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IPOスタートアップ知財分析〜AI inside編〜

 PLAIDWealthNaviに続いて、今回はAI insideの知財分析をしてみます。AI insideがIPOしたのは2019年と少し前にはなりますが、直近業績予想で前年比281%を見込む驚異的な決算報告をしております。そんなAI Insideさんの知財の部分はどのような感じでしょうか。

1.AI insideについて

 AI insideが提供するのはDX SuiteというSaaSプロダクトになります。受託開発系が多いAI系のスタートアップの中で、しっかりとした自社プロダクトを有しているのは一つの特徴でしょう。

 DX Suite は、書類を文字認識・画像認識でデジタル化するIntelligent OCRを基本サービスとし、書類仕分けのElastic Sorter、多様なレイアウトに対応するMulti Formといったオプション機能があるようです。企業内にある書類のデジタル化することでDXを推進できるTo B向けのSaaSプロダクトです。

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(2021年3月期第1四半期決算説明資料より引用)

 15年に創業し、資金調達を13億程度した後、19年末にIPOをしており、非常に短期間で急成長しているスタートアップですI。

2.AI insideの知財について

 AI Insideの特許をJ-PlatePatで調査すると、11件の特許(分割出願含む)が出願されてます。創業から6年ほどの企業としては比較的しっかりと対応されている感じです。

特許出願推移

 以下の図に示す通り、創業1年2016年に最も多くの出願をしており、その後はペースが落ちつつもコンスタントに出願がなされています。初期にしっかりと特許活動をしている良好な事例ですね。

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特許出願内容

 11件の特許出願を確認してみると、そのうち5件ほどがDX Suite関連のOCR技術に関する特許でした。事業内容からしてもOCRが核となる技術のようなので、そこに集中したポートフォリオのようです。コアとなりそうな特許としては、例えば特許6057112号でしょうか。以下に、登録された権利内容を示します。

【請求項1】
 多層のニューラルネットワークを用いて画像データから特徴点を抽出し、複数のテキスト候補と尤度を出力する第1画像認識部と、
 多層のニューラルネットワークを用いて前記画像データから特徴点を抽出し、前記テキストよりも小さい因子である素因子テキストに分離されたテキスト候補と尤度を出力する第2画像認識部と、
 前記第2画像認識部により出力されたテキスト候補に対して、隣接する素因子テキストの接合および切り離しを行って、組み合わせられる複数のパターンのテキストにそれぞれ形態素解析を行い、自然言語的な観点から尤もらしい複数のテキスト候補と尤度を出力する自然言語処理部と、
 前記第1画像認識部により出力されたテキスト候補と、前記自然言語処理部により出力されたテキスト候補とを対比する判断部とを備え、
前記判断部は、所定以上の尤度のテキストを出力する文字認識装置。

 ざっくりとまとめると、画像データから認識されたテキストよりもより小さい因子である素因子テキストに分離してテキスト候補を尤度とともに算出し、所定以上の尤度のテキストを出力する技術です(もう少し内部処理的な限定はありますが・・・)。

 上記特許やその他の特許も含め、それぞれの特許は内部処理を特定していたり、権利範囲がやや狭くなっていたりと、結構苦労されている感じが見受けられます。この点は、OCR技術自体が昔からある技術ということもあり当然先行技術も多数あることが起因しているでしょうか。その分、多面的な観点で5件の特許を集中させて参入障壁を築いていこうとしているようにも感じます。

 また、機械学習の学習部分に関する特許(特許6722929号)も取得しております。学習に関する特許を出願するのか、秘匿するのかという点は、事業内容や戦略に応じて、変わってくるかなというところです。AI insideの下記資料をみる限りでは、学習基盤は社内システムという位置付けのようなので、社内の技術を公開するよりも秘匿したくなる気がします。逆にいうとブロダクトに実装されるであろう推論部分だけで権利化したい気がします。この辺りはどういった戦略があるのか気になるところです。現状は、社内システムという位置付けでも、今後外部向けに展開していくのでしょうか?もしくプロダクトにも学習機能があるのか、他に何か意図があるのか?気になるところです。

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3.まとめ

 非常に高い成長性の裏付けとしての強い知財は残念ながら伺えなかったかなという印象ですが、創業初期から着実と特許出願をし、また自社のコア技術であるOCR技術にしっかりとしたポートフォリオ築いているという点で、良好な事例ではないでしょうか。

 また、難しいのはOCR技術のように先行技術がたくさんある分野で、どのように有効な特許ポートフォリオを構築していくのかという点だと再認識しました。新しい技術を用いていれば、当然権利が取れる部分はあるのでしょうが、先行技術が多いとどうしても細かい権利になってしまうので、どれだけ競争優位性を確保できる権利が取れるのかという点では非常に悩ませるように思いました。この辺は、ビジネスサイドともうまくコミュニケーションを取り、本当に価値ある特許となり得るのかどうなのか議論することがより重要になるのではないでしょうか。

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