#21【パンクする】

祖母の病院について、すぐに
「お母さんとお姉ちゃんだけ、
ちょっと先に診察室にきてくれ」
 
 
と呼び出された。
 
 
「前に言ってたと思うけど
もう選択肢は2つや。
入院か、注射のどっちかしかない。
我慢強い人やから、モルヒネ飲まんでも
いけると思ったんやろうけど、
これからはその想定を大きく超えて
痛みが襲ってくる。
今後、同じようなことがないとは限らんし、
もう、強制的に体に入れるしかないんや。」
 
 
母も、私も、固まってしまった。
 
 
入院=もう帰ってこれない
ということでもあるからだ。
 
 
私は、母親の判断を待つことにした。
お金を出すのは、母親だ。
 
 
「ちょっと考えてもいいですか。
おばあちゃんと2人になって。」
 
 
しばらくの沈黙のうち、
母が口を開いた。
 
 
待合室に戻って、
2人で話をしていた。
 
 
祖母は、今回の痛みに懲りたのか
うん、うんと話を聞いていた。
 
 
否定は、しなかった。
 
 
ただ、一言きっぱりこう言った。
 
 
「まだ、入院せんでもいい
選択肢があるなら、
そっちを取りたい。
入院したら、脳みそまで腐りそうや」 
 
「わかった。」
 
 
近くにいた看護師さんに
意志を伝え、診察を待った。
 
 
私は、入院せずとも、強制的に
モルヒネを入れるって
どういうことだろうと
不思議に思っていた。
 
 
「これから、1日に2回、
家で、点滴をしてもらいます。
点滴の中に、モルヒネも入れて、
一緒に吸収してもらうんや。」
 
「モルヒネ以外にも、他に飲んでた
薬も全部一緒に入れることができるから
わざわざ飲まなくて済むから
かなり楽になると思うよ、本人は。」
 
 
つまり、こういうことらしい。
 
 
祖母の喉の近くに、点滴用の蓋(?)
のようなものを設置し、
その管を通じて、簡単に家庭で
資格もいらない状態で
点滴ができる医療器具があるらしい。
それを使うのだそうだ。 
 
 
ただ、その点滴を管につなげる作業や、
点滴の中に入れる薬の種類、
実際に中に入れる作業は
家族の人がするしかないため、
その手間がかかるとのことだった。
 
 
ついには、自分で薬を飲むことすら
叶わなくなったのだ。
 
 
その蓋を喉につける作業のため、
2日後に病院の予約を取り、
それまでの2日間は
絶対に薬を飲むことを
約束させられ、
私と母は、点滴の仕方を
奥の処置室で教わっていた。
 
 
作業自体はシンプルだった。
 
 
点滴の大きな袋に、
指定された薬を、指定された量だけ、
注射器にとって、その注射器から
点滴の袋にブスッと刺して、入れる。

それを、簡単なコネクターみたいなのに
繋げて繋げて繋げて、
最終的に祖母の喉にくっつくようにするだけだった。
 
 
ただ、薬の量が多いのと
その薬によって入れる量が違いすぎて
もう頭の中がパンクしそうだった。
 
 
いや、パンクしそうな理由は
他にもあった。 
 
 
私は、まだ
昨晩の母親のカミングアウトを
引きずっていた。
 
 
すぐに切り替えられるほど
器用ではなかった。

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