか、今後日本はコロナ禍以前以上の外国人観光客を呼び込みたいと言っているし、箱根が日本の好印象につながるなら、それはそれでいいんじゃないの?大迫力の大涌谷で妻や子供と写真を撮りつつ、そんなことをふと考えた。

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