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計算書を読んでみよう ~木構造のための構造力学~1

 この講座は、私が社内向けに作っていた構造力学演習の講座部分を再編集したものです。2級建築士レベルの構造力学のおさらいと、実務との融合を目的にして作りました。何かの役に立つかもしれないのでアップしていきます。

目次
第1回 計算書を読んでみよう(今回)
第2回 力のつりあい
第3回 モーメントとは?
第4回 反力
第5回 応力
第6回 断面について
第7回 図心・断面一時モーメント
第8回 断面二次モーメント
第9回 断面係数
第10回 許容応力度

 第1回は、計算書を読んでみようです。構造計算書たくさんの数式が書いてあってわかりませんね?最初のうちは、1つ1つ読み進めることが重要です。実際の構造計算書の梁の計算部部分を見てみましょう。何書いているかわからないでしょうけど、まずは眺めて、あとで説明を読んでから、再び眺め・・・を繰り返し、理解できるようにしましょう。

単純梁の設計

 通常の講義では、力学の基本、力のつりあい、反力、応力・・・という順で学習します。しかし、それでは実務ではどうやっているのかわかりにくい!ので、今回はいきなり実務で使う計算式を見てから、構造力学で学ぶ内容がどの部分なのか勉強していきます。難しいことは除いて、追っていきましょう。

 そもそも単純梁とは、梁です(・・・)。いろいろ条件はあるのですが、今回は柱と柱にはさまれた間の梁と考えてください。一番簡単な形です。しかしそれだけだと面白くないので中央にモグラと分銅(体重込みで1 00 キログラム)が載っている形です。鉄骨造やRC造では、梁の自重を入力しますが、木造では一般的に入力しません。床荷重と一緒にならして計算しています。もし自重を考慮したかったら等分布荷重で計算します。

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単純梁1

単純梁

① ベイマツ 10.0 × 10.0 (cm) スパン L = 200.0 (cm)

② A = 100.0 (cm2) Z = 166.7 (cm3) I = 833.3 (cm4)

③ fb0= 9.4 (N/mm2) fs0= 0.8 (N/mm2) E0 = 10000 (N/mm2)

E = E0 = 10000 (N/mm2)

④長期 fb=1.10 × fb0=10.34 fs=1.10 × fs0=0.88 (N/mm2)

P = 1000.00 (N) M1 = 50000 (N ・ cm) M2 = 50000 (N ・ cm) Q = 500.0 (N)

total M1 = 50000 (N ・ cm) M2 = 50000 (N ・ cm) Q = 500.0 (N)

⑤ σ / fb = M / (fb × Z) = 0.29 ≦ 1.0 OK

⑥ τ / fs = (1.5 × Q) / (fs × A) = 0.09 ≦ 1.0 OK

⑦ δ = (5 ×ω× L4)/(384 × E × I)+(P × a2 × b2)/(3 × E × I × L) = 0.20 (cm) ≦ 2.00 OK

⑧ δ× 2.0 = l / 500 ≦ l/250 OK

 これは、ある構造計算ソフトで計算した実際の計算です。数字はともかく、たくさんの記号が出てきて難しいですね。でも一個一個の式はよく見ると簡単です。理論はともかくやっていることは非常に簡単です。しかも数字を入れてしまえば答えが出てしまう構造計算ソフトがあります。もちろん理解していないで使うのは非常に危険です。使い方を間違えれば大変なことになります。ですから計算できるようになることは大事ですが、それ以上に使い方や制約、条件などを頭に叩き込む必要があります。あなたは電卓ではありません。

① は部材を現しています。ベイマツという材料を使い、その太さは10センチ、スパンが200センチという意味です。スパンはその部材の実際の長さではなく、支点間(この例だと柱間)をいいます。

② は A ・ Z ・ I を計算したものを表示しています。 A は断面積です。今回は10センチ×10センチなので100平方センチメートルですね。 Z は断面係数です。 I は断面二次モーメントです。 Z と I は梁の計算をするうえで非常に重要な役割を果たしますが、実は単純な公式です。建築士試験ではよく問われるのでおなじみですね。

③ は、使う材料(今回はベイマツ)の諸性能を記載しています。実際には表にしてまとめておきます。これは使う材料毎に決められていますので、使う材料が一緒であれば同じ数値になります。

④ は、実際の計算部分です。長期とあるのは、今回は長期に関して計算するという意味です。梁の計算は実際同じ材料でも長期と短期と積雪時を計算します。そのため計算書は膨大になります。しかし計算結果は異なりますが、計算のやり方は共通です。ですから覚える内容は非常に少ないのです。ちなみに単純梁の形であれば、梁であろうとどうざしのやり方は共通です。ですから覚える内容は非常に少ないのです。ちなみに単純梁の形であれば、梁であろうと母屋であろうと計算の仕方は同じです。

⑤ ここで実際の梁が設計上問題ないか(許容応力度内におさまるか?)を計算します。1行目はσ(シグマ)を fb で割っています。これは曲げの量を計算し、許容内かどうかを計算しています。σ /fb が1より小さければ問題ないという式です。ですから今回曲げに関しては十分な性能があることがわかります。

⑥ は、τをfsで割っています。これはせん断について検討しています。これも今回の事例の場合十分な余裕がありますね。だから問題ありません。

⑦ はδです。たわみを検討しています。たわみに関しては2センチ未満か梁の全長の何分の1かという二つの基準で計算し、どちらとも満たす必要があります。ここでは2センチ未満という条件のみで計算しています。実際には基準を満たしても2センチもたわんだら大変ですね。ですから実情にあわせ建築基準法という最低基準だけでなく、安全で長期使用に問題がないレベルで設計する必要があります。計算ソフトで OK だからといって大丈夫ではない、というのはこういう理由です。

⑧ は、木造の場合、長期間使っていると、次第にたわんでくる性質(クリープ現象)を加味して計算しています。つまり⑦のたわみの2倍が、ある基準より小さければ OK ということです。木造の場合必ず検討しなければなりません。

 このように見ていくと流れがわかると思います。計算方法は、まず

1:諸条件を書き出します。
2:応力を求めます。
3:断面積、断面係数、断面2次モーメントを求めます。
4:曲げ、せん断、たわみを計算し、許容応力度内にあるか確認します。

 という手順になります。よく見ていると、クリープ以外は二級建築士の試験範囲内なのです。つまり建築士試験の技術があればほぼ実務ができてしまうのです。しかも単純梁の計算を覚えてしまえば、ほかは応用です。そんなに難しくはありません。

 第2回は、力のつりあい、です。今回みた計算書の内容がわかるように、これから第10回まで説明したいと思いますので、頑張ってついてきてください。

第2回 力のつりあい

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