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久保史緒里主演「桜文」大阪公演 千秋楽

10月2日、舞台「桜文」の大阪千秋楽公演を観てきました。

■W乃木坂


会場は大阪城公園内にある劇場「COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール」です。2019年2月23日にオープン、最寄駅はJR大阪環状線の「大阪城公園駅」「森ノ宮駅」です。ホールは「WWホール」「TTホール」「SSホール」の大中小3つあり、命名主は明石家さんまさん(!)だそうです。大阪府・大阪市は万博含め、吉本興行とのタッグが多いです。

ホールの向こう側は大阪城公園

徒歩7、8分のところには大阪城ホールがあります。

2021年の全ツの時(生写真買った直後の10時ぐらい。この後、ゲリラ豪雨で大雨になります。会場を離れていたのですが、電車がストップ。地下鉄を乗り継ぎまくって開演に間に合いました)

WWホールの向かい側にTTホールがあり、こちらは舞台「女の友情と筋肉」というなんともゴリゴリした暑苦しいプログラムが上演されていて、4期生の佐藤璃果が出演しています。向かい合わせで乃木坂メンバーが舞台に出るという、珍しい現象が。W乃木坂です。

こんな感じですね
出典:乃木坂46 twitter公式アカウント

■嫉妬と情念

「桜文」は、明治期の遊郭を舞台に、誰にも笑顔を見せない花魁・桜雅(おうが)(=久保史緒里)の悲哀を、遊郭を取り巻く様々な人物の嫉妬や情念、猜疑心、欲望、そして無垢な愛といった人間が古来逃れることのできない根源的な感情に則って描き切った作品です。

感情という絵の具を、力任せに壁にぶちまけているような激しいシーンが音と光の演出で次々に現れる反面、徐々に明らかになっていく桜雅の生い立ちは、純粋無垢な恋心に彩られた儚く優しい物語として描かれます。それがかえって残酷さを煽っていく。

ほんの束の間、幸福だった。少なくとも幸福に思えた。

「真っ白なものは汚したくなる」は、欅坂のアルバムのタイトルですが、汚したくないのに汚されていく。周囲を取り巻く人間たちの身勝手な欲望によって。

身も心も引き裂かれた桜雅の前に、一人の青年が現れる。向上心に燃え、まだ知らないものを知りたいのだと向学心にあふれ、そしてまだ穢れを知らない純粋な眼差し。ああ、あの眼は・・・

■しかし君、恋は罪悪ですよ

セリフの中には当時、活躍した流行作家の名前が出てきます。メディアが発達する以前は、物書き、特に売れっ子の小説家は今で言うスポーツ選手のような存在だったと言います。田山花袋、夏目漱石、森鴎外、エミール・ゾラ、永井荷風など。

夏目漱石の代表作「こころ」は、登場人物の「私」が慕う「先生」から長い告白文を渡され、初めて「先生」の心の内を知ると言う作品です。「先生」の偏屈な態度に辟易したり、理解に苦しみ問答を繰り返す「私」に、「先生」は急に真顔になって「しかし君、恋は罪悪ですよ」と問いかけます。それは問いのようでもあり、断定のようでもあった。

「こころ」はタイトルの通り、愛情や憎悪、猜疑心や嫉妬心など、人間の心のうちに巣食っているあらゆる感情を描いています。つまびらかに文章にされるほど、読者は自分の中にもある恥ずかしい部分を、すっかり見抜かれたような苦しい感情に支配されていきます。

人間とはこんなに情けなくて恥ずかしくて醜くて脆くて、そして愛おしい存在なのだと気づく。

この普遍的な価値観は、やがて漱石の「弟子」である芥川龍之介や、芥川龍之介に強く憧れた太宰治に引き継がれ、時代に合わせてよりあからさまに、生々しく、俗物的に描かれるようになっていきます。

けれども、その根底にあるものは全く変わっていない。


舞台「桜文」は、将来を嘱望される駆け出しの小説家が、笑顔を見せない花魁・桜雅に思いがけず声をかけたことから、眠っていた記憶が呼び覚まされ、ごとりと音を立てて歯車が回り始めます。そして同時に狂い始める。最初から狂っていたものがなお一層狂ったのか、それとも一度はあるべき位置に収まったものが再び狂い出したのか、それがどうにもわからない。

物語のメインとなる、桜雅と小説家。この二人と桜雅が信頼を寄せる髪結の男の三人を除けば、あとは全部クズと言ってしまえばそれまでなのですが、桜雅にとっての歯車の正しい位置が、他のものにとっても正解だとは限らない。自分の都合の良い方へと歯車を回し、また他のものがこれでは具合が悪いのだと自分の手元に無理に引き寄せる。その度に、桜雅は切り裂かれ、翻弄され、懊悩と自責の果てについには・・・

時代を問わず、洋の東西を問わず、繰り返されてきた命題がこの物語の主題になっています。

観客は客席から常に「客観」の立場で物語を観ることになります。これは漱石の「こころ」においてもそうですが、読者(観客)は一体誰の視点で物語を読んで(観て)いるのか、時に混乱します。

映画はカメラの位置と、レンズが主観的に写す対象物で「主語」が確定します。演劇は舞台の上で、時に複数の場面が同時に進行するため、観客は自分の立ち位置が分からなくなってしまう。今覗き込んでいるのは誰にとっての「秘密」なのかがあやふやになっていく。

いつの間にか、舞台の上の誰かの「共犯者」となって、主人公「桜雅」に相対した時、運命に翻弄されて滅びていく彼女に対して、何か責任のようなものを感じてしまうのです。

幕が降りたあとも、心に何かズシリと来る。そんな作品でした。


メインである東京公演は終わり、大阪公演も終わりましたが、まだ愛知公演と長野公演があるようです。
全体で2時間50分(休憩20分含む)と、普段こうした演劇を滅多に観に行かない身としてはかなり長いなと思っていたのですが、実際にはあっという間でした。
主催するPARCO STAGEのYouTubeチャンネルではゲネプロの様子や、しーちゃんはじめ出演者の皆さんのコメント動画もアップされています。

個人的に一番好きなシーンは、中盤、桜雅が本を読み聞かせていると、遊郭でまだ駆け出しの小鞠が寝落ちしてしまい、桜雅が羽織を脱いでそっとかけてあげる場面。一連の動きが、(下世話ですが)めちゃくちゃエロティックなのです。しーちゃんが華奢な体付きな分、全てが洗練されて見えるのです。客席で思わず息を呑みました。

先日の真夏の全国ツアー・神宮公演3日目、「羽根の記憶」のソロ歌唱で惚れ直し、数年前のツアーの写真を改めて見返していると、その激変ぶりに驚かされます。どこか自信なさげでか弱い印象だった、頬のふっくらした少女の面影は削ぎ落とされ、聡明な女性に進化している。同じ印象は美月からも受けました。

1期生・2期生の築き上げた乃木坂46を、受け継ぎ、進化させる立場としてやはり3期生への期待は大きいのだなと感じました。生駒里奈、白石麻衣といったレジェンドの背中を「ちゃんと」見ていたんだなと、ファンは嬉しくてたまらない気持ちになるのです。
こうやって推しがどんどん増えていくのです。うん。

■グッズ

(左から)公演パンフレット(2000円)、手ぬぐい(1200円)、ポスター(1000円*会場限定)、クリアファイル2枚組(800円)
*匂い袋は売り切れていました

パンフレットの中身は掲載できませんが、桜雅の「笑った」顔が載っています。これ見ただけで、舞台を見終えた後のズシリと重い気持ちが癒されました。しーちゃんのコメントや、演出家との対談も掲載されています。

舞台の最後は、しーちゃんはじめ出演者の皆さんが並び深々と一例、しーちゃんからのコメントもありました。


2022年10月2日

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