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『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』レビュー(※記事後半ネタバレ有)

はじめに

私の名は、「ツユモ」。
恋愛アニメ映画マイスターである。
幼い頃から人間的感情が欠落していると罵られてきたため、今は国民的名作『君の名は。』から、個人的傑作(世間的迷作)『君は彼方』まで、古今東西あらゆる恋愛アニメ映画を鑑賞し、人間が持つとされる「愛」という感情について学んでいるところだ。

さて、これ以上設定を語ると作品のレビューにノイズが混じるので、大人しく本題に入り、『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』(以下、『僕愛』『君愛』)の2作品をレビューしていこうと思う。

まず世間的な評判からだが、この記事を開いた人の多くがご存知の通り、ま〜よろしくない

ちょっと調べただけでこういう感想がわんさか出てくるし、私と同じように感想を書いている個人ブログでも肯定的な意見はなかなか見かけない。

というわけで、恋愛アニメ映画マイスターと呼ばれしこの私も、自分の中でのハードルを低くしてから観に行った(具体的には『君は彼方』的な楽しみ方をするつもりで観に行った)のだが、


結論からいうと、

誰だよ4時間もかける価値ないとか言ってたやつ!
おかげで最高の休日になったし、パンフまで買っちまったじゃねーか!!
おい!!!!!!!!

…というわけで少々興奮してしまったが、早速感想を述べていきたい。

悪かったところ

さて、冒頭から勢いで絶賛してしまったけれども、いったん冷静になってみるとボロボロと欠点が出てくるタイプの作品ではあるので、まずは悪いところから整理していきたい。

まずはさんざん言われてるけど、声優の演技の拙さ
特に主人公の青年時代のボイスは、普段の感情を抑えた演技はまあ許容範囲としても、感情を荒らげるシーンの棒読み感が凄い。
普段作品視聴時に、演技の質とかあんま気にしないタイプの私ですらノイズを感じるレベルだった。ここに関しては擁護のしようがないし、これから観にいく人には我慢してくれというほかない。(強いてフォローするなら、幼少期や老年期も場面は別人の方が演じられているので、違和感を感じる時間自体は少ないと思う)

あとはこれも指摘されまくっているが、作画の微妙さ
別に極端に作画崩壊しているとかではないのだが、若干顔のバランスが崩れてるシーンがちらほらあったり、妙に止め絵・ドアップのシーンが多かったりと、数ある劇場アニメ作品の中では絵面の魅力が低いのは正直否めない。作画や映像美を求める人は大人しく来月公開の『すずめの戸締まり』を観に行ってくれ…!頼む…!!


あと最後は内容にも絡むし個人差あると思うけど、テンポの悪さも気になった点。
今作はいかにも電通がやりそうな、「二つの作品どちらから見る?」的な話題性重視のコンセプトの作品なのだが、その割に情報量が『僕愛』と『君愛』でだいぶ偏っていると感じた。

『君愛』の方は、亡くなった愛する人を取り戻すために奮闘する主人公を描く、いわゆるドラえもんのファンメイド最終回的なわかりやすい面白さがあるのに比べ、『僕愛』は全体通してかなりドラマ性が薄い
というか、事件という事件が中盤「無敵の人」が出てくる辺りまでほとんど発生せず、前半は淡々とあんまり面白くないコミュ障ナヨナヨ系主人公の半生を見せつけられる。

それと、テンポという点でどうしても1個言わせてほしいのだが、

幼少期暦とおじいちゃんのベッドシーン(語弊がある)、いくらなんでも長すぎじゃないか!? 

いや、まあ老人のありがたいお話が長いのは世の常ではあるし、作品のテーマにも関わる良いこと言ってるのはわかるけど、恋愛映画観に来て(体感)10分くらいこの絵面見せつけられるのはなかなかキツかったぜ…

あと、どっちかの作品しか見てない人に向けた配慮なのか、どちらも終盤に「観なかった側」のダイジェスト映像が(体感)15分くらいたっぷり尺をとって流れるのも自分の中で評価を下げているポイント。
コンセプト的に同日に2作続けて見る人の方が多いだろうし、そこは割り切ってよかったんじゃないかな~…

ちなみにマジで忙しくてどちらか片っぽだけ見ようと思ってる人には個人的に『君愛』の方を勧めたいのだが、せっかくなのでこの流れで、話題を「鑑賞順のオススメ」に移そうと思う。

鑑賞順のオススメ

自分でこの話題を出しておいてなんだが、

いやー、これは悩ましい!!!

もうこのフレーズを出させた時点で完全に電通の手のひらの上なのだが、こう言わざるをえない。
ただ強いて言えば、個人的には『僕愛』→『君愛』の順でオススメしたい。(私も今回この順番で見た)

一応公式的には、『僕愛』→『君愛』から観ると「切ないラブストーリー」で、逆から観ると「幸せなラブストーリー」とか、「観る順番で結末が変わる!」とかいろいろ宣伝しているのだが、これはそんなに気にしなくて良い。(どっちも最終的に幸せより切なさが残る系の話ではあるので)

『僕愛』→『君愛』の順を私が勧める理由の一つは、先ほども言った通り単純に1つの作品として観たときに『君愛』の方が面白いからである。
やっぱり面白い作品を最後に見た方が映画館を出た後の気分が良いし、何より『君愛』のエンドロールへの入り方がめちゃくちゃオシャレで美しいので、その余韻を少しでも長く味わって欲しい!!!

今作は2作とも前提のコンセプトが尖ってる分、全体的にお話も演出もあまり奇を衒ってないというか、真っ直ぐに作られてるなという印象を受けたのだが、唯一『君愛』のエンドロールシーンだけは「ここで切るか!」という良い意味の驚きがあった。大袈裟かもしれないが、シンプルにこれだけでも今作を観に行った価値があったと思ったし、ホントに切なくて泣いてしまった。(完全に余談だが、エンドロールに入るときの演出で言うと、「サイダーのように言葉が湧き上がる」もオススメ)

『僕愛』から観てほしい理由の2つ目は、『僕愛』の方が世界観の説明が多く、導入としてわかりやすいからというのもある。
今作には「パラレルシフト」だの「IP端末」だのその世界独特の造語が結構出てくるので、少なくとも普段アニメをそれほど観ないタイプの人間はこっちから入った方がわかりやすいと思う。(おそらく『僕愛』の方がドラマ部分が薄いので、尺稼ぎ的な意味合いも含めて説明台詞多めなんだと思うが…)

ここは解釈次第ではあるが、個人的には『僕愛』が謎の提示と世界観の説明、『君愛』が答え合わせとドラマという構成になっていると感じたので、「この場面ってこういう意味だったのか!」的なアハ体験を味わう意味でも、『僕愛』→『君愛』の順で観るのをオススメしたい。

とはいえ、作品としての真のエンディングがしっかり描かれるのは『僕愛』の方だし、作品内の時系列的にも『君愛』→『僕愛』ではあるので、この順番で観るのがオススメといっている人間の気持ちも非常によくわかる。

ので、マジで作品を味わい尽くすなら『僕愛』→『君愛』→『僕愛』の順で見るのが最善かもしれん…。

あ、でもこれだとジジイのありがたいお話を2回も聞かなきゃいけないじゃん!!
やだやだやだ~!!

というわけで、二回目の『僕愛』はDVD買って後半部分だけ見るのが1番の正解かもしれないです。

良かったところ

※ここからはネタバレしまくるので、まだ観ていない人間はブラウザバック推奨。



・・・

帰ったか? 帰ったな?


・・・よし。



断言するが、この作品の面白さを最も担保しているのは、主人公の奮闘する姿でも物語設定の面白さでもなく、「瀧川和音」の存在だと思う。

和音という女は『僕愛』のメインヒロインであり、『君愛』で後半から出てくる主人公の研究パートナー的ポジションの女性なのだが、身も蓋もない言い方をすれば、この人は「不幸属性持ちの負けヒロイン」である。
主人公の暦に対して、学生時代から巨大感情を抱き常に隣にいる存在でありながら、栞という恋敵のいる『君愛』世界では最期まで暦の愛を手に入れることは叶わなかった。
(というかビジュアルや設定から比較しても、メガネかけた秀才設定のただのクラスメートの一人が、偶然出会った白ワンピースが似合う天然で儚げな雰囲気の女の子(栞)にヒロイン力で勝てるわけがないのである…)

そして観た人ならわかると思うが、『僕愛』で和音がメインヒロインとして結ばれているのも、主人公が「栞と出会う世界線」を諦めて妥協した結果行き着いたルートでしかないので、それを思うと「この人の人生ってなんだったんだろう」と本当に切なくなる。
(てかこの作品の「どの世界の君にも、きっとまた恋をする」ってキャッチコピー、和音視点だと残酷すぎるな…)

『僕愛』と『君愛』の2作品で異なるルートを見せるという今作ならではのコンセプトによって、視聴者は和音と栞、二通りの選択をした主人公の生き様をじっくりと見せつけられた結果、主人公の栞に対する愛の大きさと、和音に対する感情の差が残酷なほど開いているのを痛感させられるのがとにかく悲しい。

確かに暦と和音が結ばれた世界でも二人は幸せな家庭を築いてるけれども、もし暦と栞が出会える世界があったとしたら、確実に暦は和音ではなく栞の方を選んだと思う。そういう男だよ、暦は…
さらにパラレル世界だと目の前で息子まで死んじゃうし、どこまで不幸なんだ、和音…。

ただ、一つ強調しておきたいのは、和音はただの不幸な負けヒロインではないことである。
彼女は「自分は主人公の本当の愛を手に入れられない」と自覚していて、最後に「運命の主人公とヒロイン」である暦と栞を約束の場所に引き会わせてあげようとする優しさと強さを持った女性なのだ。これが本当に泣けるぜ…

アクアマリンの指輪の下りも、昔野良犬に襲われてたところを暦に助けられたって下りも、主人公に対する愛しか感じなくて全部が切なくて泣けてくるし、いや、もう暦くんよりあなたが主役の映画だよ、和音さん…(涙)


そういう意味で、なんとなく暦と幸せになってる『僕愛』よりも、和音さんの「可哀想な人」としての側面が強調される『君愛』の方が作品として私は好きだし、『君愛』に関しては全体通して良かった点ばっかり思い浮かぶのだが、唯一、暦と栞が並行世界に逃げようとした理由が「ただの勘違い」っていうのだけはやめてほしかったな…。

二人の若気の至り的な部分を強調したい意図があったのかもしれんが、今思い返しても、

片親の男女二人が仲良くなる
→ヤバい、なんか親同士が結婚しようとしてる!
→私たち兄弟になって結婚できなくなっちゃうから逃げよう!
→事故に合う
→親が再婚しても子供同士は結婚はできるから、逃げなくてもよかったのに…

の流れはシュールギャグに片足突っ込んじゃってると思う。
しょうもない理由で事故にあった方がリアルといえばそうかもしれないんだけど、主人公が狂っていくきっかけになる部分なんだからもっと切実な理由にしてほしかった。これだけはマジで残念。

…と、油断するとつい脱線して不平が出るのが私の悪い癖なのだが、昔から恋愛アニメ映画マイスターとして私は、「失恋を美しく描く作品は名作」という理念を掲げており、そういった意味ではこの作品、非常に満足度が高かったでございます。

「事故で亡くしたヒロインを救うために主人公が奮闘する」という本筋のストーリーラインは「君の名は」を筆頭に恋愛系作品で擦られまくってる展開だし、根本がしょーもない勘違いから始まった本作に関しては感動にどうしても余計なノイズが混じってしまい、確かに「薄めたカルピス」呼ばわりされても仕方ないかもしれない。

しかしながら、この作品特有の面白さ、優位性を一つあげるなら、絶対に主人公に届かない思いを抱えながらも最後に主人公をTRUE ENDに導いた和音さんの存在そのものだと思う。
『僕愛』で暦と二人三脚で幸せな家庭を築いてきたのに、人生の終盤になって君愛世界の自分から真実を聞かされ、自分の歩んできた人生は暦にとっての「TRUE END」ではないと知ったときの和音さんの気持ち、そしてそれでもなお暦の端末に予定を入れて「真のメインヒロイン」と引き会わせる選択をした和音さんの想いを考えると胸が締め付けられるし、本当に切なくなる。

普通の恋愛作品なら、「主人公とメインヒロインが出会わない世界に行く」という切ないENDは描いても、「じゃあ出会わなかった主人公はどんな人生を送ったのか?」という部分までは詳細に描かないだろう。メインヒロインと出会うルートの方が当然、情熱的で熱いドラマ性と幸せに溢れた恋の物語になるのがわかりきっているし、「じゃないルート」を描くメリットがないからだ。

そういった意味では今作に関しても、予算を倍かけて『君愛』だけ作った方が売れたのでは?と思ってしまう部分もなくはないが、いわば「妥協ルート」である「僕愛」を映画まるまる一本分の時間をかけて描いたからこその独特の切なさと人生に対するやるせなさ、諦念を感じられる味わい深い作品になっていると感じた。

もし今回本作を観てあまり面白くないと思った人間も、次回見るときはぜひ、和音さんに感情移入しながら鑑賞してほしい。
この作品は、世界の理をひっくり返すほどの大恋愛をした主人公とヒロインの織りなす壮大なラブストーリーなどではない。そんな主人公すぎる主人公に恋をしてしまったものの、運命のヒロインにはなれなかった普通の女性が見せた「勇気」と「真実の愛」の物語である。

それを意識するだけでさらに楽しめると思うので、ぜひ皆もまた4時間かけて観に行ってほしい、そんな気持ちになる良い作品であった。

(追伸)
『君愛』挿入歌の『サマーデイドリーム』、早くFULLで配信してくれ…

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