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童話【でぐち いりぐち いりぐち でぐち】(暦物語)


2018/02


p1


 お寺の和尚さんが、小僧の定一さんをよびました。
「今年も、めでたい春がきた」
「春って、どこにきたんです?」
 定一さんは、庭をゆびさしました。
 灯篭にはうっすら雪がつもっています。

「こよみのうえで、春がきたんじゃ。お札をかいて、村人たちにくばろう」
 定一さんは墨と筆をもってきました。

「立春大吉」
 和尚さんはお札をたくさんかきました。


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 定一さんがお札をくばると、村人たちはよろこびました。
「このお札、なんの役にたつのですか?」
 定一さんはたずねました。
「こうやって、家の戸口に、お札をはりつけるんだよ」
 村人のひとりが教えてくれました。
「このお札は、おもてからみても、うらからみても、立春大吉とよめるだろう?」
 定一さんは、うすいお札を空にすかしてみました。

「立、春、大、吉」
 左と右が、おなじかたちをしています。

「このお札をはっておくと、家にはいってきた鬼が、どちらがいりぐちで、どちらがでぐちか、わからなくなるんだ。そして、家からでていってくれるんだ」
 村人はわらいました。


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 村をひとまわりしても、まだお札はあまっています。
「山の動物たちにもくばってやろう」
 定一さんは雪道をあるきだしました。

 しばらくいくと、太い木の上で、リスがふるえていました。
「小僧さん、たすけてください! あっ、そのお札は!」
 リスは木をかけおりて、お札をひったくりました。
 いそいで、お札にヤニをつけて、巣穴の上にはりつけました。
「なんまいだぁ」
 リスは手をこすりあわせます。

 巣穴から、にゅっと、ヘビが顔をだしました。
 ヘビはお札にきづきました。
「ここはでぐちだから、おいらがいるのはうちがわだな」
 ぴゅーっと、風がふきました。
 お札はめくれあがって、空中でうらがえりました。
 そして、ぺとっと、巣穴の上にくっつきました。
 ヘビは首をかしげました。
「おやっ? うらがえったのに、いりぐちが見えるということは、おいらがいるのは、そとがわなのかな?」
 ヘビは巣穴の外にでました。
 そのすきに、リスは巣穴にもどり、穴にふたをしました。
 ヘビはくやしがって、かえっていきました。


p4


 定一さんは、うさぎ、ねずみ、鳥たちにお札をくばりました。

 定一さんは、村をみおろせる山のてっぺんでこしをおろしました。
「お札はあと一枚……」

 びゅーっと、風がふいて、お札をさらいました。
 お札は空たかくのぼり白い原っぱにおちました。

 すると、どこからか、
「いりぐちでぐち? でぐちいりぐち?」
 ちいさな声がしました。

「さて、どちらでしょう?」
 定一さんがいじわるっぽくいうと、
 ポン、ポポーン!
 雪の下から、いっぺんに、フキノトウたちが顔をだしました。

「春よ、春のひかりだわ!」
 フキノトウたちは、お日さまのひかりをあびて、うーんとのびをしました。

#童話 #読切 #言霊さん #言霊屋

〜創作日記〜
このテーマ作品は難しかったですね。「豆まき」「恵方巻き」は他の作家さんが書かれていてNGで、残っていたテーマが「立春」(汗 何度も言葉の意味とかを調べて、でも、ストーリーが動き出さないで、結局、動物たちに助けてもらいました。感謝です。

©️白川美古都

新人さんからベテランさんまで年齢問わず、また、イラストから写真、動画、ジャンルを問わずいろいろと「コラボ」して作品を創ってみたいです。私は主に「言葉」でしか対価を頂いたことしかありませんが、私のスキルとあなたのスキルをかけ合わせて生まれた作品が、誰かの生きる力になりますように。