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白鉛筆
2022年12月27日 17:02
「お久しぶりです、影山さん」待ち合わせのテラス席に現れた瀧本は、前回のリクルートスーツ姿から一転して、白いシャツの上にモスグリーンのニット、黒のタイトパンツという学生然とした出立ちだった。「お久しぶり。どうぞ」席を勧める。円形のテーブルを挟んで向こう側、椅子を引いて瀧本は腰掛けた。「ご足労いただき、ありがとうございます」「いや。私もT大は初めてだったからね。採用の担当として一度見
2022年12月26日 17:10
「飲みに行きましょう」と予約した店は、会社から歩いて二十分近くを要する個室居酒屋だった。よく利用される社屋近辺の店ではなく、しかも個室。加えて繁忙真っ只中での誘いともあり、南原部長も比嘉もどこか訝しげな様子であった。「この三人で飲むだなんて、初めてのことじゃないか」上着を脱ぎながら、部長が言う。「しかも影山さんから声がかかるなんて、めずらしいですよね」その上着を受け取り、ハンガーに掛けな
2022年12月25日 17:02
突然ながら赤裸々な告白をさせていただくと、この能力を持つことで、殊更に困るタイミングがある。女性を抱くときだ。先述のとおり、私の持つ"異能"は単に「指の力が強い」というもの。それ以上でも以下でもない。指。銃やナイフとは違い、この身と不可分であるところに問題がある。角砂糖を摘むのも、鉄棒をへし折るのも、意識的に力を加減しなくてはならない。当然ながら、不本意に人や物を傷つけ、壊してしまうこ
2022年12月24日 17:31
『比嘉繭子さんのストーカーは、そちらにいらっしゃる南原部長です』瀧本さらさからその連絡が来たのは、一度彼女と会ったあの日から、およそニ週間が経過した頃だった。あれからと言うもの、予想通り業務は輻輳し、終電を逃しタクシーで帰る日もあるほどだった。瀧本の存在など記憶から抜け落ちるほどの忙しさ。「影山さん、お電話です」。そう呼ばれ、受話器を耳に当ててようやく、そう言えばT大の学生と話をしたな、と
2022年12月23日 17:10
一人の学生相手に会議室ひとつ貸し切っての対応は異例だが、瀧本さらさにはそのように手配した。手頃な部屋が空いてなかったこと、説明用のVTRを試聴する設備を要すること、などそれらしい理由を書き連ねて申請したが、彼女が属する大学のネームバリューに寄るところが大きいのは、暗黙の了解であった。瀧本一人のために、壁際のスクリーンを下ろし、採用説明用のDVDを流す。ロの字型にセットされた机の一角から、瀧本は
2022年12月22日 17:15
「実は、ストーカー被害に遭っているんです」比嘉繭子がそう口にしたとき、私は個室ブースの戸締りをあらためて確認した。システムで管理されたドアは問題なく施錠されており、パスを持つ限られた者しか入室できない。「ストーカー?」訊ね返すと、比嘉は呟くように続けた。「先月の合同説明会に登壇した後、しばらくしてアパートの郵便受けに封筒が届いていたんです」「何が入っていたんですか」「写真です。ス