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数学Bの「統計的な推測」が難しすぎる問題

学習指導要領の改訂が高校では昨年度から始まり、現高校2年生はその初年度学年になります。

数学という教科の中でもいくつか変化があり、今回の改定からは数学Cが新たに復活し、理系生徒が学習するのはⅠⅡⅢABCの6冊となります。

この中でも大きな改訂の一つが数学Bの統計分野、「統計的な推測」が必履修範囲となったことです。

この変更自体は時代の流れ、あるいは社会の要請でありICTを扱う人材の基礎教養という観点からも当然でしょう。

ところがこの統計の必修化に際して、大きな問題が判明しつつあります。

それは「統計的な推測」の内容が極端に難しいということです。

これまでは選択だった範囲

これまで、統計分野は選択とされてきたため、実際に受験で利用する生徒はほとんどいませんでした。

また教科書内容に関しても授業で取り扱わないケースが多く、特に学力がそれほど高くない学校の生徒の場合その存在さえ知らないこともあったようです。

当然ながら進学校の多くは授業で扱うことがありませんし、練習問題を解かせることもほとんどありません。

そのため、教員の間において統計分野の授業ノウハウや学習方法が確立されていないのが現時点での高校数学界隈の状況です。

また一般的に教科書の記述などは、現場で使われることで難しい部分の説明の工夫や図の付加などがなされ、改訂ごとに詳しい説明や明快な解説が増えていきます。

しかし、統計分野はそうした現場でのフィードバックがこれまでほとんど存在しなかったため、教科書の記述が非常に難解で分かりにくいものとなっています。

また扱う内容自体もかなり複雑で、特に正規分布や母平均や母比率の推定、信頼区間などに関しては初学者の高校生が読める内容とはなっていません。

深刻な副教材不足

これに加えて深刻なのが副教材の不足です。

教科書傍用の問題集ですら現在、ぎりぎりで間に合っている状態で市販の参考書や解説書はまだ対応していないものがほとんどです。

また解説動画なども対応していないことが多く、現在の高校2年生が学習する環境は極めて厳しい状況となっています。

2023年の6月時点ではまだ問題になっていないが…

これらの問題は、この記事を書いている2023年度の6月時点ではそれほどまでに問題となっていません。

なぜならば多くの学校では高校2年生はまだ数学Bの教科書に入っていないからです。

あるいは、先取りで進んでいる学校の場合、生徒の学力が高いためにそれほど問題となっていないと推測されます。

そのため現時点では教員側が授業準備や予習の段階で不安を抱え、実際に授業するのを戦々恐々としている状況でしょう。

偏差値50台以下の生徒が教科書で学習するのは厳しい

個人的な感想としてですが、現在の数学Bの統計の教科書の記述は偏差値で60程度の基礎学力の生徒でなければ理解は難しいのではないでしょうか。

期待値や分散などはすべてΣ記号での表記であり、また正規分布の式や積分との組み合わせ、挙句にネイピア数などが突如出現するなど、かなり惑わせる書き方になっています。

旧課程の教科書の選択範囲だった時代のものとその大部分が共通しているだけではあるのですが、明らかに共通テスト数学ⅡB(+C)を受験する30万人を対象とする内容とは思えない記述が並んでいます。

勿論、教員側が慣れていない、統計分野が得意でないという事情も全くないわけではないでしょう。

しかし、そうしたマイナス要因を除いたとしても明らかに現行の数学B教科書の統計分野の内容はこなれていない、大学の統計学の教科書の内容をやや簡単かつソフトに書き換えただけのもので、高校生の学習用の教材として再構成されているとは言い難いように感じます。

教科書内容の改訂、精査を望むとともに

教科書の書き方、内容などに関してはぜひとも教科書会社に改訂、改善を願いたいところですし、市販の参考書や問題集が出版が進むことを期待したいところです。

しかし、それと並行して個々の教員による教材研究がここ数年にわたって重要になることは確かでしょう。

思えば近年の参考書や問題集など市販のものに関してはその質が向上した結果、教員それぞれの予習や研究が生きにくい状況だったように感じます。

その意味では久々にやりがいのある予習ができる機会なのかもしれません。

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