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「わたしを空腹にしないほうがいい」理由

私は食べることが大好きだ。そしてご飯を美味しそうに食べるという特技も持ち合わせている。家族にも「美味しそうに食べるから、作りがいがあるわ」と褒められるくらいである。

ただそんな食べることが大好きな私でも、一時期全くご飯を食べられなくなった時がある。

ちょうど大学3年生か4年生の頃だっただろうか。
就職活動のストレスと、「食べないこと=自分に対してストイック」と偏った当時の思考も相まって、食べないことを良しとしていた。
最初は軽いダイエットのような気持ちだったのだが、徐々に食べることが悪のように感じてしまって、目の前に食べ物があることさえ不快な気分になっていた。母が出してくれるご飯を全て食べきれない自分に対しても腹立たしく感じ、それならば食べない方がマシ、と食べることを拒むことも何度かあった。
今の私が通常ならば、あの時の私は異常であった。ただ、自分がその渦中にいる時はその異常さや、危険さに気づけないものなのである。

初めて「わたしを空腹にしないほうがいい」を読んだのは、徐々に食べることが好きな自分に戻った社会人2年目の時だった。
くどうさんが書く文体は柔らかくて、けれど芯があって、何より好きなもの(好きな食べ物)に関して書かれている文章は熱気を帯びていて、読んでいてまるでくどうさんの生活を覗いているような気分になった。

そんなくどうさんでさえ、大好きな食事を摂れなくなってしまったことがあると言う。
食べられない自分と向き合っている時のくどうさんの文章は、まるで日々もがいていた大学時代の自分が描かれているようだった。

今は、そんな時の自分はどこに行ってしまったんだ?というくらい、食べることが大好きな自分に戻っている。
けれどそんな自分に戻ることができたのは、自分とたくさん向き合って自分なりの体調に関する最適解を見つけたり、家族や友人が私とたくさん向き合ってくれた過程があるからである。沢山食べられるようにならなくてもいいから、とちょっとずつしか食べられない自分を周囲が受け入れてくれたからである。

本の最後は、こう締めくくられている。
「いい加減に菜箸を持たなくては。お湯を沸かそう。満腹は遠くても、わたしを空腹にしないほうがいい。」

わたしを空腹にしないほうがいい。
この言葉は今でも私の心のお守りになっている。

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