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この家どうするの?(36)葬儀屋さん今昔12「しんぶん」

 父なき実家で、年金手帳と預金通帳を見つけないといけない。貧乏な町工場の自営、廃業して無職の独居老人。
金目かねめのものは何もないのだが、そうは問屋がおろさない。
つらくなるかたは、お読みにならないでください。
(1067文字)


新聞受け

 昭和の父親は、離婚すれど女・子どもには謝らず、家事なんてしない。会話のない父と娘の、なれの果て。
(今回は葬儀屋さんが出てきません。)

 玄関口に赤いポストがある。
新聞受けとか、いったかな?
平べったい口から新聞が舌のように、べろべろと垂れ下がっていた。
何枚舌か? 地面に落ちてないだけマシ。


新聞。朝刊を読んで夕刊も。独居老人の楽しみだった。父は、それしか情報源がないのだ。
1日中、やや大きな音量のテレビを観るか車で買い物に出かけるか。退屈を楽しんでいたのだろう。人づきあいは、まったくといっていいほどナシ、苦手だった。

パカッとくちを開ける

 おしこまれた新聞を取り出す。
でないとこれは空巣ホイホイ。
まずは新聞を片づけよう。

父は持病があり、三回の入院をした。いずれも、一週間ほどの期間。
毎度、新聞を止めた。配達元の新聞屋さんに電話、父が退院すると配達を再開してもらっていた。


休んだ期間、新聞代がすこし安かった。
もう永遠に入院することもなくなった……。新聞が配達されても読むひとはいない。

回収した新聞を数える。
いち、にい、さん、し。
四日分の朝刊と夕刊の束。8部。


 新聞を配達したひとは、新聞を配達するのが仕事。新聞受けに新聞がたまっていても。
その上から新聞を配達するのだ。
仕事だからだ。


ポストのくちが新聞を吐き出す。
それでも、それでも、それでも、それでも。


死体検案書と合致

 父の死亡推定日は、四日前。
死体検案書に書いてある。
新聞受けから吐き出した新聞の部数と合致する。

配達員さんは、また入院かいな、と思ったのだろう。
取り忘れ、よくあること。
都会では、なんでもよくあること。

配達員さんが、アレッと気づいてくれてたら……
それでも。結果はおなじだ。

とりあえず、新聞をまとめる。
片付けで、使うだろう新聞の束。
なんで、年金手帳と預金通帳と関係のないところから、とっかかるのか?

やりたくない裏返しだ。
新聞配達員さんと、新聞屋さんもそう。
通報とかやりたくない。
知らん顔で通りすぎる。


 「やりたくない。めんどう。」


なんだけど、やらざるを得ない。
父は死んでしまった。



   (不謹慎ながら続きます)

毎週金曜日は
「親の持ち家」の日

いつも こころに うるおいを
水分補給も わすれずに 

さいごまでお読みくださり
ありがとうございます。

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