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天上のバレエ・地上のダンス(51)高校中退の先輩

なんとなく高校のモダンダンス部でレッスン。いつも「踊りを見てしまう人」がいる。みな、おなじ振りつけなのに目の前に迫ってくる人がいる。
ダンスに華があるとは、こういうことなのか。


立っているだけで存在感

すこし背の高い、一年先輩がいた。45年ほど前のこと、170cmの身長は珍しい存在。モデルさんのようだった。

当時の高校はセーラー服、そんな姿も凛々しく思えるマニッシュな先輩。
副部長で無口な先輩だった。踊れば長い手や脚が音楽を浴びて語りだす。

音楽にあわせて踊るじぶんには、それ以上のものはない。先輩に立ってるだけで目が行くのは、高身長なだけではない。

なぜだろう。
とりあえず見るのだが。先輩の表情はパカッと笑っていない。部員はみんな少女。
部長以下、ふつうの女子高生の踊りのなかで、先輩は何かが違っていた。


たぶん別の何者かになっている。
そこは、バレエとおなじだが、とてもカッコいい。
そのカッコよさはどこから?


ダンスに華がある先輩

「オーラがある」究極の言葉がなかった時代。
言い替えれば「華がある」。
高身長の人は舞台むきだが、下手だったら悪目立ち。ふつうに踊ってても一瞬は目が行く。ずっと、ずっと、みてもらうには、どうするか?

いつも先輩は、そんなことを考えて踊っていたのだろう。
なぜ……? 一年上の先輩が。
振りつけどおりに踊るのが「ダンスの正義」と思っていたが、それ以上のものが先輩にはあった。


「華がある人」いろいろなタイプの人がいる。それは、もって生まれた才能もあれば、たゆまぬレッスンを重ねて身につけた魅力の花束も。
芸能のどこの世界にも、そんな「華がある人」がいる。

ある日から先輩は、部活に来なくなった。学校も休んでいるらしい。
モダンダンス部は、かなり地味な集団になった。先輩ひとり欠けただけなのに。



芸能のみちへ

1か月のち、静かにモダンダンス部・部長からの発表がありました。


「副部長は学校を……やめました」


いつものミーティングかと思っていたわたしは、うろたえました。
ざわめく人もいれば、知ってるよという人も。


副部長の、おとうさんが……お亡くなりに……」
部長の言葉は続いた。


「副部長は、マツタケ歌劇団(仮名)に入団が決まり、退学しました」



高校中退 

父親が亡くなったりで学資の件や、家庭の諸事情で高校を退学する人も多かった時代です。


マツタケ歌劇団(仮名)に入団って……。


関西には歌劇団がふたつありました。
マンガ原作のミュージカルを上演、ヒットをとばす超有名な「スミレ歌劇団」(仮名)。
遊園地の劇場を本拠地に、ダンスステージが売り物の「マツタケ歌劇団」(仮名)。



先輩はプロになりたかったのか!

ネットも何もない時代。歌劇団のオーディション情報など一般人には、わからない。
先輩は、ひとりで入団を考え実行したのだ。それもお父さんが亡くなってすぐ。

わたしなんて、親が離婚して人生ぶち壊しの被害者ヅラ。いつも不平不満を吐いていただけ……。
バレエの先生に、挨拶ひとつもできないダンス失格者。


その先輩は、黙って高校を去った。
芸能、とくにダンスは社会的に地位が低かった。
いくら歌劇団に合格しても、発表もお祝いの言葉もなく、肩をたたかれるだけ。ただちに高校中退なのでした。


令和のいまなら、小・中学校の体育の授業に「ダンス」が組み込まれているのに。


ダンスは学校にとって不名誉な案件。わたしは現実を思い知った。が、せめて、じぶんの好きなことは続けよう、なにかをひきかえにしても……。
なにかを失くしても、じぶんの道は、じぶんできめる。


華がある長身の先輩、カッコよかったな。
すばらしい高校中退だった。



毎週水曜日は
「バレエ・ダンス」の日


いつも こころに うるおいを
水分補給も わすれずに


さいごまでお読みくださり、
ありがとうございます。

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