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【感想】ブラックボックス

先日から日記に感想を挟んでいる「ブラックボックス」。
少しずつ読み進めようと思っていたのに、気がついたら読み終えてしまった。
主人公のサクマに感情移入して読んでいたらあっという間だった。
読者を連れて疾走する力を、この本は持っているように思う。

さて、本題の感想だ。
この作品は、20代半ばから30代にかけて多くの人が感じているであろう焦燥感が強く描写される。
職を転々としていたり、物事が長続きしなかったり、それでも心のどこかで「大丈夫」と「でも、ひょっとしたら」なんて不安を抱えている人は、きっと読んでいて身近な感情を更に揺すられるのではないだろうか。
私は少なくともそうだった。先の見えない未来に恐怖を感じながら、けれど思いきった決断ができずに地続きになった中途半端な感情を引きずってしまう。
あくまでもサクマの話なのに、世界情勢やどこにでもある日常は私たちの生活と共に常に息をしている。
自分にも降りかかるかもしれない未来がそこにあるのだ。
個人に生活があって生き方が違うように、その人の幸福の度合いも違う。
だけど永遠なんてものはこの世のどこを探してもなくて、一分後に自分がどうなっているかすらわからない。
どうするかではなく、どうなっているか。
読者が驚くような展開がこの作品には突如として現れる。なんの前触れもなく、テレビのチャンネルを誰かに切り替えられた時のように。
その展開にはとても驚いたし、サクマと自分を置き換えた時には絶望というか、見えない恐怖さえ感じる。
というか、誰しも他人事ではないのだと思う。
帯にある「暴発」の一言は、誰もが持ち合わせている可能性だと思うから。
それが予期せぬ未来だ。この作品のタイトル、「ブラックボックス」にも繋がる。

終盤が近づいても尚、葛藤を続けるサクマの姿は今を生きる人々の姿そのものだ。
そこにあるのが後悔かそうでないかは個人差がある。けれど、ほんの少しの変化に気づいた時、それを肌で感じた時、頭の中で気づいた時、人は人生の選択権を手にすることができるのだと思う。

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