🇨🇳#29 福建省・福州で地震に遭う
わたしは肘にボヤけた青いホクロが1つある。
そのホクロについて父のみそ蔵から、「それは小さい頃に入った鉛筆の芯だ」と長年嘘を教えられていた。
そんな嘘を子どもについて一体何の意味があるのか分からないが、わたしの父というのはギャグのセンスのない男なのだ。
そして、父・みそ蔵の嘘を鵜呑みにしたわたしは、芯が体のさらに奥に入ってしまうことを恐れて、実に、中学生になるまで自分の右肘に積極的に触れなかったのである。
とにかく、何が言いたいのかと言えば、物事の事実確認というのは慎重に行うべきだという話だ。
アル中の禁断症状が出てきたかも?
マカオから広東省の珠海を経由して福州に着いたわたしは、ホテルの部屋で自分が小刻みに痙攣していることに気づいた。
青島ビールやハルビンビールでごまかしごまかし旅を続けてきたが、このアル中の体がついに本物のアルコールを欲しだしたのだろう。
わたしは、体への労いの気持ちを込めて、小さなウイスキーを買い、濃いめのハイボールを作って飲んだ。
あー幸せ…。
酒が体に染み渡ると、震えもおさまった。
やはり、わたしにはアルコールが必要なのだ。
山岡さんお墨付きの「佛跳牆」
また、雨で海岸へはいけないことから、かわりに食で贅沢をしようと思い、福建省・福州のご当地グルメ佛跳牆(フォーティャオチァン)を部屋で食べることにした。
ニュースサイト「ねとらぼ」によると、グルメ漫画『美味しんぼ』に登場したメニューの中で、読者が食べてみたい料理の1位に選んだのが、この佛跳牆(フォーティャオチァン)だと言う。
わたしの場合は、14巻の学祭話で登場したポテト・ボンボンの方がもっと食べたいと思ったが。
(真似して作ったが、成功した試しがない)
この佛跳牆(フォーティャオチァン)、山岡さんのお墨付きなだけあり、とんでもなく美味い。
海鮮の乾物をふんだんに入れて数日間煮込んだスープなのだ。
使われるのは、干しあわび、干し貝柱、フカヒレ、魚の浮き袋、干しなまこ、干しエビなど高級食材ばかり。
また、この名前自体、「修行僧がその香りにつられて、禅の道を捨てて寺の壁をとびこえてしまうくらいおいしい」という意味でつけられたという。
わたしの個人的な「中華料理総合ランキング」でも、蟹肉小籠包に次ぐ第2位にランクインしている。
で、佛跳牆に舌鼓を打っていると、また体が揺れた。
あれ? わたし、佛跳牆食べて飛び跳ねた?
なんて察しが悪いんだろう。
中国の上海近郊ではほとんど地震が起きない。
そのため、ついつい中国にいたら地震はないものだと思い込んでしまったようだ。
結局、夜中何度か体の揺れを感じて目覚め、朝になってからようやく状況を理解した。
わたしは今、台湾から目と鼻の先の福建省・福州にいる。
そしてここは上海とは違って地震多発地域だ。
調べてみると、昨日4月27日未明、台湾花蓮県海域でマグニチュード5.8の地震があったらしい。
その影響で余震が続いているようだ。
ネットには「4/3の(マグニチュード7.5の)地震の際は、福州南駅でも新幹線が10h動かなかった」というコメントが書き込まれている。
いや、それは困る。
わたしは今日16:00に上海で歯医者を予約しているのだ。
それを逃したら歯医者は明日からゴールデンウィークに入ってしまう。
早くこの成都で折れた前歯をどうにかしたい。
福州を脱出しよう。
少なくとも、この一泊130元(2600円)の安宿は出よう。
外観内観ともに、耐震性に不安を感じる。
それに、まあまあ海岸にも近い。
早めに福州南駅に着いた方が安全だ、わたしはそう思った。
でも、先ほど朝マックを頼んでしまった。
またしても部屋がぐらぐら揺れ出しているが、朝マックは食べたい。
いや、朝マックは駅で食べよう。
地震の鉄則は「お・か・し・も」なのだから。
「お・か・し・も」…おさない、かけない、しゃべらない、もどらないだ。
いや、待てよ、わたしには、おす人もいないし、しゃべる相手もいないし、二度とここへ戻るつもりもなかった。
「お・か・し・も」は地震の際の大事な教訓だが、朝マックを部屋で食べないで速やかに避難することの注意喚起にはなりそうもない。
とりあえずわたしは「駆けない」だけは守って部屋を出た。
そして無事、福州南駅に到着。
1か月の長旅で体中メンテナンスが必要なので、一旦上海へと向かう。
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