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オリジナルの童話・絵本原作(言葉のフリー素材:発表済み含む)

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教育雑誌に掲載された童話と、文学賞やコンクール等で受賞した童話です。絵本、紙芝居、朗読、動画の原作などの二次使用につきましては無償です。お気に入りがありましたら「フリー素材」とし… もっと読む
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記事一覧

童話【ちいさなゆめ】(幼年モノ)

  砂浜につづく土手の上に、  ぽつんと、菜の花が一株だけ咲いています。  この菜の花の仲間たちは、  土手のむこうの野原でひろがって咲いています。  このひとりぼっちの菜の花を、ぼっちと名付けましょう。  なぜ、ぼっちが、ひとりぼっちになってしまったかというと、  種のときに、仲間たちとちがう風にはこばれたからです。 「はこばれた? いや、ちがう……」  ぼっちはつぶやきました。  昨年のあの日、とつぜん、ひとすじの風が吹きぬけました。  ぼっちには、その風は、う

童話【さよなら、こんにちは】(幼年)

 すきとおった川のなかを、二匹のアユがおよいでいます。  こがね色の体は、わずかに黒ずんでいます。  オスのなまえはタク、メスはサヤといいます。  アユは春に川で生まれて海へでます。  しばらくのあいだ海でくらして、夏ごろに川をのぼります。そして、川でなわばりをもち、ぐんぐん育っておとなになります。  秋には、卵をうむために、今度は川をくだるのです。  川の中流で卵をうむためです。  タクとサヤは川をくだっているとちゅうに出あいました。  とつぜん、 「スイカだわ!」

童話【ちょっと おやすみ】(幼年向け)

   小さな庭のかたすみに、大きな茶色の鉢があります。  水のはった鉢には、緑色のまるい藻がういています。  水の中で、メダカの家族がくらしています。  サクはメダカの男の子です。  寒くても、へっちゃら。  今日もプランクトンをおなかいっぱい食べています。 「ふぁあー。ねむたくて、ねむたくて」  お父さんがあくびをしました。  お母さんもつられてあくびをします。  冬のあいだ、メダカは冬眠して、あたたかい春をまつのです。 「ぼく、ねむくなんかないもん!」  サクは泳

童話【でぐち いりぐち いりぐち でぐち】(暦物語)

 お寺の和尚さんが、小僧の定一さんをよびました。 「今年も、めでたい春がきた」 「春って、どこにきたんです?」  定一さんは、庭をゆびさしました。  灯篭にはうっすら雪がつもっています。 「こよみのうえで、春がきたんじゃ。お札をかいて、村人たちにくばろう」  定一さんは墨と筆をもってきました。 「立春大吉」  和尚さんはお札をたくさんかきました。  定一さんがお札をくばると、村人たちはよろこびました。 「このお札、なんの役にたつのですか?」  定一さんはたずねました。

童話【カニたちの花火大会】(暦物語)

 今日はお盆の花火大会です。  日のかたむいた砂浜にたくさんの人があつまっています。 「あぁ、いいにおい!」  一羽のカモメが砂浜にまいおりました。    屋台から、醤油のこげるにおいがします。  カモメは人間の食べ物にありつくきまんまんです。  と、声がしました。 「こら、まちなさい!」  お父さんガニが、子ガニをおいかけています。  子ガニたちはまちません。 「そっちは、人間が多い。人間の食べ物をねらったカモメがいるかも……、はっ!」  お父さんガニは息を飲みました

童話【カラスをねらえ!】(短編)

 あしたは、小学校の秋の運動会です。今日は一年生があつまって、玉入れのさいごのれんしゅうです。  のり子は赤玉をひろって、かごに投げました。ちからいっぱい投げた玉は、かごにとどかずにおちました。  もういちど、よくねらって、玉を投げます。  ぽこん!  こんどは、赤玉は、おなじ赤組のタケシくんの頭にあたりました。 「どこ、投げてるんだよ!」  タケシくんがふりむきます。 「ごめんね」  のり子はあやまりました。  玉入れの玉はふにゅふにゅしていて、じょうずに投げられないの

童話【ひみつのお花見】(短編)

 ゆいはゴミぶくろをひきずって、校舎のうらにきました。そうじの時間のゴミだしをまかされたのですが、一年生になったばかりのゆいに、ゴミぶくろは大きすぎます。 「ともみちゃんと、ひろ子ちゃんに、ゴミぶくろをいっしょにもってと、おねがいすればよかったな」  ゆいは小学校に入学するよりひとあしさきに、消防団の子どもの会にはいりました。ともみちゃんと、ひろ子ちゃんは、子どもの会でいっしょです。  小学校でおなじクラスになったのに、声をかけられなかったのです。ふぅと、ため息をついたと