ノーマルカード
昔からなんでもないようなことについて深く考えて沼にハマったような感覚に陥ることが多かった。
本当の幸せってなんだろう、とか大金を持って贅沢な暮らしをすることが人生のゴールなのだろうか、とか。結婚できるのか、できるとして相手はどこで見つけるのか。生きているって実感するってどういうときなのか。世界は存在しているのか。胡蝶の夢の胡蝶が現実なのではないか。だとしたらこの生活は虚像でしかないのか。毎日毎日そんな事を考え続けていた。
こういう思考を人に話す機会はずっとなかったし(そんな心の中のことを打ち明けられる知り合いがいないといったほうが正しいけど)打ち明ける予定もなかった。正直言ってこういうことを考えている人がそんなにたくさんいるとも思っていなかった。
ある意味では自分が他の人とは違うレアカードのようなものだとも思っていた。
先日とある年上の人と会話をする機会があり遂に自分の心の中身について吐露した。
帰ってきた返事は
「それめちゃくちゃ俺も考えてたわ」
であった。僕は孤独ではないのかもしれない。
オードリーの若林さんを尊敬している。若林さんのエッセイを読んでいると脳みその中の孤独感を感じさせる部分がしぼんでいく気がする。若林さんも僕が考えているのと同じようなことをエッセイに書いていた。僕は孤独ではない。
若林さんの半分の人生しか歩んでいない僕だけど。だからこそ倍も先を歩いている若林さんが20代、30代、40代と考え方を変えていく流れを読んで涙が出るのかもしれない。
驚くべきことに(多分驚くべきことでもないのだろうけど)僕の心の中身は開けてみれば色んな人が人生の中でとっくのとうに考えてきたことだったのだ。
これにはひどく衝撃を受けた。自分が考え続けたことは何度も擦られたことだったのだ。やはり僕は孤独ではなかったのだ。
本当の幸せなんてものは存在しないし、貧乏でも金持ちでもそれなりに身の丈にあった幸せがある。結婚は機会があればできるし生きているって実感したければ全速力で走って心臓の鼓動を感じればいい。世界は確実に存在しているし、胡蝶ではない。
とにかくいろいろなことを考えたし、思いつめたし、つらい思いをした。
だけど生きていれば、息をしていれば、考えることを止めなければ、生きている価値はある。そう思うことにした。
感染症のせいでなかなか人と素顔で話をすることが難しい時代だ。その時代に青春を過ごしてしまった。これから社会に出ていろいろな経験をするだろう。
決してレアカードではない。お前はノーマルカードだ。ノーマルカードのカスだ!
頭の中でリングサイドに座って未来を想像してうなだれる僕に脳内のコーチ姿の僕が叫んでいる。
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