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郵便局の上にない世界

私が欲しかったもの。
それは郵便局の上にある6畳のワンルームに詰まってたもの。
まぶたに鮮明に焼きついた部屋の中で、私は何度も幸せを辿った。

私が捨てたいと思ったもの。
あるいは、あなたのために捨てられると思ったもの。
私は結局捨てられなかったよ。私が積み重ねてきた全てを捨てようとしたとき、怖くなった。
指先1本、すんでのところですがって、やっぱり私は今の私でいることを選んだ。

正しかったか分からない。でも、若さゆえの悩みだったような気もする。今の私はきっと、昔よりもっとずっと臆病になってしまって、できるだけ不安定を取り除いて生きようとするから。
分からないけど、後悔はしてない。きっとそれが、今の私が出せる答えだ。

ねえ、あなたは今どんなものを見て、どんな人と出会って、どんな言葉を持って、どんなことに絶望するんだろう。
私は、全てを捨てられる人に出会えた喜びと、そんな人に出会えてもなお自分を捨てられなかった私への絶望の中にいる。
それでも、ここには私の大切にするものがあるんだよ。
郵便局の上にない、私にとっての大切な世界があるんだよ。

今日もここで生きていく。
あなたでは及ばない、大切な人たちと笑って、美味しいものを頬張って、泣いて怒って私が大切にできる生活を営む。

ああでも、本当は、私が捨てられなかったものの全てすら、愛してほしかったなあ。