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静大生錦絵深読 2020(0)はじめに

あらためて。

年度末になったので、全部の記事を公開します。
色々不備はあると思いますが、2020年度後期日本文学演習の学生たちの成果物をweb公開します。アンケートも用意していますので、御意見をいただけましたら幸いです。

趣旨説明など

 2020年度後期、静岡大学人文社会科学部言語文化学科日本アジア言語文化コースの「日本文学演習Ⅵ」は、受講生3名と少人数だったため、対面授業を行いました。テキストは架蔵「江戸の花名勝会」(不揃い)のうち、上のタイトル画像になっている3枚を使用。多くの人がおわかりと思いますが、この部分は、歌舞伎『東海道四谷怪談』名場面集的な続き物になっています。白い縄のような物が左に続いていることからも判るように、実は更に左側にもう一度お岩さんの出てくる「喰違」がある4枚続きなのですが、残念ながら所持していないので、画像の使用はリンクのみで、ここには表示しません。
ちなみに、これです。
 静岡大学に着任して以来、「演習」では、はじめの数年は「おくのほそ道」の注釈、次いでしばらく(20年ほど)は未翻刻黄表紙の翻刻注釈、そして、2015年度から、錦絵の翻刻注釈を行い、それ等の展示会も行ってきました。昨年度もそのような計画だったのですが、年明けに感染症が拡がって、開催できないまま、「お蔵入り」状態になっています(これについては、別にwebでの公開を考えています)。そして、今年度も、現状では展示会を開催できるような状況ではなく、このようなインターネット展示会を行うことにしました。調べ物もままならない状況で、学生たちも苦労していますが、そういう苦労も含め、2020年度の授業記録として公表します。
 資料の翻刻、注釈をメインとする演習は、基本的に、図書館屋共同研究室、更に言えば私の私物図書を駆使しながら行うのが通常のやり方ですが、今年度は、そういうわけにもいかず、また、成果を公開する場合にも、切り貼りの資料をそのままwebにあげるのも問題があるので、ごく一部を除き、webで可能な注釈、という事になりました。幸い、各種アーカイブの普及によって、ちょっと前までは考えられなかった事が可能になっている事を実感することにもなりました。そういうことも含めて御覧いただければ幸いです。

「江戸の花名勝会」

 テキストとして使用する「江戸の花名勝会」そのものについては、いま、説明するだけの十分な情報を持ち合わせていません。残存点数はかなり多いようで「浮世絵検索」などで同じ物を沢山見ることが出来ますし、国会図書館デジタルコレクション(以下、「NDLデジタル」と略記)にも殆ど揃っています。
 とりあえず、NDLデジタルからわかる情報を示しておきます。

まず、揃物の「表紙」に当たる部分

 中央に「いろは組南北中組江戸の花大錦名勝会」と書かれているのがこの絵の表題として取られています。右には「名誉人物 豊国老人筆 いろは四十八枚続」、左には「名所名物 諸画大人筆 番外組 引続出板」。
 もうすこし細かく記述するなら、「いろは組」「南北中組」は提灯の文字として書かれ、その間に火消しの纏が配されています。「江戸の花」は扇面に、「大錦 名勝会」は黒い地に白い文字で、左右は「聯」の意匠のようで、木目潰しになっています。更に、下側には、文七元結・水道桶・東錦絵・海苔・白魚・土瓶といった「名物」が配されています。これらの画面構成は、続く個々の絵でも同様です。
 つまり「本文」の構成は、各町の名所・名物を複数の絵師が担当し、関連する芝居の役者絵を豊国(国貞)が描いた、合作です。従って、この続き物を読むためには、それぞれの絵師・文字部分の筆者、地名・名所・名物・芝居・役者等の情報を探し出す必要があり、NDLデジタルを含め、多くの掲載サイトでも、十分な記述はありません。学生たちがどこまで読めたか、ご笑覧いただくとともに、注釈情報などがありましたら、ご教示いただければ幸いです。
 次は、版元の序文です。

重要な情報が含まれるので翻刻しておきましょう。


当ル名勝会。去る弥生の類焼に。数板消失に
及び。且は不非時御世ニ付。出板遠慮仕。故に無
拠中絶致し候処。最早太平豊饒の御世とは
なりぬ。依而此度。前板新板とも彫刻揃に
相成。大尾迄不残売出し申候。猶亦画工豊国
翁。去秋より旧冬まで。不残画勤め終りて。
無墓も黄泉の仏国え蓮座しかば。不以前
已後になき。豊大翁が影跡と思召て。偏に前板
之通り。沢山御求御揃之程。伏而奉希上候以上。
元治二丑年花乃春 梓元 吉美堂 印

 元治元(1864)年は天狗党の乱など、幕末の不穏な空気が実際の行動に移っている時期でした。3月の類焼が具体的にどのような物であったかは判りませんが、この組物の板木が何枚か焼けた事がわかります。また、その冬に老大家、三世豊国(国貞)が歿しています。幸い、下絵は完成しており、空前絶後、一世一代の画集として位置づけようとしていることが判ります。
 このような成立事情により、現存する作品に異同があるようですが、詳細は未調査です。

3枚目、本文前最後は、総目録です。

 ここには、木札のようなデザインで、10枚ずつ、5段に、いろはの組と、地名、そして景物が書かれています。つまり、合計50枚分です。これに対して、この国会図書館の資料は最初の3枚を含めると61枚、「本文」は58枚あります。おそらく、この目録は類焼前、場合によっては計画時の物かも知れません。で、単純に8枚増補されたのか、と言うと、そうではありません。わかりやすくするために、対照表を作ってみました。noteでは表示しづらいので、エクセルの画面を分割して掲載してみます。

画像1

画像2

画像3

画像4

画像5

 とりあえず、ここまでで、75枚分の情報があり、かなり出入があること、国会図書館所蔵の組物にも「喰違」が入っていないことなどが解ります。まだ、完全な照合を終えていませんが、国会図書館に無い物の多くは演劇博物館都立図書館をはじめとする機関に所蔵され、インターネットで観ることが出来そうです。
*「し」が赤くしてあるのは、国会図書館の資料の配列が違っていたからですが、今は問題にしません。
 これからテキストとして使用するのは、市ヶ谷・四ッ谷・麹町、そして喰違の4点です。実は、そのあと、鮫ヶ橋も、「四谷怪談」関連ですが、これも、今はスルーしておきましょう。
 さて、授業では、まず、自力で翻刻し、注釈をする必要がありますので、最初はネット上にある同じ絵の情報にはなるべく触れないようにして来ました。しかし、実際には、今回の四点は、全て都立図書館には所蔵されていますので、ここでは、そこにある情報を参考にして、直すべき所は直してあります。
市ヶ谷
四ッ谷
麹町
喰違
カンニングしたのか? といわれそうですが、手順としてはちゃんとやっています。その上で、勝負所は注釈です。歌舞伎役者、上演記録、名所・名物など、調べなければならないことは山ほどあります。中々手が回っていないのが現状です。多くの皆様の御教示をお待ちしています。アンケートを用意していますので、そちらにお願いします。 
 
 このあとは、個別のページに移動します(2021年3月中公開予定です)。noteの性格上、書式に制限がありますが、記事そのものは、必要な情報をしっかり入れる事以外のフォーマットは学生に任せています。見やすさ、わかりやすさもそれぞれの工夫と言うことで御覧いただければ。

 余談ですが、受講生3名、教材4点、ということで、最後の「喰違」は私が担当しました。見本を見せるつもりが、学生の方が取りかかりが早く、「手本」失格でありました。それにしても、インターネットのなかった学生時代に使いたかった資料が殆ど自宅でも閲覧可能ということを、改めて意識することになりました。こう言う条件がなければ、感染症蔓延期にオンライン演習は不可能だったと思います。勿論、紙の資料も使っていますが、こう言うことを実体験出来たのも、この授業に収穫の一つです。
 参考文献リストは作りませんが、それぞれの注釈にあるリンクを一つ一つたどって頂ければ幸いです。

目次
はじめに(このページ)
(1)市ヶ谷
(2)四ッ谷
(3)麹町
(4)喰違

アンケートを用意しています。ご協力をお願いします。 


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