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祇園、木屋町、寺町―それぞれの流儀が光る『サンボア』3軒(全国バー行脚⑩京都)

 京都には好きなバーがたくさんあります。とても1回では書き切れないので、これは京都編の第一弾。『SAMBOA(サンボア)』3店舗のみにロックオンです。

■歴史は100年、各店舗独立

   サンボアは1918年に神戸で創業しました。元々は喫茶店だったようですが、次第にお酒を出し始め、バーになったということ。現在、京都に3、大阪に8、神戸に1、東京に3店舗あります。系列店ではありますが、暖簾分け制度を取っており、各店舗が独立して展開しているグループです。私が日常的に行くのは銀座にある『数寄屋橋サンボア』。ここがとても素晴らしいバーなことから、他の店舗にも興味を持ち、京都のサンボア巡りが始まりました。

■優しい『祇園サンボア』

 京都のサンボアで最初に伺い、回数的にも最も足を運んでいるのは『祇園サンボア』です。最初に伺ったのがいつかは失念しましたが、京都に泊まると、だいたい行きます。なんだかんだで京都には年2〜3回行ってる気がするので、お店に伺うペースもそんなところ。なお、私は京都の夜は先斗町と木屋町を巡るのが好きで、祇園にはサンボア目当てでしか行きません。

店構えも美しい
暖簾が良き

   祇園店の渋い暖簾をくぐると、カウンター10席くらいに、6〜7人が座れそうな大きめのテーブルが1卓。バックバーの最上段にずらりと並ぶ各種ウイスキーブランドの水差しが目を引きます。昔のノベルティで、今はもう手に入らない物と聞きました。

   祇園店は、銀座の数寄屋橋店と同じく、氷なしのハイボールを出します。そう、サンボアといえば、氷を使わず、冷凍庫でキンキンに冷やしたウイスキーを使うハイボールが名物。ただ、店舗によって異なり、氷を使わない店、基本は使うけど頼めば氷を抜いたバージョンを作る店、頼まれても氷抜きは出さない店とさまざまです。

    なお、サンボアにおける「ハイボール」は、アルコール全般ではなく、ウイスキーのソーダ割りに限定した言葉です。ただし、ウイスキーの銘柄を指定して「~のソーダ割り」と注文すると、どこの店舗でも氷の入ったソーダ割りになるようです(自分調べ)。「ハイボール」と頼んだ場合に、祇園店や数寄屋橋店は氷なしで作ります。その際のウイスキーは、サントリーの「角」が基本ですが、一部の店舗ではニッカの「スーパーニッカ」を使います。

   京都3店舗のうち祇園店は、私にとって飲んでいて最も落ち着く店舗です。祇園というと敷居の高さを感じますが、妙な緊張感はなし。京都の夜の最後をここで締めることも多く、新幹線の時間が迫るほど、根が生えたような感じになって腰が上がりません。祇園サンボアは「優しいサンボア」です。

   また、祇園店ではプチサンドイッチを食べて欲しいです。名物的なフードで、美味しくて腹持ちもよし。お酒との相性もばっちり。お勧めです。

■愉快な『木屋町サンボア』

 さて、祇園から西へ。鴨川を越えて木屋町へ行きます。先斗町の一本隣にある木屋町通りは、美味しい立ち飲み屋さんがいくつもあるほか、ガールズバーや風俗店も建つ少しやんちゃな通りです。この木屋町通りに沿って流れているのが高瀬川。高瀬川から一本、裏に入った路地に『木屋町サンボア』が佇んでいます。

木屋町通りの一本裏手
妙に惹かれるこの看板

 こちらのオーナーバーテンダーさんは、京都3店舗の中で最も若いと思われ、歳の頃は「二七〜八、三十でこぼこ」。店内には先代の写真が飾られています。

   カウンター8席に、奥には6人席のテーブル。バックバーはまっすぐ伸びた先で直角に折れ、その先はガラス付きの本棚のようになっています。そこにあるのもお酒です。

   木屋町のハイボールは、氷ありが標準。ただ、作って欲しいと望めば氷なしにも対応してくれます。バーテンダーさんは、ご自身がお話し上手であるだけでなく、客同士で話を弾ませるのが得意な印象。京都3店舗の中では最もカジュアルなイメージで、誰でも漏れなく楽しんで飲める店。木屋町サンボアは「愉快なサンボア」です。

■引き締まる『京都(寺町)サンボア』

 最後は、3店舗の中で最も歴史のある『京都サンボア』へ。「寺町通り」にあることから、寺町サンボアとも呼ばれています。

アーケードのある商店街、寺町通りに建つ

   サンボアは神戸で誕生しましたが、神戸の店舗はその後なくなり、昨年、復活したばかりです。そのため、現存するサンボアの中で、最も歴史があるのがこの寺町サンボア。90年超の歴史があるとか。現在のマスターは、聞くところによると三代目です。

   そう。ここに初めて伺ったのは2020年のことでしたが、実はそのマスターに関する噂話を聞き、少し躊躇していました。寺町のマスターは、いわゆる「名物店主」として有名で、さまざまな情報が氾濫していました。

「店主は最初は普通だが、どんどん飲んで最後は潰れる」「帽子を被って入店すると追い出される」「カウンターに肘をつくと説教される」「カップルで来店した客のうち、マナーの悪かった男の方だけを退店させたことがある」ーなどなど。

   今時、珍しいほどピリつくバーなのではないか。私ごときが行って良いものなのか…。

   そんな思いを抱きつつ、入店。マスターは60歳より上でしょう。渋いです。ドキドキしながら扉を開けると、ごく普通に挨拶をされ、ごく普通にハイボールを作ってもらい、「飲むの早いねえ」なんて笑顔で話を振っていただくなどコミュニケーションもありで。

   大丈夫でした!

   すっかり落ち着いて店内を見渡すと、カウンターは約10席。4人用のテーブル1卓に、1〜2人用の小さなテーブルがいくつか。重厚で静かなバーという印象です。

   面白いのは、バックバーの真ん中あたりにある鏡。正面に座ると自分の顔を見ながら飲むことになります。こうした仕掛けのあるバーは時々ありまして、飲み過ぎ防止用とも言われています。こっちも襟を正すというか、気持ちがぴりっとしていいです。

   また、店内のさまざまな場所に、沢山の古い栓抜きが飾られているのが印象的。祇園店の水差しではないですが、サンボアではこうした収集・展示が多い気がします。格好いいし、いい趣味ですね。

ずらりとぶら下げられた栓抜き。種類もさまざま

   ちなみに、こちらのハイボールは氷ありです。巷で「寺町は、頼んでも氷抜きは作らない」と聞いていたので、素直にそれを飲みます。事実はわかりません。確認してませんので。使用するウイスキーはニッカでした。よくよく見れば、店内には竹鶴とスーパーニッカが沢山置いてあります。

 マスターは、少しでも時間が空くと常にグラスを磨いていました。私はこうしたバーテンダーを信頼します。その後も何度か伺っていますが、飲んでいて背筋が伸びるのは変わりなく、しっかり飲もうと思わせてくれます。自分にとって京都(寺町)サンボアは「引き締まるサンボア」です。

 なお、寺町と木屋町のマスターは年の離れた従兄弟。祇園のメインバーテンダーも親戚なんですって。

   3店舗それぞれがこだわりや流儀を持っていて、どこも素晴らしい。その日の気分で使い分けもできるので、京都を訪ねた際には、ぜひ。(了)

※京都(寺町)サンボアは22年8月末、建物の老朽化などを理由にした移転のため、いったん閉店しました。移転先や再開の時期は未定です。

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