読書ログ 『政治的に無価値なキミたちへ』
どんな本?
著者は早稲田大学で講師経験のある人物。本書では日本の社会科教育を「政府がイデオロギーを宣伝する場」と捉えて警鐘を鳴らした上で、社会の「真理」の解明を試みている。豊富なデータ、特に「諸外国との比較」を多く用いることで、客観的な日本の立ち位置がわかる本となっている。この手の本にしては筆者の主張が強く、かつ表現が過激と感じる部分もあるが、(そういった偏りがあることを前提に読み進めさえすれば)政治のおもしろさが伝わってくる本だと感じた。
政治にそこまで興味のなかった自分が「自分はどうしたいのか?」を考えるきっかけとなったし、読了後には世界をより広く見渡そうとする意欲と自信を持つことができた。特に、permanent travelerという考え方は大きな気づきで、日本に生まれて日本で過ごすことが当たり前となっている自分にとって、「選択肢はそれだけではない」「日本は自分にとって必ずしも最適な環境と言えない可能性がある」と気づけたのは大きな収穫だったといえる。
経験上、「これだ!」と思える本は「読まなきゃ」という強制感なく時間を忘れて読んでしまうのだが、この本はまさにこれに該当した。政治という自分の興味の薄い分野でこのような本に出会えたことがうれしい。
人権
「何を人権とすべきか」は1966年の国際人権規約(International Covenants on Human Rights)に規定。現在も世界170ヵ国以上が締結。大きく2つに分けられる
市民的政治的権利(CPR):個人的自由を支えるための諸権利
経済的社会的権利(ESCR):社会的平等を支えるための諸権利
人権には「普遍主義(人権は絶対的価値)」と「相対主義(各地の文化を壊してまで普及させるべきではない)」の2つの流派がいる
イデオロギーは大きく4つに分けられる
個人的自由&社会的平等→リベラル。個人的自由は尊重するが、経済的な平等のために大きな政府を志向。「マイノリティにも自由を分け与えるべき」。アメリカ民主党
個人的自由&経済的自由→リバタリアニズム。小さい政府。自由に振る舞って自己責任
秩序&社会的平等→共同体主義。一人の成功は共同体全体の手柄。マイケル・サンデルが代表例
秩序&経済的自由→保守主義。その国も文化・伝統の価値を重視。自民党がこれに属する
アメリカは4つが均衡しているが、日本は64%が保守主義。ついで18%がリバタリアン。
勤労
日本のサービス残業時間はOECD諸国最長レベル。有給休暇日数と失業率は最低レベル。日本には「失業への恐怖」が根強く、就職前も転職前も空白時間を作ってはならない文化になっている
アフリカの人が守りたい「FGM(女性器切除文化)」が日本から見て異様に見えるのと同じように、日本人が当たり前と思っている労働文化は、世界の標準とは異なっている
資本主義
1%の資本家が99%階級を利用する構図。99%階級は資産だけでは足りず、さまざまな負債(「社畜となって雇用を維持しようとすること」なども含む)を受け入れて生活コストに充てている
資本主義社会では「上から求められる量・質の労働を常に提供する」「他者と競争して自己の市場価値を高める」「多くのものを常に購入し消費し続ける」という3つの規範が存在し、参加者はこれに従わないと生きていけない
これらは苦痛や不自由、劣等感を与えがち。しかし、そんな中でも自助(=できないのは自分の欠陥だという自責の考え方)という規範で生きる必要がある
★自分がJTCで言われてきた価値観そのものだと思った。日本の保守主義の世界に生き残るには必要な概念ではあるものの、それを「絶対と思ってはいけない」「むしろ数ある考えの一つとして捉えることで逆張りできる」と思いたい
日本には「社会主義は悪」というイメージが固定化しているが、OECD諸国では社会主義政党の議席は30%前後あるのが普通。資本主義思想が強すぎる国家と言える
資本主義社会においては「労働資本」「金融資本」という2つの金の獲得手段があり、労働資本一辺倒になると社会から搾取され続けて終わる。そんな人たちは、資本主義を支持しながら資本主義を傍観するしかない
結婚
日本では同性婚が禁止されているが、今やOECD加盟国の6割以上で認められている。日本では憲法上に「両性」という言葉が入っている、性倫理破壊の恐れ、人口減少の懸念などから認められていない
marital rape「夫婦間における強制わいせつ行為」がOECD諸国の大半で犯罪化されているが、日本ではこうした性的強要が罪に問われない
夫婦別姓制度に至っては日本以外全てが容認。もっと言えば95%以上が夫姓統一文化。夫婦同姓の強制は人権侵害との考え方が一般的
婚姻可能年齢に男女差があることもかなりレア
フランスではPACS「民事連帯契約」という制度が「結婚」にとって変わりつつある。国家のルール(法律)に従う結婚と違って、同居義務や貞操義務などを自分たちで決められるのが特徴
秩序
被疑者、被告人を冤罪から守るため、「推定無罪」「令状主義」「弁護人依頼権」「自白規制」「刑事補償」があるが、日本ではルールが守られていなかったり、資本主義の論理で裕福な人しか有能な弁護人に依頼できないなど、およそ十分に機能しているとは言えない
「刑事補償」とは冤罪に対して金銭的な償いをするというルール。しかし、失われた時間や評判は帰ってこないし、死刑にしてしまったらそもそも補償が本人にできない。死刑制度の廃止の論点はここにある
実際、死刑実施国は中国、イラン、サウジアラビアをはじめとする人権後進国が多い。OECDで死刑を実施しているのは、アメリカの一部州と日本だけ
補償可能性を可能な限り確保するためには、死刑廃止に加え、刑務所の待遇改善が不可欠。刑務所に放り込まれても、一般人と同じレベルの生存可能性が担保されていないといけない。だからノルウェーなど人権先進国の刑務所は豪華
国家
国家は大きく「君主制か共和制か」「議会制か大統領制か」の4象限に分けることができる
君主制か共和制か
君主国は、国家元首が世襲(血統)で決まっている国のこと。王国だけでなく、天皇を国家元首とする日本も君主国に分類される
しかし、多くの国は憲法によって「儀礼的で象徴的なポジション」に君主を抑え込んでいる「立憲君主国」である
例:オーストラリア連邦、オランダ王国、カナダ、スペイン、スウェーデン王国、イギリス(グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国)、日本国など
共和国は、世襲君主の代わりに一般国民から国家元首を「大統領」として選ぶ国のこと。アメリカのように国民投票で選ばず、現大統領が独断で息子を次期大統領に指名するなど、「形式は共和国だが実質は君主国」といった国も存在する
1900年には188か国あった君主国は、2010年現在は25%の45か国にまで減っている。革命運動や人権思想の高まりによって君主制が批判の的となってきたことが大きい
国家は国民をまとめるため、国家元首の権威を保つ必要がある。君主国は国家元首である君主の神聖性を保つため、マスコミの報道などを操作してきたが、テクノロジーの進化によって君主の私生活が暴露・拡散されるなど、神聖性を保つのが難しくなったことで衰退してきた
日本は皇室の神聖性を維持できている方だが、それは皇室メンバーに政治参加、婚姻、職業選択、居住移転、思想信条など多くの自由に制限をかけているからだと言われている。その分高度な生活水準が保証されているわけだが、これを「皇室の人権をカネで買っている」とする考え方もある
国家元首と政府首脳の違い
どの国家にも国家運営の実務を担う「政府(government)」が存在する
君主国の国家元首には国家運営の実務能力がない場合が多いので、首相である政府首脳を君主が任命する形をとる。一方で共和国では大統領が国家元首と政府首脳を兼務する
議会制か大統領制か
議会制は「国民が選出した議員による議会がリーダー(首相)を選出することで政府首脳を決める」というやり方。国のリーダーの人事権は議会が握っている。Prime ministerとは「筆頭の家臣」という意味で、つまり国家元首の筆頭家臣という意味となる
大統領制は、「国民が議員も選出するし、そのリーダー(大統領)も国民が選出する」というやり方。議会制よりも民主的と言えるが、政府と議会が対立しやすく政情不安になりやすいことから、OECD加盟国においてはチリ、フランス、メキシコ、韓国、アメリカのみが採用。フランスは大統領制と議会制のミックス
ちなみに大統領は任期制なので、一旦就任すると任期満了までは罷免されない。なので暗殺が起きやすい
まとめると、以下の通りとなる
君主制&議会制:国家元首は世襲で決まり、政府首脳を議会で選ぶ。日本、イギリスなどの立憲君主国を指す
共和制&議会制:国家元首は儀礼的に選ばれる大統領とするが、政府首脳は議会によってえらばれた首相が務める。ドイツ、オーストリア、フィンランドなど
共和制&大統領制:国家元首も政府首脳も国民から選び、大統領とする。アメリカなど
フランス(フランス共和国)は国民投票で大統領を選ぶが、政府首脳は大統領に加え、議会から選ばれた首相との2人体制となるため「半大統領制共和国」と言われる
国民
日本の議会制は民主的といえるのか?
議会制は政情安定しやすいものの、首脳の選出が間接的なので、内輪で受けがいいだけの人が選出されてしまう可能性がある。また、議会の状況が不安定だと首相といえど政策が進まない
さらに、国会議員への立候補にかかるお金が他国対比で最高レベルに高いので、富裕層しか議会に参加できないという問題がある。つまり、国民主権に必要な公平性が十分でない
国民の勤労時間が長い、労働者教育に偏っている、などの理由から政治参加能力(実体性)が十分でないため国民主権になっていない、という主張もある
どうすればいいのか?
一票の価値は非常に小さい。だからこそ理念によって結集すべきだ
理念によって結集すると革命が起きる。様々な人権の中でも最もい重要なものこそ革命権である
★自分はただちに革命だ!などとは思っていないし、「革命と聞くとなんだか過激でヤバイ」と思う感覚もある。しかし、「革命=ヤバイ」みたいな感覚は政治能力が低いからこそ生まれるのもまた事実だと思う。何もわからないから現状維持なのと、わかったうえで現状維持を主張するのとでは全く違うことを肝に銘じたうえで、スタンスを取って生きていける人間になりたい
特定の国家に自分の人生を左右される状況は「自由な人生」とは言えないかもしれない。リバタリアンの視点からは「終身旅行者(permanent traveler)」という生き方が注目されている。国籍登録国、住所登録国、経済活動国、資産運用国、消費活動国の5つを自分の人生に合う形で選択していくという考え方
恐怖
国家が必要な理由は「労働分担」「秩序維持」「利益分配」である
多くの国家では、こうした目的のために長く「階級社会」が敷かれ、下級者からの暴動を防ぐ(=秩序を維持する)ために「恐怖」というツールを活用してきた
例えば暴力。軍隊や警察は国民を守ると同時に、国家秩序を守るための暴力装置としても機能してきた
自分たちも、人生の重要な岐路で取る選択の根源的理由は恐怖だったはず。与えられたレールに背いたらもっと嫌なこと、恐怖が待っているんじゃないか、という恐怖心に突き動かされて、自分たちは生きている
だからこそ、理念をもって結集すべき。政治的な知識を持って議論しあうことで、「国民が国家を恐れる」世界を「国家が国民を恐れる」世界へ変えていくべきである
★自分たちの人生、恐怖にさいなまれすぎている節はあると思う(恐怖が全くない人生が送れないのはわかってる)。なので、今取っている選択やりたいことなのか、恐怖に突き動かされて仕方なくやっているのかを客観視し、「そんなに恐れすぎず、もっと自分が幸せになれることを優先したら?」と言ってあげられるようになりたい
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