来週も待ってますね。ということ

退院後，2回目の診察。
前回と同じ，水曜9:30。

毎週，同じ時間，同じ場所，同じ人というのは
精神分析とかでは，けっこう大事なことだっていわれるけど
私，そんなに重視したことなかった
けど，
ぐらぐらしてる時期には，頼りになることのひとつなんだなって
最近，ちょっと実感できてきてる感じがある

私がなんか，入院の始めのころ，落ち着かなかったことの1つって
最初の日に，病室に知らない人（チームの1人のお医者さんだった）
が急に入ってきて，名前も名乗らずに「いつも通りですか？」と質問されたことからスタートしたので，自分はそういうのがすごく苦手なんだろうなと今は思ってる

あなたは誰でしょうか
私の何を知っており
私がどういう状態の場合に
何をいつも通りと判断するのでしょうか？

ということすべてが，提示されてないのでもやもやしちゃって，
いつも通り？どうだろ・・・まあそうかも
でも，それよりも，あなたはどなたなんですか
みたいなことを考えちゃった

せめて「はじめまして，○○といいます，本乳腺外科の医師チームのひとり
です。初めてお会いしますが，カルテはきちんと読ませていただいて来ています。明日手術ですが，お身体や気持ちの面など，どのようなことでも，何か気になることはありますか？」
くらい，言ってくれればもっと安心できたと思うんだけど。
（あとで来た，別の知らないお医者さんたちは，こういうこと割ときちんと話してくれて，自分も安心できた）

まあこの話は関係ないんだ。

2回目の診察の話にもどる。
9:35頃に，私じゃない人が呼ばれた。
あ，先生の声だ。と思って，今日も先生居るんだなと思った。
私の近くに座ってたご夫妻のように見えるふたりづれが席を立って入っていった。20分くらいは経った気がする。色んな話，診察，してたのかな。
出て来て，高額医療の話をしてた気がする。手術とか，全部いろいろこれからなのかもしれない。

で，二人目に私が呼ばれた。

先生の部屋はちょっと広めで，私が行ったとき先生はＰＣをみてた。
私がおはようございます。って言うのに重なって先生が
こんにちはー。って言ってた。

なんか最近，不思議なんだけど
先生が本当に居るの見ると，びっくりするんだよね。

なんだろ，髪の毛の，白と黒が混ざった感じとか
靴の，ぴったりと履きやすそうなのを履いてる感じとか
ネクタイの柄，眼鏡，白衣
よくみたら，身体ってほんの少ししか出てない
耳と，目と，髪の毛が少し出てるくらい。

だけど，そのくらいで充分。
なんていうか，私にとってはインプリンティングされた強烈な親に近い存在になってて，それが週に１回しか会えないわけだから，
本当に会えるとき，刺激がかなり強いんだよね。

だからもう緊張でガチガチになっちゃうの。
治療が怖いのかもしれないけど，それが自分でもよく分からないわけ。
先生は自分のこと怒ってないと思うんだけど，
もし怒ったり，いなくなったりしたらって思うだけでも
不安になったりするのかな，自分の状態が不可解で，よく理解できないんだけど。

水溜まってる？とすぐいわれたので
はい，けっこう溜まってます。
って言ったら，じゃあ抜こう，ということになり
またブラウスを脱いで，ブラを半分脱いで，キャミソールを肩まで上げた。

途中，ブラウスのボタンが，小さい蜘蛛の糸みたいなのでひっかかってとれにくくなった。
ちぎったりしないように，慎重に外したら
少し時間がかかったけど，うまくとれた
先生が待ってくれているのを感じて，
自分はなぜかおちついた気持ちになり
安心して，ゆっくりやった。

今回は，注射を刺す前に
先生が「ちくっとはしないと思うけど」
と言って，前回と違って，ななめから静かに針をさしてくれた
本当に全然痛くなくて，変な感じもしなかった

ただ，とにかく緊張していたので
ぎゅっと目をつむって我慢していたら
緊張してるの？大丈夫だよ
と言いながら，先生は
気分が悪くなったら言って。と言った。

先生優しいなあと私は思ったが
その次の日，職場で小児科医の先生が採血の話をたまたましていて，
女性で，採血中や採血後に気分が悪くなって倒れる人がいるので
その緊張をほぐすために話しかけたり，倒れてしまう前に察知したりするのが大事だと教えてくれたので
ああ，先生が個別に優しいって思ったけど
先生は普通に注射のときの注意事項をやってただけかも，
ってあとで思ったよ

でもとにかく，医療のうえでのケアはじゅうぶんに注いでくれている
それは私には，とても安心なことなんだ

3本ぶん，たまった水を抜いて
とくに３本目は，慎重に「できるだけ抜いておきました」って，かき集めて抜いてくれた感じだった

ほんとに，すぐ水が溜まっちゃうので
抜けるだけ抜いてくれるの，すごく助かったよ

あとはね，また仕事の話をして
心理検査はなんとか，できましたってことと
夕方になると，痛みがきつくてつらくなってくる話をした
それから，来月末に出張に行ってもいいか，ときいたら
大丈夫，もっと回復してると思うから，でも無理はしちゃダメ
といわれたのと，
そのあと，ジョギングしてもいいですか？ってきいたら
えっ？っていう感じで，少し笑って，少し考えて
散歩くらいから始めた方がいいよ。って言ってくれたんだった。

私ね，こういう，なんていうかね，
医学とかあんまり関係ないような質問に，
意見でこたえてくれる感じ好きなんだよね。

なんかね，お医者さんとこういう話がしたいの。
なんか，お父さんどう思う？ってきいたときの返事みたいな
そういう，意見みたいなのがききたいんだよね。

まあとにかくインプリンティングの親だから
私にとったら，どんな意見でも嬉しいんだよね。

で，なんか私が緊張していて，あんまりしゃべらないから
すぐかえらないといけなくなる。

多分，来週は病理検査の結果が出てる。
先生は，たぶん，余計なこと考えないですむように，私にそのことは言わずに
ただ，「来週も待ってますからね。」
と言った。

私は，夜になって
星の王子さまのキツネのこと思い出した
水曜日，9:30
その曜日じゃない日は，先生には会えない日だし
その曜日や時間が近づくと，私はうれしくなりだす

それから，
はじめ，王子様がキツネに出会ったときは
他の10万もいるキツネと同じだったんだけど
友達になったら，ほかにはいない，たったひとりのキツネになるってこと

自分にとっても先生がそんな風になってきてる
先生にとっては，ほかの10万もいるキツネと自分は同じキツネか，
そうじゃないか。

って考えたりしながら
来週の約束のこと，なでたりひっくりかえしたり
口に入れてみたり，日の光にすかしてみたりして
それから，胸の中に大切にしまった。