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独断と偏見に基づく「大学受験業界史」

私は大学受験業界に携わってかれこれ20年以上になります。

教員と就職する以前から、大学1年の時から塾で大学受験の講師を始めたので、自分の受験経験も合わせるとかなりの年月を大学受験の対策や分析にかけてきました。

そこで、今回は独断的偏見ではありますが、私の受験経験も含めたここ四半世紀+αの大学受験業界史、特に参考書や塾予備校を中心とした業界史を備忘録代わりにまとめていきたいと思います。

1990年前後:カリスマ講師台頭の時代

1990年前後は大学受験業界が最も活気づいていた時代でした。団塊ジュニアが受験生となり、毎年200万人を超える生徒が高校を卒業していたことになります。

当時は現在ほど大学の数も多くないため、大学進学率は低くとも年間に40万人ほどの浪人生が出ていたとされています。

80年代前半の女子大ブームを経て、女子生徒の共学大学への進学率も上昇し、受験戦争と呼ばれる状況でした。

またこの時期はバブル景気とも連動しており、都会の私立大学を受験する層が拡大した時期でもあります。特に私立文系に強みを持っていた代ゼミなどは拡大傾向にあったようです。

当然、三大予備校を中心に人が溢れ、人気講師の授業には「立ち見」が発生していました。

私自身は当時小学生でしたが、カリスマ講師がフェラーリで予備校の前に乗り付ける様子などをワイドショーで見て、何となく憧れたのを覚えています。

当時の有名講師と言えば、代ゼミから東進へと移籍した金ピカ先生こと佐藤忠志先生がその代表でしょう。

この時代は大学受験は予備校に通うか、あるいは有名進学校に進学することが有名大学への合格のための必要条件という認識が一般的でした。

受験知識やノウハウを彼らが独占していたからです。

2000年前後:参考書業界のイノベーション時代

90年代後半からバブル崩壊の影響が社会のあらゆるとこよに強く出始め、受験生の国公立大学志向が高まりました。それに加えてポスト団塊ジュニア世代が高校生となり、受験生の数自体は減少しました

しかし、難関大学志望者や、地元国公立志望者の浪人率は決して低くはありませんでした。

受験業界のトレンドが難関大にシフトした流れで、予備校業界においては、パフォーマンス型のカリスマ講師から実力派講師へ人気が移りました。
(それまでの有名講師に実力がなかったわけではなく、派手さよりも堅実さや丁寧な授業が評価されるようになった)

また、極端なマスプロ型の立ち見などが減少し、各講師の受け持つクラスや生徒数も常識的な範囲でのものとなりました。個別指導が普及し始めたのもこの時期です。

その結果、参考書業界では実力派講師が時間をかけて執筆した参考書が増加し、そこから刺激を受けた出版社が説明が詳しく指針を示すなど。新しい形式の参考書を出版するようになりました。

数学で言えば教科書会社の出す網羅型のチャート式や、有名講師執筆の講義型が主だったところに、有名講師監修や予備校系出版社の出す解説の詳しい参考書や問題集が増加した時期でもあります。

河合出版のプラチカなどはこの時期の2002年が初版です。

この時期から有名高校や予備校に通わずとも、有名大学の受験勉強を自学できるようになりました。書籍やネット上の文字情報で受験知識やノウハウが公開されるようになり、一部の団体が独占できなくなったからです。

とはいえ、学習管理や授業などでは地域格差が大きかった時期ではあります。

2010年前後:衛星+個別授業浸透の時代

2010年前後には固定回線の光ファイバー化が進むなど、ブロードバンド回線の普及が大きく進みました。

その結果、ビデオではなくネット回線を通じてオンタイムで予備校の授業を受講したり、アーカイブをネット回線を通じて視聴できるようになりました。

塾でオンライン授業を受講してチューターに質問や相談をするという形式が一般化しました。

また、塾や予備校側においては講師の確保が不要になり、採算ラインが下がったことから小都市への進出が加速しました。

地方の小都市において、大学受験対応の塾や予備校に通うことが可能になり、高校生も塾に通うという概念が広まった時期でもあります。

しかし、この時期はスマホの普及前であり、4Gなどの高速通信が使えるわけではないため、あくまでも塾や予備校という整った環境での接続をベースとした学習スタイルは維持しつづけていました。

2020年前後:学習マネジメント型塾の人気とオンライン塾の出現

2010年代の後半から、スマートフォンが爆発的に普及します。これは個人用端末の通信規格4G LTEの普及とも連動します。

この結果、家庭でも動画授業が視聴可能になりました。また、YouTubeなどでは無料で授業を受けることが可能になるなど、教科指導というコンテンツの価値が相対的に低下しました。

そこで新たに台頭したのが学習マネジメント型塾です。いわゆる「教えない」系の塾のことになります。

大学受験では「武田塾」、小中学生向けでは「松陰塾」などがその代表でしょう。

これらの塾では自学自習を基本軸に据えて、その進捗管理を行ったり、パソコンやタブレットでのAIによる反復学習を行っています。

2030年代に向けて、歴史からの学びを通して

こうしてみると、塾予備校や参考書などの教育産業とICTや通信規格の進歩には非常に強い連動性があるように思います。

そうすると、5Gの普及やメタバース技術の浸透が新しい教育の形を提案するのは民間の教育産業からで間違いないでしょう。

なぜならば、公教育など学校はこの2020年になっても従来型の教育形式からほとんど変化していなかったからです。

偶然発生した世界的パンデミックによって、ICTの普及が爆発的に進みましたが、ふたを開けてみれば活用できていない学校や自治体も散見されるようです。

2020年前後の教科指導のコンテンツ価値の低下から、学校が教科的知識を得る場所という独占的地位を失ったとき、公教育(多くの私学もそれに相乗りをしました)は「人と人が関わり社会性を身に着ける場所」というスローガンで自分たちのアイデンティティを確保しました。

おそらく、次に来るのは、関わりや社会性を揺るがすイノベーションでしょう。

そうした大変革に対し、学校という存在をどのように再定義するか、現場の教員一人ひとりが考える必要のある課題なのではないでしょうか。

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