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「高等教育無償化」は少子化対策ではなく、産業育成、技術革新の文脈で語るべき

公明党が統一地方選の選挙対策の一環として政策提言をしています。

個人的には「高等教育無償化」には大賛成です。しかし、この政策を「少子化対策」の文脈で語ることに対して違和感を拭えません。

「高等教育無償化」の内容と対象のミスマッチ

そもそも公明党が掲げる「高等教育無償化」とは具体的にどのような内容を指しているのでしょうか。

「ライフステージに応じた切れ目のない政策」の必要性を指摘。大学などの高等教育無償化の対象拡大を目指すとし、「まずは多子世帯や理工農系学部を対象に中間所得層まで拡大する」ことを求めた。

多子世帯への拡大という方向性は理解はできますが、地方に住む現実とこの政策は乖離しているように見えます。

多子世帯の多くはいわゆる「マイルドヤンキー」層が多く、彼らはそもそも大学進学を選択するという前提条件を持っていません。

この層の特徴は手に職をつけ、地方都市でそれなりに広い家、自家用車で祖父母世帯に子育てをサポートしてもらいながら、子供のころからの友人たちと交流を行いながら生活するというスタイルが一般的です。

彼らに無償化を提示したとして、果たしてどれほどの数に大学進学を訴求することが可能なのでしょうか。

また、理工農系学部に偏っていることも引っかかります。

地方の多子世帯において仮に大学進学を考える場合、進学先は医療系学部を想定しています。

先に述べたように彼らの生活モデルを考えると地元に戻って就職でき、かつ資格を取れる進学先が優先されます。

その結果、看護師などのコメディカル系の大学は人気ですが、理工農などの学部は就職先が全国に散らばるため、本人、保護者ともに乗り気でないケースが多いように感じます。

「高等教育無償化」は成長戦略の一環として考えるべき政策

「高等教育無償化」の受益者は誰かを考えた時、それは大学に進学する個人ではありません。

なぜならば進学者の多くは、大学に行かない生活でも幸福になる選択肢がいくらでもあるからです。

「無償化」によって大学進学者のすそのが広がり、研究力や社会全体の教育レベルの向上の真の受益者は政府であり、国家全体です。

したがってこの政策は国の成長戦略として考える事案であり、福祉政策としてとらえるべきものではないと私は感じています。

事実、大学の学費まで考えて子供を躊躇する世帯はそれほど多くはありませんし、その気になれば奨学金も存在します。

そもそも住民税非課税の世帯などは現在も高等教育は無償で受けることが可能です。

もちろん、現状の学費支援などが十分とは言えません。高等学校の修学支援制度でさえも中間所得層はかなりの負担を強いられています。

子育て支援を考えるのであれば、まずは初等、中等教育の完全無償化をまずは議論すべきでしょう。

補遺:6‐3‐3‐4制の見直しに着手すべき

教育費無償化に関する議論は、どこを無償化することばかりに話が向きがちです。

しかし、高等学校の進学率がほぼ100%に近い状態にある現状において、義務教育を中学校までとするかどうかということから議論するべきでしょう。

高校を義務化するか、あるいは学制改革を行い既存の枠組みを変えることも視野に入れるべき時期が来ているように感じます。

既存の学制の枠外(に近い)である「高専」などにはそうした大学進学を前提としない新たな試みを行う学校も出てきています。

大学入試がシステム化し、既存の制度の小手先の改革では社会にインパクトを与えることが難しくなっているのが、教育産業全体の抱える問題のようにも思います。

ボーディングスクールやフランスのグランゼコールなど、これまでの枠組みを超えた学校制度を考えることも必要なのかもしれません。


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