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審査員賞 白賞受賞句

にばんめの男でいいと夜半の月
ヒスイ

会話のフレーズを使うというのは、実は難しい。短歌では見られる手法だと思うのだが、俳句だと気をつけないと景(頭に浮かぶイメージのことだと思ってね)を結ばないのだ。

その点にばんめの男でいいというフレーズは、性別、相手の存在、置かれている立場、状況を11音でいい表すという、何とも効率のいい言葉選びだ。

すでに自分以外の誰かに想いを寄せているひとだとわかっていても好きにならずにはいられないことってあるよね。

あるいは、二股だったのだとショックを受けてもなお、嫌いにはなれない、ただそばにいたい、なんてことも。

夜半というのは、夜更け、深夜のこと。そんな時間の月明かりに照らされながら、こんなことを相手に告げる情景。長編ドラマを見るかのようにさまざまな想像が膨らんでくる。物語を内包した一句


虫の闇「ねないこだれだ」開けたまま  
IKUKO.T🍅するすみ

『ねないこだれだ』は、せなけいこさんの絵本。これは、せなけいこさんが大好きで、3人の我が子に読み聞かせをしてきた俺にとって、もうビンゴすぎる一句。

固有名詞を入れるのも難しくて、その固有名詞でなければならない必然性が必要なんだけれど、この句で『ねないこだれだ』という固有名詞は、多くの情報を含んでいるのがわかる。

この絵本がせなけいこさんの著作だと分からなかったとしても、『ねないこだれだ』という絵本を読み聞かせるシチュエーションから、「開けたまま」子どもとともに寝入っちゃったのかな、あとは虫の音が聞こえるばかり。そんな情景が目に浮かんでくる。

ちなみに、俺は「おばけのてんぷら」も好き笑

泡立草ゆれる「ばいばい」「またあした」
ニレイ

実はニレイちゃんは、俺がちゃんづけで人を呼び始める前、知る人ぞ知るかつてのトップ固定記事「猫かぶりやめました」以前からフォローしている間柄で、よもや参加してくれるとはほんと嬉しかった。あの頃はインプットしたくて、いろんな教員垢をフォローしまくったもんだ😏

なんなら去年の5月に、ニレイちゃんの最初の記事にコメントしてるわ笑

もちろん、俳句は作者を見ずに選んでいるから、まさかニレイちゃんとはびっくりした。

セイタカアワダチソウ。アレルギー源と間違われていい迷惑のこの植物は名前の通りとっても背が高く、花がまるで泡立っているかのようである。

風が吹くと、その泡立草が右に左にゆれる。

そんな道端のありふれた風景の中で、明日を約束しながら手を振り合って分かれていく子どもたちの姿が目に浮かぶようだ。なんともほのぼのとした明るさを感じさせる句である。

もちろんここは、泡立草そのものが手を振り合っているように見えると、擬人表現をしているとも取れるが、俺は泡立草との取り合わせとして詠んだ。

銀鼠の月引掻きて猫ふわり
月草

恥ずかしながら、銀鼠はぎんそ?と読むのかな?などとよくわかっていなかったのだが、ぎんねずと読む、色の名前のようだ。

と、すれば、猫が引っ掻いたそれは、水墨画か何かに描かれた月なのだろう。

しかし、俺がこの句に最も感じたのは静寂である。物音1つしない空間を高みからふわりと降り立つ猫。そんな姿を想像したのだ。

その猫の少し上には一筋切り裂かれた水墨画があって、それを天窓から差し込む月明かりが照らしている、そんな情景が浮かぶ一句だった。


燈火親し未読の本の背を眺む
川ノ森千都子

おお、千都ちゃんか!

自分の選句が終わり、みんなの俳句を訪れることが解禁になってすぐ、投句マガジンを覗きにいったんだが、そこですぐに見つけた記事が、この句の記事だった。俺の喫茶店メンバーの投句はあとで別枠の記事にしようと思っていたが、こうして自分の賞に選ぶことができるとはなんともうれしい。

「燈火親し」が季語。燈火親しむという季語の傍題。要するに、秋の夜にはともしびのもと読書をしている、そんな様子をイメージさせる季語なのである。

そんな読書に最適なときに、未だ読んでいない本の背表紙を眺めている、という作者の気持ちが痛いほどわかる。読み始めてしまえば一気にその世界に引き込まれてどっぷりと読んでしまうのもわかっている。だからこそなんとなく手に取れないままでいることが、俺にもよくあるのだ。

まさに共感の一句といえよう。


秋祭りあの子泣かした吹き戻し
KOMA

最後はKOMAちゃんの俳句。

吹き戻しというのは、息をふうっと吹き込むと、くるくるに巻かれているところがピンと伸びるあのおもちゃだ。息を吹き込むところに笛が付いているものも多い。

おそらくは幼少の頃、ちょっと気を引きたかったあの子を驚かせようと、背後から耳元で突如ピーッと吹いたのだろう。驚かせることには成功したものの、泣き始めてしまったあの子にきっとおろおろしてしまったに違いない。いつの時も男の子は、バカなことをする。

もちろん、性別はどこにもかいていないから、あの子も、泣かした子も自由に想像していいのだが、多分、多くの人が悪戯好きな男の子と、泣かされた女の子を想像したのではないだろうか。それだけ、良い意味での類想感を持った、読み手それぞれの「あの子」を思い浮かべ、微笑ましく甘酸っぱい気持ちになれる一句である。季語である秋祭りのワンシーンを素直に詠んでいて小気味良い。

総評

白杯みんなの俳句大会に投句された500以上の句。思い思いの作品を見て、はて、自分は何を基準に審査するかと、頭をひねった。

自分の俳句歴は、昨年noteでいきなり俳句を始めると宣言して、プレバトを見ながら俳句を時折noteにアップする程度である。ここ最近、白杯のおかげで作句数も増えたのだが、それでもトータルでやっと100句を越えたというくらいだろう。

そうなると、基準はもう俺が好きかどうかしかないんだが、それではあんまりにも曖昧なので、どんな句が好きなのか考えてみた。

まず自分でも意外だったのが、

①有季定型という形をとっている句が好きだということ。

有季定型とは、俳句の基本的なルールで、要するに五七五の調べと主役の季語で成り立っているということである。

選では、まずこれを念頭に絞っていった。みんなの俳句大会としては季語はゆるく、秋らしければ問題ないのだが、審査員賞としては除外したと、こういうわけである。

そういう意味で、季節違いの句や無季の句はとっていない。茄子の句、カレンダアの句などは好きなので、またどっかでいじらせてください😏

次に

②大きな世界を内包していること

物語性とでもいうのだろうか。俺はその句から短編小説が書けるような物語が匂ってくるものや、宇宙とか、時代とか、世界とか、そういう大きなものを17音に内包する句が、なんともいえず好きなようである。

今回、俺の裏テーマはキュン句だったので、キュンとくる句やエロスを感じる句には目がいったなあ笑

つま先がふれる句、足を絡める句、黒タイツの句とか好みだった。

そうやって絞った句が五十句前後。あとは感覚😏

審査員をやって、鑑賞力あがったなーと感じる白杯であった。

まだ、それぞれの句に遊びにいけてないので、遊びにいきまーす。

楽しい審査でした!ありがとう😊


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