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「やるかやらないかではなく、やる」プロジェクト発表会① 〜熊本リーダーズスクール2022 第6回 開催レポート〜

一般社団法人自然基金(以下、自然基金)は、自然電力グループが開発した再生可能エネルギー発電所の売電収益の約1%を地域に還元するプロジェクト「1% for Community」に取り組んでいます。
 
2022年度は、地域コミュニティを牽引する次世代リーダーの輩出を目指す「熊本リーダーズスクール」を開催。2022年6月にスタートし、地域プロデュースや企業支援などさまざまな分野のプロを講師に招いた座学や、実際に活性地域に行って学ぶフィールドワークなど、これまで5回にわたり実施しました。
 
第6回は、2023年1月20日に、熊本県合志市にある「ルーロ合志」で、受講者9名が、これまでの学びをもとにアイデアを磨きあげ、考案したプロジェクトの最終発表を行いま した。プロジェクトのテーマは、地域活性や耕作放棄地活用、子育てなど多岐にわたり、地域の課題解決を目指す人、現在取り組んでいる事業の拡大を目指す人など、それぞれの思いが詰まった地域ビジネスプランです。最終発表会のレポートを3回に分けてお伝えします。

【プロジェクトアイデア】 (発表順)
1.「スープの時間」
2.「耕作放棄地を活用した箱庭型菜園事業〜野菜でつながる人々のきずな〜」
3.「点字ブロック一口オーナー」
4.「外国人をコンフォートゾーンへ」
5.「まるで実家のようにくつろげるお惣菜カフェ」
6.「駅前再開発とブティックホテルリノベーション」
7.「木質燃料に新しい選択肢を!」
8.「貧困からの脱却『プリズンブレイクカフェ』〜親を頼れない若者たちが働く場所へ〜」
9.「ゼロイチチャレンジプロジェクト」

レポート1回目は、1.「スープの時間」、2.「耕作放棄地を活用した箱庭型菜園事業〜野菜でつながる人々のきずな〜」、3.「点字ブロック一口オーナー」の3つのプレゼンテーションをご紹介します。
 
※レポート②はこちら、レポート③はこちら


1.「スープの時間」

最初の発表者は、熊本県上益城(かみましき)郡益城町に暮らしながら、同町教育委員会のコーディネーターとして働く井下友梨花さん。益城町は、平成28年熊本地震で、連続して震度7の揺れに襲われた土地です。井下さんは、地震から約7年の中で、ハード面の復旧を進めながら住民の方たちがずっと頑張っていると感じています。これから、ソフト面の復興を充実していくにあたり、新たに余白や関わりの時間をつくりたいと考えているといいます。

井下さんは、益城町をもっとワクワクが生まれるまちにしたいとの思いから、スープを通じてコミュニティが生まれ、人と人がつながる、「スープの時間」という事業を考案しました。

「最初に、なぜスープなのか?についてお話しします。理由は5つ。まずは、①スープを飲むとホッとするからです。ホッとすると心に余白が生まれますよね。次に、②一汁三菜といわれるように、汁物は毎食欠かせないとされていることです。また、③何か料理を作った時に捨ててしまうようなものも、スープではまるごと煮込んで食べることができ、栄養も満点です。さらに、④スープは離乳食や流動食などでも活用されているように誰でも食べられます。そして何より、⑤私はスープが大好き。この5つが、スープを選んだ理由です」

「私がこの事業で大切にしたいことは、“余白”と“関わり”です。心の余白と周囲との関わりがあることで、新しい気づきやおもしろいアイデアが生まれ、自ら行動することで成果が得られる。そして、そこからまた余白や関わりができる、といった正のスパイラルになると考えています。例えば、忙しく働いている時はなかなか良いアイデアは湧きませんが、ゆっくり散歩している時やお風呂に入っているような心に余裕がある時に、良いアイデアを思いつくことが多いと思います」
 
「提供するスープのこだわりは、3つあります。1つ目は、①化学調味料はなるべく使わず、素材の出汁と塩だけの味付け。2つ目は、②野菜を皮ごと使うなど、なるべく丸ごといただくこと。3つ目は、③素材はなるべく足元にあるもの、プロセスが見えるものを選ぶことです」

「具体的な事業内容は、余白を届ける『まいにちスープ』と、余白に集まる『あつまるスープ』の2つ。『まいにちスープ』では、例えば、自宅で飲める朝食スープや、オフィスのランチスープのデリバリーのほか、会議中や仕事中にコーヒーの代わりにスープを飲むといったスタイルも提案していきたいと思っています」
 
「『あつまるスープ』では、誰かと一緒に過ごす時に、その場にあったスープを提供したいと思います。例えば、皆で集まって勉強する時には、集中力が高まるスープを提供するなど。また、スープを通じて、新しい人やモノと出会うきっかけもつくりたいです。『農家の話とスープの時間』といったイベントを開催して、農家さんの話を聞きながら、その野菜を使ったスープを提供することなどを考えています」

「この『スープの時間』をやっていく先には、小さな社会がたくさん生まれる、と考えています。今まで出会えなかった人と出会ってその後の何かに続いたり、同じような趣味を持つ人同士が集まってその後も関わりを持てたり。そんな機会が増えていくことで、大きな方向性としては食糧やエネルギーの共同体自治につながっていくと思います。また『スープのこの食べ合わせがおいしい』と、この事業を通じて、私自身も小さなしあわせを感じていきたいです」


2.「耕作放棄地を活用した箱庭型菜園事業〜野菜でつながる人々のきずな〜」

熊本県合志市で不動産業を営む上田耕太郎さんは、耕作放棄地という社会問題に着目。耕作放棄地を買い取って菜園にし、箱庭のような形で区切って、野菜づくりをしてみたいという人に提供する事業について提案しました。この事業のポイントは、農業指導付きの会員制農園であることと、野菜を食べてほしい“誰か”を決めてから育てるところにあるといいます。

「耕作放棄地は近年、広大な面積を占めており、大きな社会問題となっています。その原因は農家の担い手不足のほか、農家以外は農地を買えないという農地法上の制約も大きい。一方で、菜園で野菜を育ててみたいという一般市民の方は多いのです」
 
「そこで私が今回ご提案するのが、箱庭型菜園事業です。一般的な貸し農園とは異なり、道具や苗、肥料などを全て準備し、誰でもすぐに野菜づくりができる環境を整備します。また、農業指導のアドバイザーによる勉強会や現地指導を通じて、栽培のバックアップも行なっていきます。収穫後は、ここで野菜づくりをしている仲間同士が交流できるイベントなども開催したいと考えています」

「家庭菜園事業で、私が一番重要だと思うのは、“作った野菜を誰に食べてもらうか”ということです。家庭菜園をしている人の目的は、自給自足の一環、体を動かしたいなどさまざまあるとは思いますが、“誰かに食べてほしい”という思いが非常に強いのではないしょうか。そこで、この菜園事業ではまず、“誰に食べてもらいたいか”というのを最初に決めた上で野菜を作っていただきます。ですので、誰かに食べてもらうということがモチベーションになります。そして、その作る過程を私たちが記録しておき、野菜を食べてほしい人にプレゼントする時にその記録も一緒に渡す、ということをやっていきたいと考えています」

「耕作放棄地を農業従事者以外が購入するためには、非農地化する必要があります。そこで今回、この事業を行うために、貸菜園に転用するという形で許可を取り、耕作放棄地を非農地化して、私が代表を務める不動産会社名義で購入しました。伐採、抜根、造成をして区画を箱庭のような形で区切り、市民の皆さんが菜園として使えるように土の再生も行いました。そして、ただ場所を貸すだけではなく、当社が運営していきます。今後は駐車場や休憩スペースも整備し、月払いで、ワンシーズン6カ月で貸し出したいと思っています」
 
「今回の事業では、耕作放棄地の再生ということで、一般市民の方々が、野菜を育て、食し、誰かにプレゼントするという体験を感じていただく“コト消費”の場を提供していければと考えています。こうした土地の利活用という部分が、私たちのような不動産会社がお役に立てるまちづくりの分野だと考えています」


3.「点字ブロック一口オーナー」

熊本県内でブレイルフレンドリープロジェクトに取り組んでいる加藤英理さん。ブレイルとは英語で点字のこと、ブレイルフレンドとは点字楽譜をモチーフに色や形をアレンジしたアート作品のことをいいます。加藤さんは、ブレイルフレンドの制作やグッズ販売、点字体験のワークショップなどを行なっています。今回は、「点字ブロック一口オーナー」という企画をプレゼンテーションしました。

「『点字ブロック一口オーナー』とは、点字ブロックが壊れた時のメンテナンス費用や設置費用を、国や県が絡むのではなく、視覚障がい者の方も含めみんなでお金を出し合いましょうというものです。点字ブロックに寄付をした方の名前や企業のロゴを入れることで、宣伝広告になります」
 
「この企画を思いついたきっかけは、6・7年前に大阪で、『点字ブロックは目が不自由な方のものです。物を置かないでください』と大きく書かれているにも関わらず、たくさんの通行人によって点字ブロックが踏まれているのを見たことです。その光景を見て、『どうやったら踏まれなくなるのか』と考えるようになりました」

「いろいろと調べてみると、視覚障がい者の方も含め、誰も点字ブロックの予算について関心を持っていないということが分かりました。視覚障がい者の方も、点字ブロックは使うけどお金は払っていらっしゃいません。そもそも点字ブロックが邪魔だという人もいました。黄色が景観に合わない、車椅子やベビーカーの妨げになるなどの理由です」
 
「健常者の方は、自分には点字ブロックは関係ないと思っている方がほとんどですし、そもそもその存在にすら気付いていない人もいました。一方、視覚障がい者の方はほぼ受け身姿勢で、『〇〇してもらう』という考え方の人が多いです。こうしたことが、点字ブロックの課題だと感じました」

「また今後、人口減少が進み、障がいを持つ方が少数派ではなくなった場合、今のように、税金を使ったり、設置場所である施設側が点字ブロックの費用を負担したりするというシステムは通用しなくなるのではないでしょうか。そこで、別の資金調達の方法として、『点字ブロック一口オーナー』を考えました」
 
「障がいを持つ方や健常者の方、企業などがみんなでお金を出し合うことで、社会全体の点字ブロックへの意識が変わると思います。例えば、目が不自由な方も、足が不自由な方も歩きやすい点字ブロックとはどんなものだろう?と、それぞれの立場から考える機会が増え、そこにたくさんの人が関わることでいろんなアイデアが生まれる。この企画を通じて、そんな未来を描いています」


次回、最終発表会のレポート2回目は、4.「外国人をコンフォートゾーンへ」、5.「まるで実家のようにくつろげるお惣菜カフェ」、6.「駅前再開発とブティックホテルリノベーション」の3つのプレゼンテーションをご紹介します。