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童話【ひみつのお花見】(短編)


©️白川美古都

 ゆいはゴミぶくろをひきずって、校舎のうらにきました。そうじの時間のゴミだしをまかされたのですが、一年生になったばかりのゆいに、ゴミぶくろは大きすぎます。

「ともみちゃんと、ひろ子ちゃんに、ゴミぶくろをいっしょにもってと、おねがいすればよかったな」

 ゆいは小学校に入学するよりひとあしさきに、消防団の子どもの会にはいりました。ともみちゃんと、ひろ子ちゃんは、子どもの会でいっしょです。
 小学校でおなじクラスになったのに、声をかけられなかったのです。ふぅと、ため息をついたときです。


©️白川美古都


「今年もみごとに咲いたのう」
 しわがれ声がきこえました。見ると、

「あっ、もぐらさん」
 ゴミおき場の土から、一匹のもぐらが顔をだしていました。もぐらが見ているのは、校舎のうらの一本のさくらの木です。

「わしとおなじで、このさくらの木はずいぶん歳をとっているから、今年は花をつけないとおもっていた」
 ゆいはゴミおき場にふくろをおくと、もぐらじいさんのとなりにすわりました。

「すごくきれい」
 ふと、ゆいはふしぎになりました。もぐらは目が見えないはずです。もぐらじいさんは小枝のサングラスをかけたりはずしたりしながら、お花見しています。

「それは、もぐらのおじいさんのまほうのサングラス?」
「これは、ふつうの木の枝であんだサングラスじゃよ。ひみつのサングラスとでもよんだほうがぴったりくるかのう」
 もぐらじいさんは、ひみつのなかみをおしえてくれました。

「世の中には、うつくしいものがたくさんあるというじゃないか。それを見るために、わしはひみつの特訓をつんだのじゃ。さいしょのうちは、こうして目をかくして」
 もぐらじいさんは、サングラスをかけました。そして、すばやくはずしてさくらを見ると、サングラスをもどしました。

「すこしずつ目をならして、多くのうつくしいものを見た。あおい空、しろい雲、さくらの花、もうこの世におもいのこすことはないといいたいところじゃが……」
「まだ、なにか見てないの?」
「夜のさくら、よざくらじゃ」

 ゆいはお父さんとお母さんといっしょに夜のさくらを見たことがありました。ライトアップされたさくらは、びっくりするほどのうつくしさでした。

 校舎のうらの外灯はこわれて、クモの巣がかかっています。先月、消防団の子どもの会で、火の用心の見まわりをしたとき、校舎のうらはまっくらでした。
 ゆいは、もぐらじいさんによざくらを見せてあげたいとおもいました。

「あっ、いいことおもいついた! もぐらのおじいさん、たのしみにしていてね」

©️白川美古都

 つぎのにちよう日、消防団の火の用心の見まわりがありました。
 子どもの会のメンバーは、かいちゅう電灯を手にあつまります。

 ゆいは勇気をだして自分から、ともみちゃんとひろ子ちゃんにはなしかけました。
「あのね、おねがいがあるの。校舎のうら道を歩くとき、かいちゅう電灯で、フェンスのそばのさくらの木をてらしてほしいの」
 ちょっとのあいだでいいからと、つけたしました。
 すると、
「もちろん、いいわよ。校舎のうらに、さくらの木があったんだね」
 ともみちゃんはほほえみました。ひろ子ちゃんも、たのしみとわらいました。

 もぐらじいさんのことは、ふたりにはいいませんでした。ゆいと、もぐらじいさんだけのひみつにしておきたかったから。
「火の用心、コン、コン!」

 消防団の子どもの会は、おとなたちにかこまれて、校舎のうら道にきました。
 やくそくどおり、ともみちゃんとひろ子ちゃんはかいちゅう電灯をフェンスにむけます。

「うわぁ、さくらの木だ!」
 ふたりの声に、ほかの子どもたちもいっせいに、さくらの木をてらしました。

「きれい、すごくきれい!」
 ひかりのなかに、さくらの花は、ぽうぽうっとしろくうかんでいるようです。

「もぐらのおじいさん、見てる?」
 こころのなかでつぶやいて、ゆいはかいちゅう電灯をゆらしました。

 つぎの日、ゆいが校舎のうらへいくと、もぐらじいさんはいませんでした。
 かわりに、土のあなのそばに、木の枝のサングラスがおいてありました。


©️白川美古都

終わり(400字詰原稿用紙5枚)

#童話 #絵本原作 #言霊さん #言霊屋

〜創作日記〜
雑誌「子とともにゆう&ゆう」(愛知県教育振興会)に掲載されたちいさな童話です。文章の著作権は私に帰属していますので、素材としてどうぞ無償でお使いくださいませ。

noteイラスト:1nose10ya様


新人さんからベテランさんまで年齢問わず、また、イラストから写真、動画、ジャンルを問わずいろいろと「コラボ」して作品を創ってみたいです。私は主に「言葉」でしか対価を頂いたことしかありませんが、私のスキルとあなたのスキルをかけ合わせて生まれた作品が、誰かの生きる力になりますように。