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【読書メモ】ファイブ・ウェイ・ポジショニングで、絞って、伸ばす

星野リゾートの星野佳路さんが、帯を書いている珍しいマーケティングの書籍「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」をご紹介します。

7,000字以上になってしまい、かなり長文になってしまいましたが、自分自身のアウトプットとして活用します。

この本だけではなく、ポーターの競争戦略やストーリーとしての競争戦略などと共に読むと、このファイブ・ウェイ・ポジショニングというフレームワークの腹落ち感と、より具体的な活用イメージが湧きやすいかなと思います。

ファイブ・ウェイ・ポジショニングとは?

ファイブ・ウェイ・ポジショニングの名の通り、5つの構成要素があります。

価格、サービス、アクセス、経験価値、商品

さらに、3つのレベルがあります。

レベルⅠ 業界標準
レベルⅡ 差別化
レベルⅢ 世界水準・市場支配

ファイブ・ウェイ・ポジショニングの戦略では、この5つのうち、一つをレベルⅢになるように磨き込み、残り二つをレベルⅡ、残りをレベルⅠにするのが良いということです。

全ての要素を高めることは、リソース的には不可能であり、結果的にユーザーにも伝わらないです。

この5つの要素のどれを選択するのかが、いわゆる戦略であり、その要素に対して、リソースを集中していくことになります。

上記を詳しく説明した内容として、ファイブ・ウェイ・ポジショニングの2つのルールを本書では紹介しています。

■5つの要素を通して、企業は、業界標準レベルからすべり落ちてはいけない。
一企業がすべてに秀でるのは、不可能だということ。史上最も成功している小売業者と言えばおそらくウォルマートだが、そのウォルマートでさえ、すべての点でライバルに勝っているわけではない。

■2つ以上の要素で5点や4点を目指してはいけない
- たとえ5分野すべてに秀でた企業があったとしても、その企業は「わが社が提供できる価値」を消費者にうまく伝えられない、ということ。考えてみてほしい。ティファニーが突然、激安エメラルドの広告を始めたり、マクドナルドが放し飼いで育てたチキンや豆腐を提供しだしたら、みんな混乱しないだろうか?

最終的にはこのような図になります。

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(「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」から引用)

5つの要素の解説と問い

5つの要素に関する解説を行います。
そして、本書では、その診断を行うためのいくつかの問いが設けられていたので、そちらも一部をご紹介。

価格

価格に関して、一番重要なことは、安さではなく、「公正で適切」ということです。
これは、ユーザーにとって、安すぎてもダメですし、高すぎてもダメであるということ。

つまり、提供している価値に見合った価格であることをユーザーは望んでいるということです。

よくある間違いが、値下げをすれば買ってもらえるという安易な判断による価格改定です。短期的に購入が増えるかもしれませんが、結果的には、そして、そもそもユーザーはそんなことは望んでいないケースが多いとのこと。(自らにおきかえるとよくわかります・・・。)

価格の上下をする前に、まず、ユーザーが望む価値は何なのか?そして、どうユーザーに届けるのか?
ここに尽きます。

この章で紹介されているウォルマートは、有名なEDLP(Every Day Low Price) 戦略をとっています。

実は、これは価格が安いわけではないのです。

そうではなく、ウォルマートは、どこよりも安いイメージがある一方で、ウォルマートはいつも適切な価格で商品を売っているということをユーザーがイメージできる状態をつくることができているのです。
このイメージは、ユーザーがウォルマートに対して抱く信頼から生まれています。
この信頼を築くためには、もちろん、実際に価格も安くある必要がありますが、ぼったくりや一時的にはキャンペーンが重要ではないのです。

そういった一貫性のない状態ではなく、ユーザーの期待をいつでも裏切らないということが重要です。

チェックポイントとなる「問い」としては、例えば、以下の項目があります。

・価格で市場を支配したいなら、価格設定について顧客とコミュニケーションを取るとき、公正で適正な価格だと強調しているか?
・自社の商品やサービスを前提に、友達に尋ねてみよう。価格設定に関する会社の主張は、彼らにとってわかりやすく、シンプルで、直感的に正しいと感じられるものだろうか?

サービス

一言で言うと、矛盾がなく、高い価値提供をユーザーに行っているかどうかということです。
その前提として、余分なサービスを提供する前に、まずは日々の要望にきちんと答えることです。

日々の当たり前の業務に対して、ミスや漏れがある中で、何かプロモーションやキャンペーンを行ったとしても、矛盾が生じます。

きちんと応えた上で、特別なサービスを提供することが重要です。

その上で、最終的には、一人ひとりのユーザーに対して、価値提供をカスタマイズした状態で届けることが、ここでのレベルⅢに該当する状態になります。
このサービスに投資をする場合の一番の投資先は、キャンペーンやプロモーションではなく、自社の社員です。

社員に投資することで、会社として大事にしている価値を体現し、結果的に、ユーザーに届けることにつながります。

チェックポイントとなる「問い」としては、例えば、以下の項目があります。

・サービスで差別化をはかっているなら、取引している顧客に、知識や情報を与えているか?
・顧客1人ひとりのニーズに応えて、商品やサービスを快く、きちんとカスタマイズしているか?

アクセス

立地をイメージしてしまいがちですが、立地もプロセスの一つです。
アクセスとは、ユーザーが望むときに、いつでもどこでも購入やコミュニケーションをとることができると定義します。

アクセスには2種類あります。

物理的なアクセス心理的なアクセスです。

物理的なアクセスは上記の通り、ユーザーの望むタイミングでいつでもどこでも購入ができるものです。

一方で、心理的なアクセスとは、この本では、心理的な絆やコミュニティ感覚と表現されています。
例えば、「質問がしやすい」や「相談しやすい」といったユーザーフレンドリーな定性的な部分となるでしょうか。

このあたりは、「サービス」で説明した内容と近いものがありそうです。

ちなみに、このアクセスのレベルⅢは、ユーザーが望む解決策を提供してくれるかどうかです。
簡単に購入できるということだけではなく、それが、ちゃんと解決策に適しているのか?という点まで、ユーザーがアクセスできるということが、レベルⅢの要素となります。

実店舗では、店の清潔さや価格の見やすさ、便利な営業な時間、店の構成とレイアウトが重視されます。
一方で、オンラインの場合、サイトの使いやすさや料金の明確さ、ユーザーが困った時やは病んでいるときにすぐに頼りになることなどが重視されるとのことです。

チェックポイントとなる「問い」としては、例えば、以下の項目があります。

・アクセスで市場を支配したいなら、必要とあれば喜んで、顧客のところへ出向いているか?それとも、何としても向こうが来るべき、と考えている。
・取引の相手が企業でも消費者でも、顧客のニーズに対する、真の解決策を提示しているか? たとえば、特別に発送の手配をしたり、顧客があわてて何かを買ってしまう前に、競合他社の価格を確認してあげたりしているだろうか?

経験価値

ユーザーが求めているのは、楽しさではなく、ここで言及されているのは、敬意、人間らしく扱われること、自分だけのための商品やサービスを提示されるという点です。

ここで紹介されている事例では、スターバックスがあります。

ご存知のように、スターバックスは、自宅でもなく、仕事でもない、「サードプレイス」という空間を提供しています。

これは、コーヒーという商品やスタッフによる接客などのサービスという点ではなく、それらをトータルとした価値提供を行い、結果的にユーザーが体感するのが、サードプレイスであるということです。

スターバックスのハワード・シュルツは、以下のように述べています。

「コーヒーはね、何百年間も会話の中心にいるんですよ」
「私たちは、お客さまの〝第3の場所〟をつくろうとしているんです。家と職場の間にあって、そこへ来れば1人で一服できて、何かの集まりに参加している気分になれる。スターバックスは、近所の人が集う玄関先のポーチのような存在になったんです。うちが体現しているものを、みなさん信頼してくださっています。お客さまが何度も足を運んでくださるのは、質の高い経験価値のおかげです」

また、経験価値にも、アクセスと同じように2つあります。

外的性内的性です。

外的価値は、いわゆるエンターテイメントに近い要素で、目で見てわかるものです。

例えば、店舗の装飾などです。

内的価値とは、ユーザーそれぞれで感じ方が異なるので、非常に困難ではありますが、いかに感情に結びつけられ、揺さぶることができるかということです。

例えば、大事なお客様として扱ってもらえているか、敬意を払ってもらえているかなどです。

本書でも言及されているのが、サービスとの違いです。

サービスは、プロセスで、経験価値は、結果というのが、わかりやすいかもしれません。
(そうすると、経験価値はなかなかコントロールがしづらく、改善できにくい印象ではありますが・・・)

あるいは、本書でいわれているのが、サービスは、顧客がその企業をどう感じるのか?、経験価値とは、顧客がどんな気分でいるのか?ということです。

この点を意識してみると、経験価値を重視するユーザーが増えており、企業も重視する傾向が多くなっているのが昨今ではないかと思います。

チェックポイントとなる「問い」としては、例えば、以下の項目があります。

・顧客を心から気遣っていることを、どんなふうに示しているか?
・顧客に、ほかでは得られない何かを提供しているか?

商品

価格で紹介した内容と近いなと感じたのが、この「商品」の分野です。

ここでは、まずは、

「最高」の品より「そこそこ」の品

と述べられています。

価格のように安ければ良いというのではなく、商品も、ユーザーにとって、最高であるべきで、ただ単に最高ではないということです。

つまり、ユーザーが求めているニーズに対して、合致した商品であるべきで、その商品のレベルが以下のような形となります。

レベルⅠ:信用できる
レベルⅡ:頼りになる
レベルⅢ:インスピレーションをくれる

この3段階となります。

そして、最高の商品やサービスが一つだけ用意されるというよりも、そこそこの選択肢を幅広く提供されることの方が重要ということです。

その結果、以下のような状態を生み出すことがゴールとなります。

どんな品質・価格レベルで戦っていようと、商品で市場を支配できるかどうかは、いかに顧客の想像力をかき立てられるかにかかっているのだ。自社の商品が主役を務めるようなライフスタイルを、顧客に思い描いてもらえるかどうかが鍵である。

チェックポイントとなる「問い」としては、例えば、以下の項目があります。

・メーカーに勤めているなら、クライアントがあなたの会社の商品を仕入れるのは、消費者にインスピレーションを与えてくれるから? それとも、単に棚を埋めたいから?
・あなたの会社の商品やサービスのおかげで、顧客は新たな自分を思い浮かべて、わくわくできるだろうか?


事例の紹介_ダラー・ジェネラル

ファイブ・ウェイ・ポジショニングの書籍内では、数多くの事例が紹介されています。
(本書で紹介された内容と、昨今、特に、2020年の新型コロナウイルス発生後の状況とは異なっている可能性があります。)

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(参考:【ダラーゼネラル】、小型店80店を含む900店を出店!ダラーゼネラルマーケットは失敗?

一つの事例をご紹介します。

テネシー州グッドレッツビルに本社を置くディスカウントストアです。

1万5,000店舗以上を展開しています。

ダラー・ジェネラルが運営する小売店では、食品をはじめとする生活必需品を1ドルから10ドルの価格帯で販売しています。

日本でいうところの100円ショップに近い業態をイメージするとわかりやすいかと思います。

第一の要素_価格

- 新店オープンの告知以外、定期的な広告はしない。
- 最低価格と最大のマージンを守るため、主に自社ブランドとプライベートブランドを扱う。
- 商品の販売量を上げるため、回転の速い消耗品を中心に取り扱う。
- 利益の薄さを量でカバーする
- 衣料品の扱いを増やさないよう気をつけている。(衣料品は、回転が遅い)
- 安価な什器やディスプレーで、「実用本位」の店づくりをする
- 店で働くスタッフは全員窓拭きをする。階級という観念がない。
- 輸送費を最小に抑え、商品補充の時間を削減するため、店舗は流通センターからなるべく近い場所にする。
- 新店の場所は、地域担当マネージャーのネットワークを活かして決定し、賃貸や購入の契約は、不動産を専門とする少数の社員が迅速に行う。

第二の要素_アクセス

- 店は、顧客がさっと入店し、買い物を済ませ、さっと出て行ける広さとして小さな店舗となっている。
- 目の高さを超える位置に何も展示しないので、顧客は店全体を見渡せる。
- 顧客がレジを速やかに通過できるよう、高速レーザースキャナーを使い、レジ周りに商品を置きすぎない。
- 顧客が値段を探さずに済むよう、価格は、メーカーで商品にあらかじめ印刷してもらうか、シールを貼ってもらう。
- 店のレイアウト、順路、商品の構成を、5000店舗すべてで統一している。
- 95%が全店の同じ場所に置かれており、残り5%が地域の特色を考えて組み込まれた商品。

参考記事


星野リゾートとアパホテルのファイブ・ウェイ・ポジショニング

帯で紹介していた星野リゾートの星野佳路さんが、ファイブ・ウェイ・ポジショニングを利用したエピソードが語られています。

個人的には、この章が一番リアリティがあり、非常に興味深かったです。
本書で紹介されている事例は、海外のケースが多いため、なかなかリアリティがないのですが、星野リゾートの例だと、グッと身近になりますよね。
一方で、新型コロナウイルスが発生以後はもしかしたら、変更しているかもしれません。

しかし、拝見する限り、大きな変更はなく、本質的な価値を提供し続けているのではないかと思っています。

星野リゾートのファイブ・ウェイ・ポジショニングとは?

第一の要素「経験価値」

・ホテル・リゾートにおいて、経験価値とはソフト力、いわゆるサービスの質
・優秀な人材のリクルーティング力とフラットな組織と呼んでいる独特な組織文化
・顧客満足度調査の精度の向上、分析ツールの開発、スタッフへのタイムリーな情報提供、「サービス品質重視の企業」という社内ブランディングなど、経験価値を上げるための仕組み

第二の要素「アクセス」

・ネット上での予約や海外からの予約など、旅行商品の買い易さ
・自社ホームページ上では情報の見やすさ
・海外からの観光客に対応するためには、言語対応だけではなく情報の中身も変えていく必要
・上記を達成するためのシステム投資

感想としては、提供しているサービス形態上、当然かと思いました。

そして、意外であったのが、「アクセス」です。

確かに、星野リゾートは、自社のHPからの予約導線が、他社に比べて圧倒的に使いやすく、そして、サイト上での訴求も非常にわかりやすいです。

これは他社に比べて業界内でも非常に優位なポジショニングですね。

アパホテルの場合は?

例えば、これがアパホテルならば、以下の2点だと思います。

第一の要素「アクセス」

・駅近など物理的な立地の良さ
・旅行予約サイトだけではなく、自社サイトからの予約も簡単に行うことができる

第二の要素「商品」

・業界では珍しい「大浴場」の設置
・ユーザーの利用用途やニーズに合わせた多様なプランが存在。
・ビジネスパーソン向けの設備や寝具、朝食プランを用意。

こんな感じでしょうか。

ファイブ・ウェイ・ポジショニングは、非常にシンプルなフレームワークである一方で、シンプルすぎて、活用方法がかなり難しいのでは?と感じました。

次のnoteで、自らのアウトプット訓練と共に、いくつかの業界の企業をファイブ・ウェイ・ポジショニングで分解してみたいと思います。


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