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童話【カラスをねらえ!】(短編)


©️白川美古都

 あしたは、小学校の秋の運動会です。今日は一年生があつまって、玉入れのさいごのれんしゅうです。
 のり子は赤玉をひろって、かごに投げました。ちからいっぱい投げた玉は、かごにとどかずにおちました。
 もういちど、よくねらって、玉を投げます。

 ぽこん!
 こんどは、赤玉は、おなじ赤組のタケシくんの頭にあたりました。

「どこ、投げてるんだよ!」
 タケシくんがふりむきます。
「ごめんね」
 のり子はあやまりました。
 玉入れの玉はふにゅふにゅしていて、じょうずに投げられないのです。

「のりちゃん、ふんわり投げるのよ」
 友だちのゆみちゃんが、玉を投げるコツをおしてくれます。
「こうして、ぽーん!」
 ゆみちゃんは、手のひらに玉をのせて下からほうり投げました。
 赤玉はすいこまれるように、かごにはいりました。

「すごい! やってみる!」
 のり子はさっそくまねをしました。
 手のひらに玉をのせて、
「ぽーん! あれれ?」
 玉はまえではなく、うしろの白組のほうへとんでいきました。


©️白川美古都


「へたくそ、カラスもわらってるぞ」
 タケシくんは、校庭のイチョウの木をゆびさしました。
 からだの大きなカラスが、枝にとまっています。
「あのカラス、きのうも、おとついも、あそこにいたよね」
 ゆみちゃんは首をかしげます。
「わたしたちをかんさつしているみたい」
 のり子も首をひねります。

「そうだ、カラスをねらえ!」
 タケシくんは、とんでもないことをいいだしました。
「下から、ほうり投げたほうがいいよ」
「いいや、上からだ!」
 ゆみちゃんとタケシくんが、いいあらそいをはじめました。

 のり子は、タケシくんの投げかたもためしてみることにしました。かた足をあげて、大きくふりかぶって、
「え、えいっ、きゃ!」
 どすん!
 のり子は、しりもちをつきました。と、そのとき、
「カカカカカ!」
 カラスはたしかに、おもしろそうに鳴いたのです。

©️白川美古都

 
 つぎの日、空はぴかぴか晴れました。運動場は、たくさんの人でいっぱいです。
 のり子たちの出番は、すぐやってきました。
「つづいて、一年生の玉入れです」
 アナウンスがながれました。

 さいしょに、ひとり二個ずつ玉がくばられます。
 のり子は、れんしゅうで、一個も玉をかごにいれたことはありません。
(一個でいいから、かごにいれたいな)
 顔をあげたときです。
 ちょうど、かごのむこうがわの木に、カラスがとまっているのが見えました。やっぱりおなじカラスです。
(あたしをわらいにきたんだ!)
 のり子はくやしくなりました。

「はじめ!」
 音楽が鳴りだします。まわりの子たちがいっせいに、玉を投げはじめました。
 のり子も一個、二個と投げました。かごにすらとどきません。いそいで玉をひろいます。
 ぽこん!
 また、タケシくんの頭にぶつけました。
 でも、あやまっているひまはありません。しりもちをついて立ちあがり、砂にまみれて玉をさがします。
 すると、
「カカカカ、カーッ!」
 カラスは、大きな声でわらいました。


©️白川美古都


 のり子は、赤玉をにぎりしめました。
「カラス、わらうな!」
 カラスをねらって、のり子は、ぶんっとうでをふりました。
 玉はカラスにむかってまっすぐとびました。
 そして、すとんと、かごにおちました。
「はいった、はいったぁ!」

 音楽がおわります。
 カラスは、ぱっととびたちました。

「それでは、玉を数えます」
 先生がかごに手をつっこんで、玉を投げます。
 ゆみちゃんは、手をあわせています。
 タケシくんはそわそわしています。
 さいごの一個は……、
「赤組の勝ち!」
 青い空に、赤い玉が、ひゅーっととんでいきます。
 のり子は、ゆみちゃんとハイタッチしました。タケシくんに、Vサインをおくります。
 ふと、おもいました。
「あのカラス、あたしをおうえんしてくれていたのかな?」
 ひらり、イチョウの葉がおちました。

終わり(400字詰め原稿用紙5枚)

#童話 #短編童話 #言霊さん #言霊屋

〜創作日記〜
短編童話の依頼を受けた際に執筆した作品です。
私はカラスが好きです。いつも同じカラス(たぶん)に挨拶してから仕事に行くのが日課です。

イラスト:kotatu_futon様

新人さんからベテランさんまで年齢問わず、また、イラストから写真、動画、ジャンルを問わずいろいろと「コラボ」して作品を創ってみたいです。私は主に「言葉」でしか対価を頂いたことしかありませんが、私のスキルとあなたのスキルをかけ合わせて生まれた作品が、誰かの生きる力になりますように。