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「サンタクロース」子育てエッセイ②

 1999年のクリスマス、今年は小学校5年と4年の娘たちがサンタクロースの存在を疑うようになった。ある日の夕食どき、次女が
「サンタクロースなんているの? ほんとうはお父さんたちなんでしょ。」
と言い出した。夫が答える。
「サンタさんはいるよ。今ごろはきっと忙しいだろうな。世界中の子どもたちに届けなきゃいけないからね。」
「えぇ! 世界中のぉ。世界中のぉ。」
と目を丸くする。長女が
「そうだよ。ほらオーストラリアでは夏だから、サンタさんはサーフィンに乗ってくるじゃない。」
と何かの本で読んだ話をしだした。夫が
「大変なんだよ、サンタさんは。世界中だからね。だから小学3年生までにしてくれ、という話も出てるんだよ。」
と言うと、二人は
「えぇ!」と不満顔。


 サンタクロースの話を信じさせるために、私たちは毎年、枕もとに置くサンタからのプレゼントと、ささやかな親からのプレゼントと二つずつを準備してきたが、要望の品の値段が年々かさむようになってきた。それで、つい夫が本音をもらしたのだ。そこで私は
「いい子には来るよ。いい子にしてなきゃね。」
と言ってあげた。
「ところで何が欲しいんだい? サンタさんに電話しなきゃ。まだ知らせてないだろ。」
とリサーチが始まった。
 子どもの欲しい品物を確認するための大切なプロセス。急がないとおもちゃ屋が品切れで入手できないこともある。サンタはほんとうに大変なのだ。

 娘たちが1、2歳の頃はサンタクロースの意味も分からず欲しいものもなかったので、私たちで適当なプレゼントを準備して枕もとに置いた。翌朝、包みをあけて喜ぶ娘たちを見るのは、親にとってもかけがえのない楽しみの一つだ。
 3歳くらいになると保育園やテレビなどから情報が入るらしく、欲しいものが出てきた。言葉をあまり知らない子どもたちから要望を聞き出すのは、けっこう骨が折れる。
 長女が3歳の頃のこと、まだ2歳にならない妹に向かって
「ともちゃんさ、頼みもしないのにドライヤーのおもちゃが来たね。」
と話しているのを聞いたことがある。
今年は次女の欲しがっている〝言葉を話す人形〟が6800円もすることが分かり
「ほー、高けっじゃあ。」
と叫ぶ夫に、娘は
「いいもん、サンタさんに頼むんだから。」
と言い放ち、さっそくサンタさん宛ての手紙を書き始めた。
 小学生になってからは、要望の品の確認と夢をふくらます作戦の一つとして、サンタクロースに手紙を書かせてきた。去年の長女の手紙は、どこで覚えたのか
〝いつもお世話になります〟
とサンタさんへのねぎらいの言葉から始まっていた。


 プレゼントを娘たちに届けるときが一番気を遣う。イブの日の深夜、それまで隠しておいたプレゼントをそれぞれの眠るかたわらに置くだけだが、サンタを見ようと眠ったふりをしているかもしれない。そうでなくても物音で目覚めてしまうかもしれない。スリルの瞬間だ。
 ワインで酔っぱらっている夫にはとても任せられない。何年か前、値段のシールをはがすのを忘れ、娘に
「サンタさんはヒロセで買ったのかな?」
と言われたことがある。

 今年はサンタの存在を疑う気持ちも出てきているので、いっそう注意が必要だ。目覚めてもごまかせるようにフードつきのコートをはおり、階段の下でスリッパを脱いだ。
 そっと子ども部屋に近づいて、いったんプレゼントを床に置く。深呼吸をしてからノブをそっと回して扉を開けた。豆電球だけがついている。枕もとまでは心配なので、プレゼントはベッドの足もとに置き、扉をもとにもどした。しばらく物音などしないか様子をうかがい、何事もないのを確認して終了。

 翌朝、娘たちは大喜びするのだが、サンタからのプレゼントなので私たち夫婦にお礼の言葉はなく、ちょっと寂しい気持ちになる。
 サンタクロースの存在を信じるきわどい時期にきているのは確かで、来年はサンタを演じる楽しみがなくなってしまうかもしれない。
 赤ちゃんが最近生まれた友人に
「いいね。これからだね。10年は楽しめるよ。」
と声をかける私たちだった。   

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