童話【カラスをねらえ!】(短編)
あしたは、小学校の秋の運動会です。今日は一年生があつまって、玉入れのさいごのれんしゅうです。
のり子は赤玉をひろって、かごに投げました。ちからいっぱい投げた玉は、かごにとどかずにおちました。
もういちど、よくねらって、玉を投げます。
ぽこん!
こんどは、赤玉は、おなじ赤組のタケシくんの頭にあたりました。
「どこ、投げてるんだよ!」
タケシくんがふりむきます。
「ごめんね」
のり子はあやまりました。
玉入れの玉はふにゅふにゅしていて、じょうずに投げられないのです。
「のりちゃん、ふんわり投げるのよ」
友だちのゆみちゃんが、玉を投げるコツをおしてくれます。
「こうして、ぽーん!」
ゆみちゃんは、手のひらに玉をのせて下からほうり投げました。
赤玉はすいこまれるように、かごにはいりました。
「すごい! やってみる!」
のり子はさっそくまねをしました。
手のひらに玉をのせて、
「ぽーん! あれれ?」
玉はまえではなく、うしろの白組のほうへとんでいきました。
「へたくそ、カラスもわらってるぞ」
タケシくんは、校庭のイチョウの木をゆびさしました。
からだの大きなカラスが、枝にとまっています。
「あのカラス、きのうも、おとついも、あそこにいたよね」
ゆみちゃんは首をかしげます。
「わたしたちをかんさつしているみたい」
のり子も首をひねります。
「そうだ、カラスをねらえ!」
タケシくんは、とんでもないことをいいだしました。
「下から、ほうり投げたほうがいいよ」
「いいや、上からだ!」
ゆみちゃんとタケシくんが、いいあらそいをはじめました。
のり子は、タケシくんの投げかたもためしてみることにしました。かた足をあげて、大きくふりかぶって、
「え、えいっ、きゃ!」
どすん!
のり子は、しりもちをつきました。と、そのとき、
「カカカカカ!」
カラスはたしかに、おもしろそうに鳴いたのです。
つぎの日、空はぴかぴか晴れました。運動場は、たくさんの人でいっぱいです。
のり子たちの出番は、すぐやってきました。
「つづいて、一年生の玉入れです」
アナウンスがながれました。
さいしょに、ひとり二個ずつ玉がくばられます。
のり子は、れんしゅうで、一個も玉をかごにいれたことはありません。
(一個でいいから、かごにいれたいな)
顔をあげたときです。
ちょうど、かごのむこうがわの木に、カラスがとまっているのが見えました。やっぱりおなじカラスです。
(あたしをわらいにきたんだ!)
のり子はくやしくなりました。
「はじめ!」
音楽が鳴りだします。まわりの子たちがいっせいに、玉を投げはじめました。
のり子も一個、二個と投げました。かごにすらとどきません。いそいで玉をひろいます。
ぽこん!
また、タケシくんの頭にぶつけました。
でも、あやまっているひまはありません。しりもちをついて立ちあがり、砂にまみれて玉をさがします。
すると、
「カカカカ、カーッ!」
カラスは、大きな声でわらいました。
のり子は、赤玉をにぎりしめました。
「カラス、わらうな!」
カラスをねらって、のり子は、ぶんっとうでをふりました。
玉はカラスにむかってまっすぐとびました。
そして、すとんと、かごにおちました。
「はいった、はいったぁ!」
音楽がおわります。
カラスは、ぱっととびたちました。
「それでは、玉を数えます」
先生がかごに手をつっこんで、玉を投げます。
ゆみちゃんは、手をあわせています。
タケシくんはそわそわしています。
さいごの一個は……、
「赤組の勝ち!」
青い空に、赤い玉が、ひゅーっととんでいきます。
のり子は、ゆみちゃんとハイタッチしました。タケシくんに、Vサインをおくります。
ふと、おもいました。
「あのカラス、あたしをおうえんしてくれていたのかな?」
ひらり、イチョウの葉がおちました。
終わり(400字詰め原稿用紙5枚)
新人さんからベテランさんまで年齢問わず、また、イラストから写真、動画、ジャンルを問わずいろいろと「コラボ」して作品を創ってみたいです。私は主に「言葉」でしか対価を頂いたことしかありませんが、私のスキルとあなたのスキルをかけ合わせて生まれた作品が、誰かの生きる力になりますように。