#25【母親の苦悩と私】

夜の時間は、いつも
私と母の2人きりの時間だった。
 
 
私はバイトから帰ってくるのが
日付を過ぎるかどうかぐらいで、
母親は深夜番組が好きだったので
だいたいそれぐらいの時間なら
起きていたからだ。
 
 
リビングで、2人。
 
 
たわいのない会話を
する事も多かったが、
このところ話題は決まって
祖母の話か、お金の話だった。
 
 
ある日、母親が
「そうや、お金ないって事
お父さんに言ったんよ。」
 
「あ、そうなんや?
お父さんなんて?」
 
「それが、なんも言わんかったんよ。」
 
 
お父さんが何も言わないときは
解決策が思い浮かばない時だ。
 
 
「もうどうにかするしかないから
借り入れするけど、いい?って聞いたら
構わん、ってゆうてくれたから
しゃーないけど、そうすることにした」
 
 
例えばの話だ。
 
 
このお金の借り入れが、
将来回収できる可能性のある
借り入れなら、文句は言わなかったのだろう。
 
 
でも、どう何を頑張っても
回収なぞできない。
 
 
死にゆく借金まみれの人間に
吸い込まれていくお金だからだ。
 
 
一時的に解決したかもしれないが
納得いかないのもわかる。
 
 
「まぁ、とりあえずは
悔いがないようにしてあげれるんちゃうの?
それだけ考えとこうよ、
まぁ私は孫やしのほほんと
そんなこと言ってられるんかもやけど」
 
「あんた気づいてないの?
おばあちゃんがあんたに何や
してもらってる時と、
お母さんがおばあちゃんに
してる時と、態度ちゃうこと。」
 
 
痛いところを突かれた。 
 
 
気づいていないわけがない。
 
 
わかっていたが、
私からそのことを切り出すことは
できなかった。
 
 
さて、どうしようか。
 
 
「ええねん。
ちなつもよくわかってるやろ?
お母さんも、おばあちゃんも、
プライド高いってこと。
まぁあんたも高いけどな。
やから、お母さんは、
おばあちゃんがそうやって
態度変えてるん知ってるし、
理由もよくわかってる。」
 
 
まともに母親の顔が見れなかった。
 
 
見たくもない深夜番組から
目が離せなくなっていた。
 
 
「おばあちゃんは、あんたが
借金のこと知らんと思ってる。
やから、多分普段のおばあちゃんみたいに
普通の態度で、感謝してって
できてるんやと思うねん。」
 
 
そうか、私は、
まだまだ子供扱いされていた
方がいいのか。
  
 
「やから、ちなつにお願いやねん。
お母さんは正直どうでもいい、
家におばあちゃん呼べたこと、
おじいちゃんが急すぎて
最期は看取れへんかったけど
おばあちゃんなら大丈夫やから。
その安心感をお金で買えたと
思ってるから。」
 
 
なるほど、そう思わないと
やっていけないということ
でもあるのか。
 
 
「せやから、ちなつには、
ほんまに苦労かけると思う。
おそらくおばあちゃんから
お母さんの愚痴も聞くと思う。
でも、お母さんも頑張るから、
ちなつも、辛抱してほしいねん。」
 
「うん、わかってる。大丈夫。」
 
 
うちの母親は、いうことすべて、
心の中と天邪鬼なのだ。 
 
 
だから、発言の裏を読みながら
話を聞かないと、
こないだ言ったよね!
ということになる。
 
 
つまり、今回の話はこうだ。
 
 
母親はもう限界だと、
祖母の態度も悪い、
お金も借り入れすることになった、
考えること、身に降りかかる
不幸が多すぎて、パンク寸前だと。
 
 
とりあえずその状況を把握した上で、
祖母がどれだけ愚痴っても、
ストレス過多になるから
母には知らせないでほしいし、
母は、変わらず私に愚痴るから、
それも祖母には言わないでいてほしい。
 
 
まぁ、わからなくはないのだ。
そもそも、自分の母親が
死に向かって全力疾走してるって
こと自体が、とんでもないストレスだ。
 
 
でも、それをわざわざ私にいうことで、
私がどういう状況に置かれるのかを
わかって、発言したわけではない。 
 
 
私目線で解釈すると、
play the fool.ということだ。
 
 
つまり、道化を演じろと。
 
 
子供のふりして、
何も知らないふりして、
素直に祖母の面倒を見て
両者からの愚痴を聞きながら、
自分自身の中に溜め、
祖母にも、母にも、家族にも、
いい顔をし続けろということだ。
 
 
私の感情を殺し、
その上で、それをやり遂げる。
 
 
やってやろうじゃん!
 
 
私はその道化の役を、引き受けた。
 
 
先日父親に引き出してもらった、
覚悟を心に。
 
 
それに加えて、
母が毎晩、不安で寝れていなくて
キッチンで1人泣いていることも、
パートの帰りに、車の中で
大声で泣きながら帰ってきていることを、
知っていたから、
母と比較した時に
私はまだ頑張れると
思ったから、というのも
大きな理由の1つだ。

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