童話【でぐち いりぐち いりぐち でぐち】(暦物語)
お寺の和尚さんが、小僧の定一さんをよびました。
「今年も、めでたい春がきた」
「春って、どこにきたんです?」
定一さんは、庭をゆびさしました。
灯篭にはうっすら雪がつもっています。
「こよみのうえで、春がきたんじゃ。お札をかいて、村人たちにくばろう」
定一さんは墨と筆をもってきました。
「立春大吉」
和尚さんはお札をたくさんかきました。
定一さんがお札をくばると、村人たちはよろこびました。
「このお札、なんの役にたつのですか?」
定一さんはたずねました。
「こうやって、家の戸口に、お札をはりつけるんだよ」
村人のひとりが教えてくれました。
「このお札は、おもてからみても、うらからみても、立春大吉とよめるだろう?」
定一さんは、うすいお札を空にすかしてみました。
「立、春、大、吉」
左と右が、おなじかたちをしています。
「このお札をはっておくと、家にはいってきた鬼が、どちらがいりぐちで、どちらがでぐちか、わからなくなるんだ。そして、家からでていってくれるんだ」
村人はわらいました。
村をひとまわりしても、まだお札はあまっています。
「山の動物たちにもくばってやろう」
定一さんは雪道をあるきだしました。
しばらくいくと、太い木の上で、リスがふるえていました。
「小僧さん、たすけてください! あっ、そのお札は!」
リスは木をかけおりて、お札をひったくりました。
いそいで、お札にヤニをつけて、巣穴の上にはりつけました。
「なんまいだぁ」
リスは手をこすりあわせます。
巣穴から、にゅっと、ヘビが顔をだしました。
ヘビはお札にきづきました。
「ここはでぐちだから、おいらがいるのはうちがわだな」
ぴゅーっと、風がふきました。
お札はめくれあがって、空中でうらがえりました。
そして、ぺとっと、巣穴の上にくっつきました。
ヘビは首をかしげました。
「おやっ? うらがえったのに、いりぐちが見えるということは、おいらがいるのは、そとがわなのかな?」
ヘビは巣穴の外にでました。
そのすきに、リスは巣穴にもどり、穴にふたをしました。
ヘビはくやしがって、かえっていきました。
定一さんは、うさぎ、ねずみ、鳥たちにお札をくばりました。
定一さんは、村をみおろせる山のてっぺんでこしをおろしました。
「お札はあと一枚……」
びゅーっと、風がふいて、お札をさらいました。
お札は空たかくのぼり白い原っぱにおちました。
すると、どこからか、
「いりぐちでぐち? でぐちいりぐち?」
ちいさな声がしました。
「さて、どちらでしょう?」
定一さんがいじわるっぽくいうと、
ポン、ポポーン!
雪の下から、いっぺんに、フキノトウたちが顔をだしました。
「春よ、春のひかりだわ!」
フキノトウたちは、お日さまのひかりをあびて、うーんとのびをしました。
新人さんからベテランさんまで年齢問わず、また、イラストから写真、動画、ジャンルを問わずいろいろと「コラボ」して作品を創ってみたいです。私は主に「言葉」でしか対価を頂いたことしかありませんが、私のスキルとあなたのスキルをかけ合わせて生まれた作品が、誰かの生きる力になりますように。