#14【ここからが本番だった】

【※汚い話注意】
祖母は、相変わらず
口だけは達者だった。
 
 
でも、できないことが
どんどん増えて、
普段イラつかない祖母が
動けない自分自身に対して
イライラしている様子だった。
 
 
「ええよ、お茶でいい?」
 
 
といって、お茶を取りに行くと
ありがとうとはいうものも
ちょっと拗ねてるのだ。
 
 
私と同じで、祖母は負けず嫌いだ。
 
 
自分の体が、言う事を聞かなくて
辛いのだと思った。
 
 
ある時、いつものように
お昼ご飯を祖母と食べた後
祖母の見張りをハナに任せ、
家のことをしていたら
祖母がトイレから
出てこなくなった。
 
 
祖母にくっついて
トイレのドアの前で待っていたハナが
二階で洗濯物をたたんでいた
私を呼びにきた。
 
 
ひたすら私の周りを走り、
服を引っ張るものだから
心配になって一階に下りた。
 
 
トイレの前で吠えたハナに答えて祖母が
「ちなつか?」
と苦しそうな声で答えた。
 
「え、どうしたん?大丈夫?
開けてもいい?」
 
「おばあちゃん、今
めちゃくちゃお腹痛いのに
どんだけ踏ん張っても
何も出んねん!
苦しいから、浣腸かなんか
買ってきて!!!」
 
絞り出したような声が聞こえた
 
「わかった!とりあえず今日暑いし、
脱水なったらもっと大変やから
お茶のペットボトルだけ
置いとくから、ちょっと待ってて!」
 
 
どんどんなくなる体力で、
お腹に力を入れることも辛いはず。
 
 
そういえば、2、3日前の診察で
胃だけではなく
腸の方にも転移がきていると
言われていた。
 
 
浣腸という対応策でいいのか、
心配になったので病院の先生に
対応だけ聞いて、家を飛び出した。
(浣腸であっていた。)
 
 
イチジク浣腸を買いに
自転車をかっ飛ばし、
母に状況をラインし、
なるべく急いで帰宅した。
 
 
おばあちゃんに浣腸をし、
気が気でない状態で、
ハナを撫でながらトイレの前で待った。
 
 
もちろん、扉1つしか隔てていないので
音も聞こえるし匂いも漏れる。
 
 
でも、そんな事より、
祖母の体力の方が心配だった。
 
 
やっと、水が流れる音が聞こえ
憔悴しきった祖母が出てきた。
 
 
「大丈夫?」
 
「あかん、とりあえずあっちこっち
汚してしもたわ、ごめん。」
 
「拭いたらそんなん綺麗になるから
問題ない!
大丈夫そうやったら病院来んでいいって
先生ゆうてたけど、
どうしよう?いこか?」
 
「うん、大丈夫。
めっちゃ疲れただけやから
問題ないわ、ほんま疲れたけど。
シャワーだけ浴びていい?」
 
「着替えだけ準備してるな」
 
 
祖母がシャワーを浴びている間に
母と病院の先生に報告をして、
トイレを掃除しながら
私は、考えていた。
 
 
多分、確かに、
出なさすぎる老廃物と戦って、
物理的にも疲れたのだろう。
 
 
でも、それだけじゃなさそうだった。
 
 
歩けなくなった。
 
 
食べられるものが減った。
 
 
今度は、まさかのトイレだ。
 
 
人に干渉されたくないような
非常にプライベートな事だ。
 
 
一般的に、結婚してても
見せるところではない。
 
 
このままだと。
孫や、娘に
シモの世話をしてもらうしかないのだ。
 
 
意識がしっかりしてるし
負けず嫌いの祖母だ。
 
 
それの気持ちを想像するだけで
胸が締め付けられる思いだった。
 
 
シャワーを浴び、
疲れ切った祖母は、
リビングに戻ってきてすぐに
倒れるように眠った。
 
 
病院の先生が
「そろそろお薬増やさないと
しんどい頃かもしれん」
「できるだけ寝かせてやって」
「これからもこれ以上のことが
どんどん増えるから、
お姉ちゃん頑張って支えてな」
 
 
と、声をかけられた
その言葉が、頭の中をぐるぐるしていた。
 
 
その日のバイトは
心ここに在らずの状態で
チーフに心配されてしまい
早めに帰してもらった。
 
 
でも、ここからが
本番だった。

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