#6【3ヶ月、丈夫に使えるスマホをください】

おばあちゃんとスマホを買いに行った日は
2月にしては暖かい日だった。
 
 
いまいちスマホを理解していなかったので
私が持ってるスマホを見せて、
LINEで何ができるのかを実演してみせた。
 
 
「どんなスマホが欲しいん?」
 
「おばあちゃんが生きてる間、
一日24時間使っても壊れへんやつ!」
 
 
おばあちゃんは、友達が多い。
 
 
独居老人とは程遠い、
ものすごく人脈の広い人だ。
 
 
親戚が多かったのに加えて、
自分で事業をしていたのもあり
引退後、お客さんが茶飲み友達になっていたりで
とんでもない分厚さの電話帳が家にあった。
 
 
底抜けの明るさと、
抜群の記憶力の良さが
多種多様な人を味方につける。
 
 
それだけの友人に、連絡を取りまくりたいとのこと。
 
 
「じゃあ、正直どれでもいいと思うわ、
値段と、デザインで決めたらええんちゃうかな?」
 
 
近くの家電量販店に出向き
色々スマホを触っていると
店員さんが寄って来る。
 
 
「何をお探しですか?」
若いお兄さんだった。
 
 
「3ヶ月、丈夫に使えるスマホが欲しいんです」
 
 
迷うことなく、祖母は答えた。
 
 
その上、聞かれてもないのに
自分は胃ガンで、余命が3ヶ月であることや
LINEを使っていろんな人に連絡を取りたいことを
 
 
信じられないぐらいの笑顔で
さも「冷蔵庫が壊れちゃったんですよー」
程度の話のように、滔々と話した。
 
 
若い店員さんは、急な重い話に
あたふたしていらっしゃいました。
そりゃそうですよね。
 
 
でも、この性格が、
おばあちゃんが、みんなを魅了する。
 
 
それが祖母なのだ。
 
 
どれだけ絶望的な状況でも
今自分のできることを考えて
それを余すことなく実行する。
 
 
おそらく、祖母の中では
スマホを買う、という決断に行き着くまでに
散々悩み、辛い思いもしたかもしれない。
 
 
自分の死と向き合う必要があるからだ。
 
 
でも、それを微塵も感じさせない
意志の強さと、行動力。
 
 
嘘をつけない性格も相まって
隠せないし、隠そうともしない。
 
 
だから、おばあちゃんなんだよなー
とか思っちゃって
そのやりとりを見ていて
笑いが堪えられませんでした。
 
 
平塚らいてうの
「元始、女性は実に太陽であった」
という言葉を地で行く人だったと思う。
 
 
無事に、お目当のスマホを手に入れ、
すぐに祖母の家に向かい
初期設定をし、
使い方を一晩かけて
祖母に叩き込んで、
翌日にはフリック入力をマスターしていた
祖母には、舌を巻いた。
 
 
当時71歳。
 
 
やっぱり、うちのばあちゃんだなーと
帰り際に思った。
 
  
 
 
ちなみに、祖母が使っていたスマホは
亡くなってからSIMを入れ替えて
「形見や!」ということで
母が使っていました。

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