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ロード・オブ・ザ・エンゲージリング

またの名を「婚約指輪戦争〜仁義なき男女の戦い〜」ともいう…。

縁起でもないタイトルだけれど、婚約指輪って冒険の始まりでもあり、葛藤を生むものでもあると思う。
ちなみに、下記が「ロード・オブ・ザ・リング」の概要。

『指輪物語』を原作とする実写映画化作品。絶大な力を秘めた「一つの指輪」をめぐり、選ばれし旅の仲間9人と、冥王復活を目論む闇の軍勢との戦いと冒険を描く。

絶大な力を秘めた「一つの指輪」をめぐり、選ばれし夫婦2人と、実験支配を目論む嫁両親との戦いと冒険を描く…(婚約指輪戦争)。

おそろしい…。でもちょっとワクワクする…?

【序】

婚約指輪戦争の主人公しろたは、小さい頃から白いウェディングドレスとガーデニングウェディングが夢だった。

【最愛の人から突然のプロポーズ】
跪き「ぼくと結婚してください。一緒に幸せになろう」と熱い眼差しで私を射抜く彼。溢れる涙を拭うのも忘れ、彼を抱きしめる私。そっと離れた後、彼は震える手で私の左手の薬指に光り輝く2人の永遠の愛の証をはめるのであった…(完:鳴り響く鐘の音)

現実は、そんなにロマンチックじゃない。
痺れを切らして「結婚する気ないなら別れてくれる?私は結婚して家庭を持つことに幸せを感じる人間だから」と彼に迫り、彼からは「わかった。じゃあ、○月○日にXXXホテルでプロポーズするから」と予告されたのが我々の現実。
とはいえ、わかってはいても、当日の彼は緊張していたし、彼の言葉に思わず泣いてしまった。フワフワと幸せな気持ちで温かい1日を過ごした。


しかし、我々が生きているのは現実の世界。
ロマンチックな時間は一瞬で、次から次へとやってくる現実に立ち向かわなければ、ダンジョン攻略はかなわない。

「結婚」は、2人が「結婚して幸せになろうね♡」で成立しないもの。
だって、結婚は、2人が性的・社会的に結ばれることを社会が認める「制度」であり「儀式」だから。親密な関係を家族と築いていれば家族に認めてもらう必要があるし、少なくともお上に認めてもらわないと、法の上で夫婦と名乗れない。

「恋愛」という舞台は2人がいれば十分に成立していたけど、「結婚」という舞台に上がると、登場人物はあっという間に増えるわけ。

ステージを上がったばかりの2人に立ちはだかる登場人物「親」。

3つ星レストランを予約し、銀座のお菓子を手土産に挑んだ我々。緊張した彼「しろたさんと、ぼぼぼボクの結婚を、おお、お許しくだしゃ、い」とカミカミ。目の前に座る母。にっこり微笑みながら「私たち、正式なお食事は今回が初めてでしょ?非常識ね、まだ早いわよ(出直してきな、小僧)」の一蹴。

もちろん、そんな両親は、婚約指輪がない状態で「結婚」はもちろん、同棲も許すはずもなかった…。


【一章:買う買わない論争】

ここで、さらに厄介なのが彼の価値観。

「婚約指輪? そんなのシンボルに過ぎないじゃん。このあいだ結婚したボクの友だちのカノジョは『婚約指輪を買うくらいなら、そのお金で新婚旅行に行こう』って言ったんだって。それにボクも激しく同意。だから、ボクは買いたくない」

じゃあ、友だちのカノジョと結婚しろっ!

と、思わずツッコまずにはいられない台詞を真顔で言った彼。
現代は、結婚に関する価値観が変わり、結婚式はもちろん、婚約指輪に対する考え方も昔とは大きく変わってきたのも事実。

そういう価値観があるのは認めよう。

でもね。私は欲しいの。夢だったの。憧れだったの。

「婚約指輪の有無」論争で、「理屈」を武器に堂々戦えるのは「婚約指輪なんて要らない」組。言っていることがごもっとも。しかも、女性からこれを口にできたら素晴らしい。はなまる。健気だし、この人となら一緒に生きていけるなと再確認させる台詞。大切にされること間違いなし。

残念なことに、私は健気な女性ではないし、欲しいものは欲しい。

「OK、それがあなたの価値観よね。でも私は違う」
「でしょうね」
「私にとっては婚約指輪は“シンボル”以上のものなの。婚約指輪でケチくせえこと言ってる男と結婚するとね、その後も一生、ケチに悩まされるんだろうなと思っちゃうわけ」
「いやべつにケチで言ってるわけではないよ?」
「だいたい、自分の価値観だけ押し通して、私の価値観はないがしろにしていいってこと?」
「いやそういうわけじゃないけど…」
「でもいいよ。価値観が大切なんだろうし、あなたの価値観を私も大切にしたい」
「君ってやっぱり優しいよね」
「あなたが私の両親を説得してね?」
「え」
「私の親は、婚約指輪がないと同棲も許さないって言ってたでしょう? 彼らを説得する役目は、『指輪は要らない』って価値観のあなたの役目でしょう。無理なら結婚を諦めましょう」
「え、じゃあ、買う。お金渡すから自分で買ってくれる?」

金は払うからお前が買えパターン。

【1人で婚約指輪を買う女】
彼がお金を払うので「彼が買った」ものにはなるのかもしれないけど、1人で指輪を探し、1人でお店に行き、1人で(彼の金とはいえ)金を支払い、箱詰めを確認し、持ち帰り、リボンのついたそれを自宅で開け、1人ではめる女。「見て? 彼が(金を払って私が自分で)買ってくれたの!」親「彼を見直した!」彼「えっへん!本当はいやだったけど、仕方がないから買ってやったんだからな!」

いや、おかしいでしょ。
おかしいよね? うん、おかしいでしょ。おかしい未来しか見えんわ。

「OK、いらない。自分のお金で買う」
「え」
「自分で自分のために買う」
「いや、ボクがお金を出すよ…? 買いには行かないけど…?」

沈黙。そして、見つめ合う2人。


【二章:婚約指輪は誰のため?】

そもそも「婚約指輪」を買う目的とは何か?

彼が婚約指輪を買いたくない理由「君にお金を使いたくない、とか、お金がない、というわけじゃないよ? でも婚約指輪って所詮シンボルでしょ。だったら2人の思い出のためにお金を使うべき」。

流れはともかく、結婚を決めたのは2人。
彼のこの言葉の根底には、「結婚に関して決めて準備していくのも2人で、お金も利益も共有しあうべき」という考えがあるのかもしれない。

でも、婚約指輪は「贈る側」と「贈られる側」がいるわけで、それぞれの意図があり、指輪に期待する意味合いがある。たとえば、私たちの場合だと、次の3つの目的がある。

(a)「求婚してYESをもらう」/「彼が求婚してくれている」という事実
(b)「愛の証」=指輪
(c)結納/儀礼的道具

この(a)(b)(c)という考えを2人が共有していれば、婚約指輪は「2人のためのもの」になる。残念なことに共有していないとなれば、結局とのところ、婚約指輪は「欲しい人のためのもの」でしかなくなる。

でもね。ややこしく考えずとも、指輪って「彼女」のためのものだと思うのよ。

彼女のために買う。贈る。

たったそれだけのもの。
結局のところ、ややこしくなっている本当の理由は「指輪がそれなりのお値段になってしまうから」。贈る側の見栄もあって「要らないっしょ」となるだろうし、贈られる側からすれば「一生に一度のものだから、素敵なものが欲しい!」という見栄もある。

「婚約指輪戦争」は、愛と金と家族という三つ巴の戦いなのかもしれない。

ふう…(諦めの溜息)。


【結】

結論はすでに出ていたけれど、双方が納得できるか否かが重要。
結婚した後もくすぶる火種になってはいけないし、戦争を終結し、平和をもって結婚を迎え、末永き愛を誓い合い、睦まじく暮らしたい。

指輪は誰のためのもので、誰が納得するべきなのか?

彼は、彼の言葉で求婚してくれた。
積極的に準備をしてくれているわけではないけれど、「結婚しない」という価値観を持っていた彼が、これからも一緒に私といるために「結婚する」ことを選んでくれた。

婚約指輪は私のためのもの。
私が、結婚する自分のために、私たちのために買ってもいいもののはずだ。

「ボク、ちゃんとお金出すから…。行くよ? 一緒に…。ただ、そういう空間が嫌いだから、不愉快な態度を抑えられるかわからないけど…」
「ありがとう。じゃあ、こうしよう。石は私が買う。リングはあなたが私にプレゼントしてくれる? 自分で好きなものを選びたいから、お店も私が自分で行って買う」
「いいの…?」

よかねえよ。
と言えないこともないけれど、そういう彼を選び、こういう私を彼が選んでしまったんだから、型通りのロマンチックさもないし、型通りの夫婦にもならないんだろう。

思い描いていた夢や未来とはまるで違うけれど、かっこわるい彼を愛し、可愛げがない私を愛してくれる、そんな私たちでいることを、そして、そのことが、私たちが結婚する理由であることを、指輪は示しているのかもしれない。

* * * * * * * *

こんなタイトルをつけておきながら、私は「ロード・オブ・ザ・リング」の内容をいまひとつ覚えていない。

ネタバレを読んでみると、指輪を保持していた人たちは、「港」から「ある場所」に行かなくてはいけない。指輪を保持していた人たちが、歌ったり踊ったり、恋をしたり、それまでと同じように暮らす場所だという。

私の手にはまだ、婚約指輪や結婚指輪は、はめられていない。

でも、私たちはそれをはめることによって、「恋」や「独身」の人たちがいる港から出航し、2人で乗った小舟で、ゆらゆら「夫婦」や「家族」という場所を目指していくのかもしれない。

指輪がなくても、きっと同じ。彼が言うように“シンボル”に過ぎないのかも。でも、その“シンボル”に、私たちの想いや思い出が宿るものであるといいなと思う。

あなたが、私の薬指にはめてくれますように。

そのとき、きっと私は泣いてしまう。あなたも同じように涙ぐむのだろう。
私は、この少し頼りない人を伴侶にしたいと望み、あなたは、この少しわがままな人を伴侶にしようと望んでくれる。これからも同じように、異なる価値観がぶつかって葛藤するんだと思う。きっとそれは指輪に小さな傷をつけるのかもしれない。

でも、同じように解決していけますように。

私たちが私たちのままでも愛し合えることを証明できますように。

そう願ったり、誓いを立てたり、信じる証を求めることは、確かに彼がいう「弱さ」かもしれない。でも、「弱さ」があるから、強くなりたいと望むし、慈しみたいと思う。

そう信じて、婚約指輪を私たちは、私たちなりに用意する。



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