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君は太陽のように ~和田まあや卒業公演~

小学生の頃、クラスメイトに色白の、大人しい女の子がいた。仲の良い友達と話しているときは、明るくて快活なのだけれど、ふと気が付くと、うつむいていた。体育の授業は大概、グラウンドの隅で見学していた。

彼女は、身体が他人より弱かった。少し走ると、青ざめた顔でしゃがみ込み、辛そうな表情をした。だから保健室とは仲良しだった。

彼女は夏に生まれた。

彼女の姿は、夏のイメージと程遠かった。だからかえって印象に残っていた。いま、どこでどうしているのかは知らない。ただ、時々彼女のことを思い出す。

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■11年かけて「奇跡」を築き上げた


2022年10月5日
乃木坂46の30thシングル・アンダーメンバーによる「アンダーライブ」の大阪公演・最終日。
この公演をもって、1期生の和田まあやが卒業した。

彼女が過ごした約11年を凝縮したような2時間半。もちろん、たった2時間半で語り切れるわけがない。そんなはずはないのに、僕らが知っている彼女のすべてが込められた2時間半だった。

彼女は去り行く悲しみではなくて、朗らかなぬくもりを残してステージを去っていった。


彼女のブログには、よく他のメンバーの名前が出てきた。家族も出てきた。そのほとんどが、飾らない感謝の言葉であふれていた。いま読み返しても、読んでいるこちらの心がじんわりと暖かくなる。

ともすれば暴力的で無配慮な言葉が怒涛のように飛び交う世界にあって、彼女の周りだけはそうした悪意とは無縁だった。だから、まあやのそばにいれば、安心だった。

彼女は常に安心をくれた。他にこういうメンバーはいない。理不尽なこともあったに違いない、周囲の大人に不信感を抱いたこともあったに違いない、他の同い年の女の子が経験する以上のことをこの11年あまりにわたって、望むと望まざるとにかかわらず味わい続け、それでもなお、純真さを失っていないというのは、ほとんど奇跡に近いのではないかと思う。

乃木坂の1期生は「奇跡の1期生」と呼ばれる。彼女は11年かけて「奇跡」を築き上げた。


公演の終盤、あいさつに立ったまあやは、自分の生い立ちについて少し話した。生まれつき体が弱く、医師から「長くは生きられない」と宣告されたこと。絶望のあまり、母親が一度はわが子を抱えたまま窓から飛び降りようとしたこと。そして生きてきたこと。上京のこと。後悔させたくない一心で、両親が涙ながらに背中を押してくれたこと。

彼女はいまから4年半前、2018年4月23日、20歳の誕生日のブログで上京当時のことや、家族のことに触れている。

上京当時の彼女はわずか13歳。学校になじめず、駅のベンチで泣いた日のことや、1期生メンバー(まいやん、ななみん、まっちゅん、いくちゃん、かずみん、ちま、生駒ちゃん・・・)が支えてくれたこと、そして遠く離れて暮らす広島の家族への思いが、ひとつひとつ大切に書かれている。よそ行きの着飾った文章ではなく、いま目の前で話してくれているような距離感で書かれている。

賢く見られたいとか、褒められたいとか、気に入られたいとか、そういった他意がみじんも感じられない。だからいつも彼女の言葉に耳を傾けてしまう。世間でいうところの「頭がいい人」のコメントよりも、彼女が語る言葉の方がなぜか何倍も説得力があった。素直に心を打たれた。

ゆっくりと語る彼女の言葉は、それだけで彼女自身の純真さをそのまま表していた。

オレはずるくてダメな人間だ、となぜか内省的な気持ちにさえなった。普段の自分を思わず恥じた。

冠番組の「乃木坂って、どこ?」や「乃木坂工事中」では、まあやは「おバカ」枠として唯一無二の存在感を放った。バナナマンの設楽さんをして『どこに出しても恥ずかしくない』とまで言わしめたのは彼女だけである。ありのままの純粋さで、ありのままに相手の懐に飛び込んでいく彼女は、予期せぬ笑いを引き起こし、番組を圧倒的に盛り上げてくれた。彼女は心から純粋に答え、リアクションしているだけなのに、周囲はお腹がよじれるほど笑った。行き過ぎれば、いじめのように残酷な見世物になりかねないのに、バラエティという枠の中で彼女は常に圧倒的な結果を残し続けてきた。

その裏で、どれほど傷ついたり、つまづいたりしてきたのだろうと思う。それでも活動を続けられたのは、彼女が語っている通り、家族やメンバーの存在があったのだろう。決して自分を着飾らない純真さ。

彼女は、愛されるために生まれていたのだ。

太陽に似ていた。



■セットリスト 10/5


OVERTURE
M1 : Under's Love
M2 : 不等号
M3 : 自由の彼方
M4 : あの日 僕は咄嗟に嘘をついた
M5 : ポピパッパパー
M6 : Against
M7 : ~Do my best~じゃ意味はない
M8 : ワタボコリ
M9 : 音が出ないギター
M10 : 無表情(RAP Ver.)
M11 : 口約束
M12 : 低体温のキス
M13 : 欲望のリインカーネーション
M14 : 私のために 誰かのために
M15 : 生まれたままで
M16 : 口ほどにもないKISS
M17 : 錆びたコンパス
M18 : Wilderness world
M19 : ありがちな恋愛
M20 : 世界で一番 孤独なLover
M21 : 制服のマネキン
M22 : 日常
M23 : Under's Love

EN1 : 気づいたら片思い
EN2 : 狼に口笛を
EN3 : 左胸の勇気
EN4 : 乃木坂の詩

W EN : 他人のそら似

乃木坂46 30thSG アンダーライブ
大阪公演:2022年10月3日(月)~5日(水)*5日は配信・リピートあり
会場:オリックス劇場(大阪市西区)
出演:伊藤理々杏/北川悠理/黒見明香/阪口珠美/佐藤璃果/中村麗乃/林瑠奈/松尾美佑/向井葉月/矢久保美緒/吉田綾乃クリスティー/和田まあや
*伊藤理々杏はスケジュールの都合上、10月5日最終公演のみ参加
*中村麗乃は新型コロナウイルス感染確認のためやむなく欠席

■アンダーライブはアツい、嘘じゃない、本当にアツい

「アンダラ(アンダーライブ)はアツい!」とよく乃木坂ファンの間で言われるけれど、嘘偽りなく、本当にアツい。選抜含めた全員参加のバースデーライブ(バスラ)や、真夏の全国ツアー(全ツ)と全く違う意味で。

バスラ、全ツがアリーナや時にドーム、スタジアムで開催されるのと違い、アンダラはホールクラスが多い。ビジョン出しなどもあまりなく、セットも簡易なものだ。

それをメンバーひとりひとりが文字通り持てるすべての力を出し切って盛り上げる。ある意味で、これが本来のアイドルの地に足の着いたライブなんだと思わせる。

ドームを数分で完売させるようなバンドやアーティストが、ツアーの日程にライブハウスを組み込むことがある。自分たちの原点を見失わないためのマイルストーンのようでもあり、自分たちの熱と観客の熱を、なんの隔たりもなく融合させるためのホットスポットとして小さな「ハコ」を選択しているようでもある。

■林瑠奈がスゴい

4期生の林瑠奈がスゴい。将来、大化けするんじゃないかしらと思わせる。彼女は同じ4期生でも、遠藤さくらや賀喜遥香といった選抜の常連になりつつあるメンバーよりも遅れて配属された「新4期生」の一人。

2018年の坂道合同オーディションで遠藤や賀喜らが合格し、乃木坂に配属された一方で、配属には至らず「研修生」として過ごすことになった。「合格」とも「不合格」とも言えない悶々とした状況の中で、日の目をあびるためにトンネルの中を歩き続けた。

2019年の末に「坂道研修生ライブ」が開催され、東京・大阪ともライブハウスが会場だったが即完売。異様な熱気の中で、初めて観客の前でスポットライトを浴び、自分の歌声が会場に響いた。その渦中を経験した一人である。同じ会場に、今回のアンダラでは黒見明香、佐藤璃果、松尾美佑もいた。

今回、もう一人の「新4期生」弓木が初めて選抜入りを果たした。

そのあとを追うように、林瑠奈が覚醒し始めたように思える。鍛えられ方が違う、と思わせる。パフォーマンスに込めているものが違う、と思わせる。

研修生ライブでぎこちない笑顔を見せていた同じあの女の子と同一人物とはとても思えない、底知れないパワーを感じさせる。

まだこんな逸材がいた。

「届けーーー!!!」という叫び、受け取りました

■OG、現役メンバーも多数

アンダラ最終日には
同じ1期生の真夏、ちま、3期生の美月(NHK大阪で朝ドラ撮影中)、卒業生の伊藤かりん、純奈、相楽伊織などの姿も。
そしてドランクドラゴンの鈴木拓さんも。
(以下、まあやのインスタから)

この並びももう最後(ちま、真夏)
道頓堀あたりをがっつり観光したらしいOG3人娘(純奈、伊織、かりん)
朝ドラ女優となった美月
いっぱい泣いてたらしい(ドランクドラゴン・鈴木拓さん)


■会場点描

大阪・オリックス劇場

街中にあります

■おまけ 朝ドラ放送中 山下美月のパネル

ライブ開催日とは違う日に行ったのだけれど、NHK大阪の9階にある「BKプラザ」では、現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説「舞いあがれ!」に出演している3期生・山下美月のパネルが置かれている。BKプラザには歴代の朝ドラのポスターや小道具が並んでいる(パネルを除いて撮影不可)。

3枚並んでいます
NHK大阪(JOBK)、NHK東京はJOAK 隣は歴史博物館 国道を挟んで大阪城公園があります。大阪府警本部、大阪府庁もこの近く。

■Hello

五十音順の最後はまあやの定位置でした
チューリップは永遠に

卒業おめでとうございます。そしてありがとう。

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