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かわいい女の子が嫌い

店主にしか話していないことがあります。
今まで、誰にもずーっと秘密にしてました。
(ここで匿名で話すわけですが)

わたしは、きれいにかわいく着飾らせてもらった、小さな女の子が嫌いです。

息子はもう中学生となりましたが、小さな頃はしんどかったです。
幼稚園や子育て広場、公園、子供服のお店などで小さな女の子と遭遇する機会は毎日のようにあるわけですから。おまけに、息子の七五三などで写真館に行けば、ドレスアップした女の子たちが、鏡の前でくるくる回ったりしてるわけです。なるべく視界に入れないようにしていました。

毎日の登園にも、かわいいポンポンが付いたヘアゴムで、ツインテールや三つ編みヘアにしてもらってる子。レギンス付きではあっても、ふわふわのチュチュスカートを履いてる子。夏祭りには、ひらひらした金魚のような帯を結んでもらって、かわいい浴衣来て、髪もアップにセットしてもらってる子。

みんなみんな、憎らしかったです。
わたしがディズニー行くのが嫌いなのは、混んでるとかお値段とかの前に、プリンセスの衣装を来て喜んでる女の子たちがうようよしているのを見たくないからです。
30〜40代の1児の母が、こんなことを考えているとは、なかなか想像がつかないのか分かりませんが、少なくとも指摘されたことはなかったです。わたしも、怖い目つきで睨んだりしないよう、必死で黒い感情を隠していました。

わたしは、背は高くないけどめちゃくちゃハンサム(今ならイケメンか)な父と、雪国育ちで真っ白な肌そして大きな目が印象的な母の間に生まれました。母の目は受け継がず、父のほうに似ています。ただし父の女性版のような美人にはならず、それなりのそれなり……としか言えない感じでした。

わたしの家は、貧乏でした。愛だけでお金は手に入りません。母方の祖父が結婚に反対したのも分かります。大事な娘を貧乏な歯科技工士に嫁がせて、東京下町のドヤに近いような場所の長屋に住ませるなど、不憫で仕方なかったのでしょう。

時はたち、子どものわたしは関東の別の県にいました。父のローンで買った、小さなおうち。友だちの半分ぐらいの大きさしかなくて、恥ずかしいと思ってしまっていました。

それでも、父の仕事はだんだんと高い評価を得るようになり(父は自営業の歯科技工士で、いくつか契約した歯科から仕事をもらっていました)、わたしが中学生の頃は、毎週末高級割烹で食事をし、母も高級ブランドの物しか身に着けないなど、バブル景気も相まって、ちょっと調子こいた生活をしていました。

問題は、その間の話です。幼稚園や小学校の頃。相変わらずうちは貧乏でした。当時は専業主婦が当たり前の時代でしたが、母はパートに出ていました。
母は徹底的な節約をするため、わたしや妹の服や靴、小物などをほとんど買いませんでした。下着以外は近所のお姉さんたちからのおさがりで、かわいい物はなかなかありませんでした。
髪は、ヘアゴム代やカット代の節約のため、いつも母に適当なショートカットにされていました。極めつけは、水道代節約のため、服はもちろんのこと、下着すら毎日取り替えさせてもらえなかったんです。真夏は2日に1回は取り変えできましたが、真冬は1週間から10日、同じものを身に着けていました。

学校で使う物も、近所のお姉さんたちからのおさがりでした。鍵盤ハーモニカやリコーダーなど、口を直接付けるものも含めて。書道セット、裁縫セットなども、新しく買ってもらった記憶はありません。
だけど母は、幼稚園の頃からわたしや妹を、音楽教室やピアノ、そろばんといった習い事に通わせていました。当時はそんなにやりたくなかったんですけど……

そんな状態ですから、明らかに汚くて臭い姉妹が出来上がり、目立ったいじめはなかったものの、だいたい仲間はずれでした。それなりでしかない顔の汚くて臭い姉妹。ある年の夏は、髪にシラミが大量発生し、皮膚科医に、ちゃんと髪を洗わせるようにと母が叱られていました。

その反動か、妹は高校デビューで地元では有名なギャルになり、それを維持すべくコンビニバイトだけでなくブルセラショップ(知らない人は調べてね)にいろいろ売るようになり、結構はちゃめちゃやってました。

わたしは奨学金で大学に進学し、バイトをしながら着たい服を着てメイクも頑張って、18歳から20代の間、黄金のモテ期を心ゆくまで味わいました。

かわいくしてもらっている小さな女の子が嫌い。
その理由は、自分がそれを味わえなかったことを未だに悔しいと思っているからなのでしょう。
もうわたしは40代。なのに、勤めているお店に、宴会客に混じって彼らの小さなお嬢さまがめいいっぱいドレスアップをしているのを見ると、昔の恥ずかしくて悔しくてつらかった思いが蘇り、「わたしはかわいくしてもらえなかったのに」と嫉妬を超えた憎悪の念が湧いてしまうのでしょう。

ずっと接客や営業をしていたわたしは、年の功もあって、スタッフの誰よりも接客が良いと評価されています。わたしがいる時に来たいというお客さまも、ありがたいことに一定数いらっしゃいます。

だからこそ、小さなプリンセスが来店している時、毎回毎回、店主に確認しているのです。
「わたし、ちゃんと笑えてますか?  いつも通りの接客できてますか?」と。


#トラウマ #思い出 #憎悪

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