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『 i 』 -西加奈子-


『 i 』-西 加奈子-


【あらすじ】

物語の中心にいるのは、アメリカ人の父と日本人の母のもとで養子として迎えられた主人公・アイ。彼女は、恵まれた生活を送りながらも、内戦やテロ、貧困など世界中で起こる悲劇に心を痛め、自分の幸福に罪悪感を抱きます。自らの存在意義に苦しみながらも、アイは愛する人々と出会い、家族となり、成長していく過程を描いた作品。

【感想】
この物語は読者に強い共感を呼び起こします。アイが感じる「自分は恵まれているが、そのことが苦しい」という葛藤は、世界のニュースに触れる中でふと感じる違和感を多くの人が共有できるものです。アイは、自分の生活がいかに恵まれているかを理解していながらも、他者の苦しみとのギャップに苦しみます。この感覚は、多くの読者が持つ「世界の理不尽さ」と「自分の幸福」のギャップに対する共感を引き起こし、物語を読み進める中でその感情がどんどん強まっていきます。

一方で、他の読者の感想の中には、物語の後半に進むにつれて、東日本大震災やデモに関連する描写に違和感を覚えたという意見もあります。西加奈子は、アイの物語を通して、社会問題や政治的なメッセージを強く発信しています。特に震災に対する描写は、震災経験者にとって不快に感じられる部分もあったかもしれません。しかし、これは西加奈子が現代の日本社会が抱える課題に正面から向き合おうとする姿勢の表れでもあります。

また、「アイは存在しない」という言葉に象徴されるように、自分の存在に対する疑問を繰り返し抱くシーンも印象的です。彼女の繊細で複雑な内面を描いたこの部分は、読む者に深い考察を促します。世界の痛みや理不尽に対する無力感と、それでもなお生き、愛し、前進していくというメッセージは、多くの読者にとって心に残るテーマです。

どんな人におすすめか?

『i』は、現代の社会問題に対して感受性が高く、個人の幸福と世界の苦しみとの間にある葛藤に共感できる人におすすめです。特に、自分の生活の中で感じる小さな違和感や罪悪感に悩んでいる人、そして他者との関わり方や愛の在り方について深く考えたい人にとって、この作品は大きな示唆を与えてくれるでしょう。また、社会的なメッセージを含んだ文学に興味がある人、重たいテーマに対しても逃げずに向き合える読者にぜひ読んでほしい一冊です。

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