教員不足の解決案が「官民人材交流」という愚策と財務省の恐ろしさ
小中学校の教員の不足が社会問題となっています。
そんな中、財務大臣の諮問機関、財政制度等審議会で「人材が官民の間で行き来するなど新たな仕組みの導入」を財務省が提案した、というニュースが出ていました。
審議会の中で、財務省からは以下のような提案がなされた、ということです。
免許制度や採用方法を検討し官民の人材流動化を図る
学校ごとに働き方改革の状況を公表し、補助金の要件に盛り込む
1.免許制度や採用方法を変更する
免許制度は人材交流において大きなハードルとなっています。
教員免許は大学での取得要件であるため、働きながら取得することは非常に難しいのが実情です。
教員への転職をよほど真剣に考えてでもいない限り取得しようとする人はいないでしょう。
これまでも特別免許や臨時免許で誤魔化してきたこうした制度は、一度メスを入れる必要はあると思います。
また、採用方法に関しても筆記試験と面接などの一発勝負であり、その結果のミスマッチによる精神疾患や退職も少なくないようです。
実際に現場で何年も講師をしているにも関わらず、採用試験に落ちた場合は採用しないといった不合理な制度であり、現場での経験を踏まえて採用への移行を決定するなどした仕組みが必要でしょう。
そうした点を踏まえると、この指摘自体は決して間違ったものではないようです。
2.働き方改革状況の公開と補助金の要件
学校ごとに働き方改革の取り組み状況を公開し、その結果に応じて補助金額を変えるというのもこれ自体は悪手ではありません。
実際、教員の働き方改革の進捗は教育委員会や校長の姿勢次第で大きく異なるようです。
こういった認識の管理職は決して少なくないようです。
部活動こそが教育である、という自負を持つ中高年教員は多く、彼らにとっては教員の働き方は時間外や休みを度外視して時間を費やせばよいもの、という認識があるようです。
こうした人たちの現状認識を変えるには、予算の増減額といった大ナタを振るうしかありません。
その点ではこの政策自体も決して間違ったものではないように見えます。
財務省のどの口が言うのか
上記の提言自体は決して間違ったものではありません。しかし、本を正せば現在の教育現場の混乱の原因の一つは財務省からの教育予算の削減にあります。
これまでも財務省は教職員の削減を掲げてきました。世界基準からは程遠い1学級40人などの制度が改善しないことに財務省の責任も大きいのです。
(これに関しては業務外にかまける現場教員にも責任はあります)
その結果、働き方改革は一向に進まず、教員の勤務待遇はブラック化しました。
若者からの人気を失い、教員不足が慢性化するという現在の状態の原因の一端は財務省にもあるのです。
さらに言えば、財務省がこうした教育行政の突っ込んだ内容に対して、予算削減やPB改善の観点からだけで指摘を行うことは大きな誤りです。
日本はOECD加盟国の中でも教育費の公的支出が平均以下です。
それほどに教育予算が少ない中で、さらなる予算削減の下心が透けて見える財務省の口車に乗ること自体がとても危険です。
実効性がないどころか、悪化する
そして、それ以上に上記の政策が現状では実効性がほとんどないだろう、ということです。
そもそも現在民間に努めている人のほとんどは、教員をやりたかった人ではありません。また、教員を考えていたけれども待遇面から別の職業を選んだ人達です。
そんな人達を教員という仕事に呼び寄せるほどのインセンティブは現在の教育現場にはありません。
キャリアが中断されたり、福利厚生が下がったりするだけであり、マイナスの影響しかないのです。
むしろ、「官民人材交流」がさらに活発化した場合、教育現場からの更なる人材の流出の可能性のほうが高いでしょう。
また、働き方改革にしても給特法などの通常の規定を運用している以上、労働基準法の厳格な適用は行えません。
さらに、人事委員会などの内部組織で労働問題を扱う以上、労働基準監督署の管轄外であり、違法かつ悪質な労基法違反案件に関しても刑事罰の適用もできないのです。
そうした状況で見かけ上の働き方改革の数値目標を導入すれば、タイムカードの改ざんなど時間外労働が水面下に隠れてしまい、現状よりもさらにブラック化することは目に見えています。
つまり、実効性がないどころか、現状よりも悪化する可能性が高いと言えるでしょう。
財務省の恐ろしさ
そして最も恐ろしいのは、そうしたデメリットを財務省は理解した上でこうした提言を行っているということです。
一時期に比べれば就活学生の人気が下がった官僚ですが、中の人たちは相当なまでに優秀です。
まして中でも優秀と言われる財務官僚がこうしたことに気づかないわけがありません。
間違いなく、予算の削減を意図した提言でしょう。
解決方法は一つ
教員不足の解決方法は、間違いなく時間外労働の削減です。この原因が法律的なものなのか、教員という仕事の特性なのか、部活動なのか、おそらくは複合的な要因でしょう。
そして、この問題を解決すれば、そもそもの教員志望者も増加し、また民間からの転職希望者も増加するのは間違いありません。
しかし、いつとも知れないその解決の大ナタを振るう政治家の誕生や外圧を待つだけでは現状の改善も見込めないでしょう。
まずはできることから、無償奉仕を尊ばない、時間内に仕事を切り上げる、そうした日々の積み重ねから始める必要があるのかもしれません。
私自身は、私学に勤務しているため直接関係する話ではありません。しかし、教育業界の人材流動化に関しては間接的に恩恵を受けることもあり改善に期待したいところです。
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