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責任の範囲と境界線

 カウンセリングを再開した頃、私には仕事上の悩みがありました。
 カウンセリングを受けて初めて気づいたことですが、私は完璧主義だったんですね。仕事もきちんとしていなければ気が済まないほうでした。
 当時、飲食関係の仕事を主にしていたのですが、そこでは私にとって色んな『気にくわないこと』が起こっていました。

・ほかの人の盛り付けが丁寧じゃない
・職場の物の配置が非効率的
・教えられていないことで注意される
・最初に教わったことと違うことを言われる
・人によって言うことが違う
・お客様のためを思って提案したことを上の人に否定される
・職場の効率化を提案しても、上の人があまりいい顔をしない
・本来上の人がやるべき仕事のマニュアル作成を、私が代わりに行う
・私が一生懸命取り組んだ仕事を無下に扱われる

 私にとって職務上非常に気になる部分が、上の人にとってはちっとも気にならなかったらしく、すれ違いが生まれました。
 私は次第に、職場での居場所がなくなることを恐れ、改善策の提案や不満を呑み込むようになりました。この我慢が、とても苦しかったのです。
 なぜなら、その頃の私は完璧主義で、さらに自分と他人の境界線をうまく引けていなかったから。
『自分だったらこうするのに、なぜそうしないの!? なぜきちんとできないの!?』
 と、心の中は怒りと疑問符でいっぱいでした。
 先生は、「祥さんが感じていることは間違っていないと思うよ」と共感した上で、こうアドバイスしてくれました。
「気になるなと思っても、行動に移すのは三回に一回にしてみて。自分の責任の範囲はどこまでか、と考えてみて。」
 それまでの私は、指示されていないことでも、気になったことは行動に移していました。世話焼きはいいことですが、焼きすぎては自分が疲れ切ってしまうことを学びました。
 なぜ世話を焼きすぎる性格になったのか? 原因はいくつかあります。

・子どもの頃から父に「仕事っていうのは人に与えてもらうのを待ってちゃダメだ。自分で考えて行動するものだ」と言われて育ったから。
・大学の就職活動セミナーで「指示待ち人間はダメです。自分から動く人材が求められています」と教わったから。
・社会に出てからも「自分で気付いて行動しないとダメ」と複数の職場で頻繁に言われてきたから。

 今まで「指示待ち人間になるな」と言われて育った人間が、突然「指示待ち人間になれ」と言われたのです。変わることは容易ではありませんでした。
 だって、「指示待ち人間はダメ」なのだから。行動しないと誰かに怒られる、嫌われる、呆れられる、という強迫観念に駆られていたような気もします。
 行動を三回に一回に減らすよう、辛抱強く自分に言い聞かせました。
 すると次第に気持ちが変わっていきました。
『私はこう思うけど、上の人がそう思うならそれでいい。その結果何があっても、上の人の責任だから。私は悪くない』と考えられるようになっていったのです。
 自分と他人との境界線を上手に引けるようになったことは、私にとってとても大きな進歩でした。

 私と同じように悩んでいる人は、自分と他人との境界線を意識してみると、考え方や行動が変わっていくかもしれません。
 これは決して、相手のために自分を矯正するのではなく、自分のために自分が変わっていくという感覚です。
 相手のためと思うと癪に障ったりして変化が拒まれやすいですが、自分のためと思うと、不思議と変化に心が馴染もうとしていくものです。
 あなたにもきっと、自分で自分を大切にする本能が備わっているはずです。


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