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2022/7/4週|戦略の成功確率を高めるには? ホッケースティック戦略🏒🏒🏒🏒🏒

マッキンゼーが考察した戦略の成功確率を高める方法についての本『ホッケースティック戦略🏒を読みました。
2,393社・15年分のデータから導き出したものということで、圧倒的なデータからである点と、個人的に好きな「べき乗則」のアイディア・構造が採用されており、好奇心が大いに刺激される本でした。

今日は読んでの自分なりのまとめと感じたことを書いてみます。

忙しいあなた向けのサマリ

『ホッケースティック戦略』の中から要点を記載したのが下記になります(いくつか重要だと思うポイントを省略していますので本書についてもぜひあたってみてください。)

・ホッケースティックとは事業計画等でよくみる、最初へこむがその後ぐぐっと事業が伸びていく様子を指している🏒
・実態はどうかというとその実現は簡単ではなく、ほとんどは後に計画と実際を突き合わせるとホッケースティックのようにならない(ヘアリーバッグとなる…)
・しかし他方でホッケースティック型の成長を描くケースもあるのは確か
・その成功確率を高めるには10の要因があり、「所与の企業力」「トレンド」「施策」という3つのカテゴリに分類できる。
・成功確率の決定に影響を及ぼす度合いとしては、「所与の企業力:30%」「トレンド:25%」「施策:45%」となり、「施策」が占める影響が大きい
・「施策」とはデータから導き出した継続的に実施することで大きな成果につながる5つの要因のことで、①プログラマティックM&A、②経営資源の配分の活発な見直し、③強大な設備投資、④効果的な生産性向上プログラム、⑤差別化の促進である
・この「施策」については成功確率を高めるためには十分に大胆であることが必要
(これは客観的な視点で、業界や競合と比較した場合に「大胆」な施策であるか、ということが大事なので、多くの場合は大胆でない施策になってしまうこともある)

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ホッケースティック戦略とは

以下ではまず本書の紹介をいくつか引用させていただきながらしたいと思います。

まずビジネスに携わる中で多くの人が関心があるであろう「企業の業績は何で左右されるのであろうか?」という点について、下記のように述べられています。

今回私たちは、一般に公開されている情報から、数十個の変数を数千の企業について調査しました。その結果、企業の業績を左右する要因は、10個にまとめられ、企業の業績の上昇、或いは下降の80%以上を、この10個の要因によって説明することが可能だということが分かったのです。
(中略)
少し先に結論を言ってしまうと、データを分析することにより、多くの企業にとりわけ大胆さが欠けていることが分かりました。つまり、戦略が大胆施策(企業のパフォーマンスに大きく影響を与える5つの施策の中で、一定のしきい値を超えるほど徹底して行われる施策のこと。詳細はCHAPTER4以降を参照)につながっていないのです。多くの場合において、結果として得られたのは同業他社と歩調を合わせるのに必要なわずかな改善にすぎませんでした。

クリス・ブラッドリー,マーティン・ハート,スヴェン・シュミット.
マッキンゼー ホッケースティック戦略成長戦略の策定と実行 (Japanese Edition) *以下同様


次に「ホッケースティック」とはについてです。

最初の1~2年の間は多少投資をします。多少の損失は我慢してください。必要なのはそれだけです。その後は大きな収益を見込めます。将来は優れた事業になるでしょう。今、あと少しの追加リソースを許可していただければ、今は利益は上がりませんが、今後数年の間見守っていてください。その後は星まで届くロケットを作ります」。

よく見ますよね


このホッケースティックはたとえば事業計画などで良く見る形かと思いますが、実際には実現が難しいものとして位置付けられています。先行投資による初期の短い下降の後、楽々と上昇する線形となりますが、何年も実現しないと、次第にホッケースティックのむさ苦しい兄弟分である「ヘアリーバック」が出現してきます。(下図)

ヘアリーバック…


すべての事業は「パワーカーブ」上に分布する

本書では、戦略がうまくいったかどうかを「エコノミックプロフィット」の大小で評価しています。
エコノミックプロフィットは、資本コストを差し引いた後の総利益額を表す指標のことで、下図のような図で表すことができます。

昔ゼミでこういうのめっちゃ計算したなぁ


さらに、本書で調査対象となっている2,000以上の企業のエコノミックプロフィットを算出し、整理すると下図のような分布になります。

右からエコノミックプロフィット上位の企業が並び、左側にいくにつれ下位の企業となるS字の曲線が伸びていることが読み取れると思います。


上のS字の曲線を本書では「パワーカーブ」と表現しているのですが、特徴としては
両端が急上昇もしくは急降下
中間領域が広く平坦
となっている点です。
上の図でも、上位の企業の平均エコノミックプロフィットが中位の企業の約30倍程度となっており、いわゆる「べき乗則」の線上に企業がプロットされています。
(地震の規模を示すマグニチュード分布、プロフットボール選手の年俸や書籍売上の分布なども、べき乗則に則っていることが本書の中で言及されています)

すなわち、利益の大部分は右側のカーブに集中しており、端に近づくにつれて急上昇するのです。従って、優れた戦略を立てるのであれば、前年度や次年度、競合他社といった狭い見方にとらわれるのではなく、パワーカーブの右方向に移動することを目指すべきなのです。中位60%に属する多くの企業にとってみれば、いかにして長く平坦なカーブ上の集団から脱却し、利益の大部分を占めるグラフの右側に上れるのかということが、課されている課題なのです。

ここまででホッケースティックの線形を描きたければ、パワーカーブにおける右側に移動する(エコノミックプロフィットを創出する)必要がありますし、それが起こらないとヘアリーバッグになってしまうことがざっくり理解できたかなと思います。


成功確率を上げるには: 大胆に、大いに大胆に

どう右側に移動していくかの前に、戦略の成功確率として、全体としてみた時にどの程度がパワーカーブの右側に移動するのかが示されています。

ならすと8%であるが、個社の戦略の場合もこの数字かというとそうではないというのが本書の主張です。

パワーカーブを移動するための要因として下記が整理されています。

お約束した通り、私たちのモデルはフレームワークではありません。しかし、分かりやすく説明するために、10の要因を「所与の企業力」「トレンド」「施策」の3つに分類しています。各分類におけるそれぞれの項目をきちんと理解することができれば、戦略とその実行計画を調整する余裕があるタイミングで、自社の本当の成功確率をより高い精度で予測できるでしょう。所与の企業力とは、スタート時点で企業が活用できる資源を指します。トレンドは、企業を取り巻く環境を指し、前後左右から吹き付ける風のようなものです。施策は、企業が取る活動そのものを指します。「所与の企業力」「トレンド」「施策」の3つは戦略の三原色のようなものなので、あとはこれらを適切に混ぜ合わせれば良いのです。

2,393社の大企業を対象にパワーカーブを上下する確率を分析した結果、予測される確率の決定に、「所与の企業力:30%」「トレンド:25%」「施策:45%」の割合でそれぞれの要素が影響していることが分かりました。単一の項目としては業界トレンドが10の要因の中で最も重要な要素である一方で、全体的に見るとパワーカーブにおける動向のおよそ半分を左右するのは、戦略的な施策です。

今回は10の要因のうち、「施策」に該当する5つを下記に列挙します。

①プログラマティックM&A
個々の買収案件が自社の時価総額の30%を超えないようにする一方で継続的に買収を行い、10年程度のスパンで見るとすべての買収額の合計が少なくとも時価総額の30%にまで到達しているようなやり方。

②経営資源の配分の活発な見直し
メリハリ。成長の可能性のある事業・領域への十分な経営資源の投資でパワーカーブの移動を狙う。同時に、成長の可能性の低い領域への投資を極小化する。(ピーナッツバターをサンドイッチいっぱいに薄く広げるのは事業にとっては有効ではない)

③強大な設備投資
売上高設備投資比率で上位20%に入る企業のみがこれができている状態。業界の中央値に対して1.7倍の大規模な設備投資をしていること。

④効果的な生産性向上プログラム
生産性の改善率が業界の上位30%以上であることが基準となる。これは業界標準の生産性改善をしているだけは到底到達できないレベル。

⑤差別化の促進
製品の差別化やコスト優位性の確立などの結果としての粗利益の改善で上位30%に入る状態。

上記を含む10の要因の分布の中で可能な限り上位に位置できていると成功確率が高まっているということになります。

これまでにも述べてきた通り、5つの施策を適当な力で実行するだけではカーブ上昇の確率は向上しません。大胆施策は非線形であり、実行するだけでなく、十分な強度で実行することによってのみ成果につなげることができます。業界水準と同じペースで生産性向上を図っても大きな成果は期待できません。特定のしきい値を超える大胆施策を行って初めてパワーカーブの上昇率が上がります。例えば、生産性向上の場合は、向上の割合が業界平均を少なくとも25%上回らなくてはなりません。各要素のしきい値をクリアして初めて大胆施策を成し遂げたと言えるのです。

感想

『ホッケースティック戦略』いかがでしたでしょうか?

エコノミックプロフィットで2,000社以上を並べてみたらべき乗則の関係になっているのを明らかにしている点、移動できる(成功できる)確率を時系列の研究で示している点、さらに踏み込んでその要因の分解まで明示している点、と鮮やかさが過ぎました。
ホッケースティックとヘアリーバックというコンセプトも分かりやすいですし。

何よりも、業界の中で同じような水準(スピード感かもしれないし、投資の規模かもしれないし、やり方かもしれない)で進めていたらパワーカーブの右側に移動することはできないなということを成功確率という概念を通じて定量的にも理解が深まりました。

大胆か、大いに大胆か?

というのは常に自分に問うべきものですね。

べき乗則のコンセプトに興味を持たれた方は是非ブラック・スワンあたりを読んでみてほしいです。

この記事について

株式会社タイミーで執行役員CMOを務めている中川が、マーケティング関連の仕事をしている中で感じたことを綴り、コツコツと学びを積み重ねる『CMO ESSAY』というマガジンの記事の一つです。お時間あるときにご覧いただければ幸いです。オードリーのオールナイトニッポン 📻 で毎週フリートークしているのをリスペクトしている節があり、自分も週次更新をしています。

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