映画グランツーリスモ 解説①:オンライン選考会編

さて、まずは「① オンライン選考会編」です。
ヤンがGTアカデミーのオンライン選考会に参加し、勝つまでが描かれます。



映画はグランツーリスモ(ゲーム)の開発風景から始まります。
でかいミニカーだな実車をスキャンしてCGモデリングをしたり、音を収録したりしていますね。

黒くて平べったい、テールランプの丸い車は「フォード・GT」。

映画「フォード VS フェラーリ」の主役だったあの「フォード・GT40」を
現代の技術でリメイクしたモデルで、2005年〜2006年までにわずか1500台のみが生産されたスーパーカーです。外側は寸法以外そっくりですが中身はかなり違います。

グランツーリスモの生みの親である山内一典氏の愛車なのですが、氏が所有するのはホワイトとグレーの2台だったはずなので、塗り直しをしたか、別の個体と思われます。

「世界一のレーシングシミュレーター」

英語の字幕は

”THE WORLD’S MOST ACCURATE RACING SIMULATOR”

Accurate=正確な、が日本語訳では省かれていますね。

世界一正確なレーシングシミュレーター…

これについては後ほど詳しく解説しますが、ここではひとまず

・初代グランツーリスモが発売された1997年時点はともかく
・一般家庭用 / 業務用のシミュレーターは他にも多く存在し
・挙動の正確さではグランツーリスモより優れたものもある

ということだけをお話ししておきます。

ですが私は、そのことでゲームとしてのグランツーリスモの価値が落ちるとは思っていません。
グランツーリスモは私にとって車への世界を開いてくれた素晴らしいゲームであり、兄がこのゲームを買ってこなければ、私はいまきっと人生を諦め、結婚と育児を経験し、ミニバンに乗って死んでいたでしょう。

あれ?
GRAN TURISMOのフォントがちゃんとゲーム準拠になってる。

ポスターではパチモノっぽい別のフォントだったので心配でしたが、すこし安心しました。フォント関連の契約(印刷物に使用不可)などがあったのかもしれませんね。

“BASED ON A TRUE STORY.”

実話に基づくストーリー、だそうです。
たっ、たのっ、し、み、です、ね?

英国ウェールズ州カーディフ。

ウェールズ州の州都で、人口約37万人。
ロンドンから西におよそ250km。
東京から見た福島県いわき市くらいの感じ。

さてゲームが始まります。

おや?画面が…

【GT7ではなくGT5】


画面は2022年発売のグランツーリスモ7のそれですが、ヤン選手がGTアカデミーに参加したのは2011年なので、当時はPS3でグランツーリスモ5をプレイしていたと思われます。

ですがこれはまあ、仕方ない面もあります。だってGT5、いま見るといかにも「ビデオゲーム」ですから。
GT5が出た当時はハードがPS2からPS3に進化したことに伴うリアルさに感動したものですが、いま見ると凡庸です。
これはGT5がダメということではなく、この10年でグランツーリスモや他のゲームがいかに進歩したか、ということですね。

ですからこの世界は2011年ではなく2023年で、映画の「ヤン」もミレニアル世代ではなくZ世代だと思って見るのがいいんでしょうね。登場する車もアイテムもすべて2023年準拠です。

ただ、冒頭のシーンで「グランツーリスモは山内一典氏によって25年前に開発された」というテロップを流していながら、あとのシーンで山内氏が「発案からここまで10年」というニュアンスの発言をしていたり、時代設定には作品内でも矛盾が生じています。テロップが言及している現実のグランツーリスモは25周年、劇中のグランツーリスモは10周年(ただし描写は2023年準拠)というややこしい理解が必要です。

ヤンが箱から出してご満悦のあれは「ハンドルコントローラー」。通称ハンコンで、グランツーリスモとは別売りです。なくても遊ぶことはできますが、あるとハンドルから実車のようなフィードバックが返ってきて、タイヤグリップの限界を探る正確な操作ができます。
上が青天井なのでアレですが、ヤンの機種は一般家庭用では中の上。周辺設備含めて30万円いかないくらいでしょうか。ハンドル部分は取り外して交換可能で、彼はバイト代10万円くらいでハンドル部分を新調したようです。

ところでヤン、俺も女性用下着売り場でバイトさせてくれないか。いや、特に深い意味はないんだ。

キャプテン翼の翼くんの部屋かってくらい、自動車グッズだらけのヤンの部屋。

おしゃれというか、陽キャというか、そこそこ余裕があって幸せそうなご家庭の部屋ですねえ…(ギリッ)
この文章は1%の使命感と99%の私怨で書かれています。

棚には歴代グランツーリスモのナンバリングタイトルが積んであります。
初代を除いて。

いや初代は?
全世界で1000万本以上売れた偉大な初代は?
たぶん初代は開発に別会社が絡んでたせいで無理だったと思うんですけど(名推理)

ハンドルもアップデートして自信満々なヤン。新しい愛車は…

McLaren F1 ’94 ロードカー!

しかも、公道用のMcLaren F1にレーシングカーのカラーリングを施してあります。

カラーリングの元ネタは、1997年のルマンを戦ったF1 GTR “ロングテール”。ル・マン24時間レースでクラス優勝した、レーシングカーの世界に燦然と輝く聖杯と言ってもよい車です。耐久レースはいくつかの階級=クラスに別れていて、GT1クラスで優勝、全体の総合では2位と3位の成績でした。

現実でもオークションに出てくれば二桁億円は間違いないですが、ゲーム内でも超高価。ヤンはゲーム内通貨Cr.2,000,000,000を支払って買ったということになります。

しかし、彼がもの凄い腕を持ったスーパープレイヤーなのかはこれだけでは分かりません。なぜなら凡人でもリアルマネー22,000円をPSストアに支払えば買えるからです。この時点ではただの課金厨の可能性があります。もしくは暇人。

飛び出てくる3Dモデル。

もちろん現実のグランツーリスモでは車の透視図がモニター画面から飛び出てくることはなく、彼の空想です。GT7では一部車種は車体内部の部品もモデリングされているので、そのモデルの流用かもしれません。

「もっとダウンフォースとレーキ角を……」

(ヤン)

「レーキ角」とは車体の前後方向の傾斜角のことです。
車体全体の空気力学に影響する、近年のF1では非常に重要な設計要素ですが、1994年開発の市販車改造レーシングカーでは考慮されておらず無関係の用語です。

この車と現代F1とでは空力設計が根本的に違いますし、そもそもレーキ角はサスペンションなど他の要素との関連で決まる設計上の「結果」であって、レース前にそれ単体を調整するものではありません。もちろんダウンフォース(空気力学で車体を押さえつける作用)と同様、あればあるほどよいというものでもない。

一応、リアの車高を上げてフロントを下げることでゲームでもレーキ角そのものはつけられるかもしれませんが、それによる空力的な影響がゲームに反映されることは…ありません。

でも、友達の前で覚えたての用語を呟いてカッコつけるの、キッズの頃にやりませんでしたか?僕はやります。今でも。脚本家もNetflixの"Formula 1: Drive to Survive"で聞きかじったクチでしょう。

“tell him to bring his own coffin.”

(ヤン)

字幕では「僕の圧勝」、吹替では「棺桶に入れてやる」。

これは英国のサッカーチームの風習から来るスラングで、降格したチームは自分のチームの選手(を模した人形)を棺に入れて埋葬するらしい。なんjの風習にもありそう。

つまり、英国人しか分からないサッカーネタですね。
自分が訳すとしたら「負ける気せぇへん地元やし」かな。
いやそれだとボロ負けするな。「33-4で勝つ」かな。

自分も走り慣れたホームコースでは負ける気せぇへん(負ける)のですが、彼のホームはルマンのようです。伏線ですね。

お父さんは元プロサッカー選手。
Wikipediaの経歴を見てみると、地元チームの昇格に貢献するもそこまで有名じゃない感じ。これは息子に頑張ってほしくなるよなあ。

そして口では父親にサッカーが好きじゃないと言いつつ、スラングにはサッカーが混じる息子。

涙が出、出ますよ。


レース開始。
みんなハンドルネームなのに、ヤンは本名。何?

…マジで何?絶対にミサイル(※)しないぞという決意の表れ?

あっ、友人のローリーもrory→rory_→rory_roryと拒否されて、それでもrory_rory_を選ぶという、本名に固執する狂人だった。
2人ともミサイルしてTwitter峠に晒されないことを祈る。

[※ オンラインレースで操作ミス、または故意で他車へ激突すること]

さてそのころ、ニッサン本社では「GTアカデミー」の企画プレゼンが行われていました。転職されたんですか島先生。

プレゼン動画に日産GT-RではなくホンダNSXを使い、経営陣の前で自分のキャリア最初の仕事に不満を述べる傲岸不遜なこの男、本当に企画を通す気があるのだろうか。会社組織からしたらローンの回収も大切な仕事なのですが、この映画、以後も職業差別はガンガン出てくるのでこのくらいで驚いてはいけません。

日本企業の役員は英語なぞ理解しないだろう?というねっとりとした描写。映画のニッサンはともかく現実の日産は外資系グローバル企業なので、このくらいのイギリス英語は解すると思うのですが…同時通訳の人も意訳しすぎて仕事放棄レベル。熱いプレゼンが全然伝わってなくて可哀想。

【実名の人物は劇中2名だけ】


アカデミー発起人の名前が違います。

映画のエンドクレジットには、ヤン選手と並んで「共同プロデューサー」名義でその本名が載っているのですが、本人が望まなかったか、あるいは彼の名前が劇中に出ることを快く思わない人がいたのかもしれません。
愛称は同じになるよう寄せてありますが、まあ、いろいろとありましたからね…ブラックなヒストリーが…

というよりもこの先、グランツーリスモのプロデューサー・山内一典氏とヤン選手(+ご家族)以外に実名の人物は出てきません。実名が使えないレベルの実話度、と邪推することもできるでしょう。

また、名前といえばこの映画のエンドクレジットに日産の名前はありません。コナンくんも「妙だな…」と言っています。

「このゲームの熱狂的ファンは全世界で8000万人」

(ダニー)

PUBGでも同接300万人なので脅威のビッグタイトルですが、もちろんそんなことはなくこれは初代からの累計販売本数です。初代からプレイしている俺を7人分に水増しするなダニー。グランツーリスモ5の2011年時点だと世界累計6000万本。現実では2022年後半に世界累計9000万本に達しているので、ここの脚本が書かれたのは2022年前半と思われます。このあたり正確にしないと両方の厄介オタクが怒るから撮り直してくれオーランド。

なお、グランツーリスモ7の日本での発売本数は現状30万本くらいです。

そのうち何人が「熱狂的ファン」なのかって?あんなに手に入りにくかったプレステ5を買ってまでプレイしてるんだから、全員が熱狂的ファンに決まってるでしょうが。私はGT7を続けるよ!

まあ、同接とか売上本数なんてインターネットの排泄物集積所にいる一部の人以外にはどうでもいいのですが、マーケティングは何も知らない一般消費者に向けて行うものであって、大企業のプレゼンで吹かすと後がやばいと思うなダニー。現実のダニーも日本の日産からしたら実質詐欺師みたいなものだったかもしれないけど。


プレゼン終わり。

謎の日本語パネルが置いてある架空のニッサン本社エントランス。狭い。現実の日産本社エントランスは下請けから違法に吸い上げた上納金のおかげでもっと広大です。横浜に有名俳優が来たら人だかり大変だからね。仕方ないね。右端の赤い車(日産200SX)のバンパー形状やウィンカーの位置から推測するに、撮影はヨーロッパのどこかでしょう。

キャリーバッグのコロコロの使い方を知らない男ダニー、ニッサンの社員から言葉を投げかけられます。

「本気で信じていますか?ゲーマーがレースで走れると」

(ニッサン社員)

ただ、現実では…アカデミー発起人 ダレン・コックス氏の提案は突拍子もないものではなく、ある意味で当然の仮説でした。なぜなら2008年の時点で、プロレーサーであってもオンではチーム所有の本格的な業務用シミュレーターで訓練し、オフでは自宅のグランツーリスモで遊んでいたからです。

ですから

「ゲームが上手いやつの中から、現実でも使えるやつを探そう」

これはかなり現実的な仮説で、だからこそ日産もプロジェクトにGoサインを出したと言えます。また、別記事で後述しますが、プロアマ混合クラスの発展により未経験者を有名レースで「優勝」させるルートが確立したことも大きかったと思われます。

そもそも、これは世間の耳目を集めるための「マーケティング」であり、当時20歳〜30歳だったゲーマー世代≒潜在的購買層に対する「アピール」であるという事実も忘れてはいけないでしょう。本当に速いレーサーが欲しければ、海のものとも山のものともつかないプロジェクトに大金を投じるより、そのお金で既に結果を出しているレーサーと契約すればよいのです。

つまり、言い方を悪くすれば

「日産はゲーマーの多い若年層に広告をリーチさせたかったので」
「ゲーマーという畑に金を投じて、レーサーを輩出する広告企画をやった」

ということになります。

私たちのようなレースゲーマー(多くが現実のモータースポーツのファンでもあり、人によっては競技者でもあります)たちの当時の認識も、まあいけるだろうという感じでした。

映画ではまるで幼い頃から大金をかけてトレーニングしないと参加権がないかのように言及されているモータースポーツですが、こちらとしては19歳まで自転車競技やってた佐藤琢磨選手とか、17歳までテニスやってたロバート・ドーンボス選手とかがキャリアの初期からいきなり速かったのを見ています。

また、F1やインディカーというトップカテゴリーまで登りつめた彼らほどではなくても、30歳を越えてからレースに参戦して中堅カテゴリーで表彰台に乗る人は、ここに挙げきれないくらい存在します。極端な例かもしれませんが、後ほど出てくる2013年のルマンでLMP2クラス6位の車を運転していたのは、1951年生まれ:45歳のときにレースを始めて62歳でルマン初参戦:現在までに計6回参戦というファンキーな投資家の爺さんです。

であれば、ハンコンでレースゲームしていた身体健康な若者、しかも大勢の参加者から選ばれたトップエリートにさらにプロトレーニングまで施したら、そりゃ速くならない理由がないでしょう?という。ドライビングのセンスがあってもフィジカルの素質がないメンバーはGTアカデミーの時点で脱落させればいいし、実際にそうなっているわけですから。

もちろん界隈でも、絶対に失敗するとか夢物語だとか、危険すぎるとかそういう声はなく「ああ、次はそういう企画を始めるんだな」くらいの認識でした。お金がなくて夢を諦めるレーサーが多くいるというのもよく知られた現実でしたから、開始時はレース業界とゲーム業界、どちらの世界にもこの活動は好意的に受け止められていたと思います。モタスポ用語で言うところの”Let's wait and see.(様子を見てみよう)”のスタンスです。

また、たとえベテランのレーサーであっても、いざ覚悟を決めて前のマシンを抜き、後ろのマシンに抜かれないようにする戦い、つまり対人戦の「かけひき」には弱い人もいました。

マシンの挙動とコースはお金と時間があればいくらでも練習ができますが、抜きつ抜かれつの真剣勝負、いわゆる”A Question of Honour”でどう相手を上回るか。そのセンスはレース本番でしか磨かれません。

そのキャリアの中で本当の真剣勝負をしてこなかったレーサーは、たとえ年を食っていても、いざ勝負を仕掛けられるとルーキー同然。そんな時代もあったそうです。


もちろん、グランツーリスモであればいくらでも気軽に対人戦の訓練ができます。意地を張りあってクラッシュしても怪我はしないし、マシンを壊して大金がかかることもありません。後ほどヤンが乗る”GT-R GT3”は、新車でざっくり6000万円くらいです。

つまり、対人戦のトップゲーマーは「レースの直感」という教えにくい(教えるのに実戦経験がいる)要素で既にトップレベルにいることが確定しているわけで、ウッチャンナンチャンをルマンに出場させるよりはずっと実現性の高い企画だと思います。年齢がバレそうですねこの発言。

映画なのであっさり承認される計画。
史実では提案から承認まで2年かかってるそうです。

オーランド・ブルームがションベン横丁思い出横丁で一杯ひっかける貴重な飲酒シーン。ロケ地は「牛タンいろ葉」の前です。
そうか、それなら撮影後は信濃町に寄って帰ったんでしょうね。

出てくる敵チーム、CAPA。
そこに勤めるおっさん登場。

ウォークマン聴きながら仕事しないでクレメンス…
「マシン通りまーす!」とか「機関始動!」が聞こえんやんけ。
「ジャッキ降ろしまーす」におっさんが返事しなかったら現場猫やぞ。

案の定、足を蹴られるまで気がつかないおっさん。
ジャックとウォルターどっちで呼べばいいか分からないので、とりあえずこの文章では以下「おっさん」で統一します。

チームの人の英語、だいぶ訛ってるなあ。ドイツ系?

百式みたいなランボルギーニだぁ…

しかし金持ちチーム=金ピカは短絡的すぎません??
この方向性が天元突破するとLEDでピカピカさせ始めるのかもしれない。
キッズな僕も、アカツキより七色キラキラ怪光線なストフリが好き。

メインスポンサーはモエ・エ・シャンドン。
現実世界だと禁酒の国でレースする関係かマシン本体にはお酒の広告がなかったりしますね。

このCAPAなるチームは現実には存在しないというか、存在してたまるかなんですが、チームの壁に貼ってあるSquadra Corse(スクアドラ・コルセ)はランボルギーニのモータースポーツ部門として実在します。

この映画じゃどう考えても逆宣伝だと思うんだけど、モエ・エ・シャンドンとランボルギーニはそれでいいのか。

「チーフ・エンジニアなんて15年もやってない」

(ジャック)

ダニー?君が探しているのはチーフ・エンジニアなの?
GTアカデミーを立ち上げる必要があって、ルマンを走った経験を生かしてほしいなら、提案すべきポストはアントレプレナーかトレーナー、メンター、アドバイザーでは?

映画では省略されているんですが、たぶんハードウェア的なことも含めて全てを統括する「チーフ・エンジニア」ではなく、マシンなどから送られてくるデータ、いわゆるテレメトリーを読んで状況を判断し、レーサー含めた各部署に指示を出す「チーフ・レースエンジニア(トラックエンジニア)」を探しているんだと思います。

ただ、この先のおっさんはレースエンジニアらしい仕事を一切しないというか、野球でいうバックネット裏アドバイスおじさんくらいの指示しかしてくれないので「レースエンジニアって、どういうおしごと?」と思った人は下の記事をお読みください。


しかし、いまが2023年だとしたら15年前の2008年なんてテレメトリーシステム進歩期で、それこそ日進月歩の"テクニカル・エクスタシー"だったはずです。そんな時代におっさんはMP3プレイヤーも使えないITスキルでどうやってレースエンジニアやってたんだ、と突っ込んではいけない。だからクビになったとか、そういうリアルなことも考えてはいけない。

というか15年も現場から離れてたら間違いなく浦島太郎だし、どうせGT-Rに乗せるならニスモ(後述)から誰か出向してもらったほうがいい気が…

15年前はチーフ・レースエンジニアで、いまは自転車操業の自転車屋…もといゴールデンなブラック企業の整備士で、かつてはルマンを走った男らしきおっさん。ダニーの提案を一度は断る。

場面は変わってヤンの家。

レンズ豆のサラダに文句を言う、マーデンボロー弟コビー。
まずそう(直球)。だってイギリス料理だもんなあ…

ちなみに私は「妙に煮汁を捨てたがるイギリス人の友人」をこの目で見たことがあります。煮汁あった!捨てなきゃ!みたいなノリで捨てます。妻が慌てて止めていた。最高にイギリス人な仕草すぎて、未だに家で煮汁が出るたびに彼が話題になります。

ヤンが大学を中退してゲームばかりなのに対して、弟はどうやら父の教えどおりサッカー選手を目指しているっぽい。

プロアスリートになったら毎晩ステーキを食べに行くと宣言する、プロアスリート精神に欠ける弟。
ごちそうのセンスがセカンドインパクト世代。ついでにさらっとウエイターに職業差別。

ゾクゾクしますね…!この濃密な英国味(あじ)…!

大学に戻ってモータースポーツ工学はどう?と提案してくれる美人のお母さん。
女優さんは元スパイス・ガールズのメンバー、ジェリ・ハリウェル=ホーナー。F1レッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表の奥様です。
金持ちがなんだ、若者にチャンスを、という映画で、まさかの縁故採用…

いやね?縁故採用としか考えられないくらい演技が下手なんですよ本当に!
隣にいるのジャイモン・フンスーだぜ!?

でも、現実のヤン選手によると本当のお母さんに激似らしい。
リアルお母さんのほうが演技も上手だったんじゃないか説。

いい人でしょ、ヤン選手。笑顔が素敵なナイスガイ。
またSuper GTで走ってほしいなあ。

映画に戻りましょう。

「大学は車両運動の研究だけ。運転するわけじゃないんだ」

(ヤン)

そうでもないぞ(そうでもない)。

だいたい、モータースポーツ工学専門の学科があるだけでも日本よりだいぶ恵まれてるというね。英国はモータースポーツ工学のメッカなので、この映画を見てレーシングカーを設計したくなった人はぜひ英国への留学をおすすめします。

「”好きなことを仕事にしろ”って言ったじゃないか!」
「そうは言ったが現実を見ろ!レーシングカーがいくらすると思ってるんだ!」

(ヤン / ヤンの父)

どこの家庭でもありそうな、現実味のある会話。
身につまされすぎて、胃がキリキリしますね。
ここは間違いなく、100%実話だと思う…

ただ、現実のヤン選手は、

【大学中退ではなく入学前】


いわゆる「ギャップイヤー」期間にGTアカデミーに参加しています。

英語圏に特有の「ギャップイヤー」ですが、これは後期中等教育を7月に卒業した学生が9月に大学に入るまでに留学・インターンシップ・ボランティアなどの社会体験を積む、いわゆるモラトリアム期間です。大学入学まで2ヶ月〜1年2ヶ月ほどの、かんたんに言うと社会公認の自分探し期間。

ギャップイヤー、ちょっと聞くと点数至上主義の学歴社会より進んだすばらしい制度に思えるのですが、実際には

・富裕層の子は親のお金で社会福祉ビジネスを起業して世界を巡りながらキラキラボランティア活動。親は子供のキャリア形成ついでに節税
・中流層の子は親元を出る金もなくニート。たいていネトゲ廃人化
・貧困層の子は学費ローンの繰上げ返済のために終日バイト

という、これなら学歴社会のほうが公平では?というクソ習慣となり果てています。親は心配かもしれませんが、グランツーリスモでもしてたほうがマシですね。お金もかからないし。

(なお、カートレースの経験がどの程度か、大学中退か入学前か、などのヤン選手の初期キャリアについては記事によって内容がそれぞれ矛盾するため断定ができません。ヤン選手本人の言も二転三転しているのであまり触れてはいけないのかもしれません。この記事では主に gran-turismo.com/jp/academy/ の記載を参考にしています)

一方のチームCAPAは高級レストランでお食事。
BGMはショパンの「別れのワルツ」。

何かを…予感させますね?別れとか。

CAPAのエースは金満チームオーナーの息子、ニコラスくん。
昨シーズンは奮わなかったようで、今シーズンにかける意気込みは並並ならぬものがあります。

超お金持ちでモータースポーツ好きの親がすべて自前で揃えてチームを運営し、息子をレーサーにするパターンですね。規模の差こそあれ現実でも珍しくありません。勝つも負けるも自己満足の世界ですから、スポンサー関係なく自由にやれます。

まあ、親というスポンサーに愛想を尽かされる子もいますが…

「スタッフに必要なのは努力と才能。俺と同じレベルのな。
レースに身を捧げられないやつは帰れ!」

(ニコラス)

しかし、ニコラスくんのお怒りもごもっともです。
だってこっちは自分の(実家の)お金を払ってるんですから。
たぶん少なくない額です。スタッフにはそれ相応の努力が求められます。ここの食事代だってそれなりの金額でしょう。

メカニックとして雇ったおっさんが運転についてあれこれ言ってくるとか、それを聞いてくれないからってブチ切れてシーズン開始直前に突然退職するとか、ありえないですよね。

おっさん、ブチ切れてスピード退職。

なお、これは映画の本筋とは関係ないですが、悪役にわざとイギリス英語を使わせなかったり、ドイツ系とロシア系の俳優を積極的に使うというのは、たいへんに英国的ですね。後のシーンではアウディに乗って汚いドイツ語を叫ぶ典型的悪役や、日本のシーンでわざとらしい"Engrish"も出てきますが、必要でしたかねこれ。私の本当に嫌いな英国面です。

GTアカデミーの選考に選ばれたヤン、自宅で練習中。

現実には「きみ いいタイムしてるね GTアカデミーに はいらないかい?」なんてスカウト方式ではなく、自分から積極的に応募する必要がありました。あとダニー、ここだけ突然ヒゲ伸びてたね。アパラチア山脈にでも篭ってクソ映画でも撮ってたのかな。

「他のドライバーはラインに沿って走る」
「もしラインから外れて走ったらどうなる?」

(ヤン)

人生の話ですね。
まだ人生も序盤ですから、たまには引かれたラインから外れて走ってもいいかもしれません。

レーシングドライバーのキャリア的に言えば、19歳でこれまで現実のレースをしたことがなく、ゲームだけをしているというのはかなり異例…というわけでもないのは前述のとおりですが、2023年に全22戦で19戦優勝した現F1王者マックス・フェルスタッペン選手は、4歳でそのレーサーキャリアをスタートさせています。

外れるんじゃねえ!これから!乗せていくんだよ!
お前が!自分を!人生のレコードラインに!

ですが人生にラインが引いてあるというか、プレステ買ってもらえて大学行かせてもらえて、中退してももう1回戻っていいよ、と親に言ってもらえるのは恵まれた環境です。オフロードの荒野に放り出されて徒歩で進めと言われたり、1本しかないラインを外れてスピンアウトしてクラッシュ、そのまま放置の人もいるわけですから。

え?現実のサーキットの話ですか?
遅くなります。以上。

野球で例えると「バットの芯を外して打つとどうなるか」レベルの話と言えば分かっていただけますでしょうか。

ラインを外れて走ると物理的にどうなるかについては、長くなったので別のnoteにまとめてあります。
そんな基本のキは読まなくても知っている、というかたはこのままどうぞ。

ちなみに現実のグランツーリスモでも映画のように路面に推奨走行ラインを表示させることができますが、これがまあ適当すぎて役に立たないので、中級者以上は基本的に消して走ります。そもそもグランツーリスモでも現実でも、車によってラインは違ってくるので。

橋の下での飲酒パーティーにヤンを誘う、弟コビー。

イギリスの(親の同伴なしでの)飲酒可能年齢は18歳。
兄ヤンが19歳なので、うーん、年子でない限り違法ですね。

最初こそ断ったものの、気になる女の子が来ると聞いて目の色が変わるヤン。こいつのこういうところ、現実感があってむしろ好きになってきた。
逆に弟コビー、言動にも行動にもまったく好感が持てないので、存在自体が脚色であってほしい。

なお、ヤン選手によると実際にサッカー好きの弟は存在するものの、もちろん性格や進路、関係性は脚色とのこと。映画でこんな人物にされた現実の弟氏が不憫。兄貴と映画を観ながら「俺が常にジャージ着てるRoadmanヤンキーに改変されてて草w」なんて笑っててくれるといいんですが。そもそもヤン選手の性格も、こんなイキリキッズからはだいぶ遠いとのこと。実話ェ…

結局2人で行くことになり、親父の車を勝手に借りるマーデンボロー兄弟。ハンコンの前に車買えと思ってしまうのは自分だけでしょうか。

お父さんの車は真っ赤なVWコラード。

2ドアで小さいけれどリアシートがある、コンパクトでスポーティだけど安価な車。
小さい子供が2人いるのにスポーツカーを諦められない、そんなお父さんが買う車種です。

35年前の車だから、お父さんは若い頃に10年落ちくらいで買って、それでまだ小さかった兄弟2人を後部座席に乗せてドライブしたんだろうなあ。
子供が大きくなっても乗っているということは、お父さんは教育費のせいで新車に買い換えるお金もないし、愛着があるから大事にしてるんだろうなあ。

ヤン、家の前でエンジンかけるとバレるので、表まで押してから始動。

そして未成年飲酒パーティー。

案の定、警察とカーチェイスして壊して帰ってくる。

クソガキがよぉ!
丹精込めた父さん母さんの畑から採れた、特大のクソがお前らだよ!
グランツーリスモ   G T   の映画でグランドセフトオート   G T A   やってんじゃないよ!

許してくれる父。
聖人か?俺ならハンコンをヤフオクebay.co.ukで売り飛ばして車の修理費にするね。

でもここぞとばかりに、ゲームはゲームだと理解して真面目に働くか、大学に戻れと言ってくる父。そして聞かずに選考大会へ行ってしまうヤン。

クソガキがよぉ!
プレステ本体も売り飛ばしちまえよ親父ィ!

【世界一正確なシミュレーター?】


ところで、ヤンは事あるごとに「グランツーリスモはゲームじゃない。レーシングシミュレーターだ」と言っていました。

(現実とは遠い)ゲームだと周囲は思っていて、しかし本人は
(現実と近い)シミュレーターだと思っている。

そして実際には超正確なシミュレーターだったんだよ!
だってヤンはレーサーになれたんだから!という理屈です。

ただ、そもそもレーサーは「同じ操作をすれば現実でも勝てる」と考えてゲームやシミュレーターをやっていたわけではありません。

2011年当時は特にそうですが、ゲームの挙動と現実の車両挙動にはかなりの乖離があり、車の限界を探ってドライビングするのが仕事のレーサーにとって、その乖離は致命的なものでした。

乖離の理由には家庭用ゲーム機の演算能力の限界もありますが、いくらリアルを追求したと宣伝するゲームでも、本当にリアルにすると挙動がシビアすぎて誰もまともに遊べない、という事情もあります。世間の大多数はハンコンを持っていないし、市販車はともかく運動性と操作が複雑極まったレーシングカーの運転はそう容易いものではありません。

映画ではまさにゲームでもプレイするような気軽さで自宅からルマンを走っていましたし、それがグランツーリスモの良いところです。

ですが、あれがもし"マクラーレンF1"の挙動を完全再現したシミュレーターであれば、ヤンはパワステなしの前輪から襲ってくる強烈な反力バックトルクで手を怪我しないようレーシンググローブをする必要がありますし、岩のように固いブレーキペダルを100kgfの踏力で蹴り飛ばすためにレーシングブーツを履く必要があります。

これが実際のサーキットにおけるマクラーレンF1の運転です。
市販車の2倍の摩擦係数を持つハイグリップタイヤと、そこに直結の激重ステアリングを回すための姿勢からして、まずヤンのそれとは異なるのが分かると思います。


レースゲームがリアルに近づいていくというのは、良いことのようで実際にはこうした苦行に近づいていくことと同義です。eSportsやGTアカデミー、または現実のトップレーサーといった「上澄みのさらに上澄み」だけを眺めていると誤解しがちですが、ゲームを楽しむ人の大多数は運転が上手ではない普通の人です。そういった普通の人が普通に遊べるように、ゲームの挙動は意図的に調整されているのです。

ただ、当時のシミュレーターやグランツーリスモでも、カーブの曲率やそこで見える風景、路面の傾き、縁石の高さはかなり正確でした。そのため少なくともそうしたバーチャルで予習しておけば、ぶっつけ本番よりはずっとスムーズにコースに慣れることができます。

資金の乏しい若いレーサーにとって、レース本番での練習時間は極めて貴重。ですから、現実の本番で少しでも時間を有意義に使うためにやれることは全てやっておくべきで、その1つがゲームやシムだ…というのが、2011年当時の認識だったと思います。

また、現在では万人が遊びやすい「ゲーム」とはまた別に、挙動の再現に重点を置いた「シミュレーター(シム)」というジャンルも発達し、近年では個人レベルで導入できるものも普及してきました。

「じゃあ、家庭用ではグランツーリスモが世界一正確なシムなんでしょ?」

そう思われるかもしれません。
この映画を見た方なら特にそう思われると思います。

ただ、なにをもって正確とするかには議論がありますが

「操作に対する画面内の挙動が実車と近いか」

については、残念ながら首を横に振るほかありません。

いまやグランツーリスモの代名詞となった「リアルドライビングシミュレーター」は、あくまでも27年前、初代グランツーリスモが他ゲームとの差別化のために使用した広告コピーです。車両挙動の再現に特化した「レースシム」というジャンルが確立した現在では、グランツーリスモの家庭用市場での分類は相対的に「ゲーム」寄りになりつつあります。これはグランツーリスモを貶めているわけではなく、いま相対的にどの位置にあるか、ということです。

ですから現実のゲーマーやシムレーサーから見ても、映画のヤン(2023)は「レーサー志望なのにシムではなくグランツーリスモで遊んでいる人」に見えてしまうという、皮肉なことになっています。家庭用のシム環境がそこまで発達・普及していなかったヤン選手(2011)なら不自然ではないのですが…

そもそも、どれがゲームで、どれがシミュレーターなのかの基準なんて存在しないのです。その2つは目的の違いであって、性能の違いではありません。

もし自分が知らないサーキットをいきなり走らされるとして、手元にグランツーリスモしかなかったらそれで練習するでしょう。
でもPCシムがあったらそっちにします。

もし今あるハンコンがPCシムに対応していなくて、グランツーリスモでしか動かなかったら?
グランツーリスモにすると思います。

もし同じコース・同じ車・同じタイヤで走っている車載動画がYouTubeにアップロードされていたら?
個人的な意見では、それの視聴とイメトレが何より有用かもしれません。

実際にはそんなものだと思います。
「世界一のレーシングシミュレーター」なんてこの世に存在しない。
そのときの予算と状況に合わせた最適なシミュレーターが存在するだけです。

シミュレーションで大事なことは、いまここにあるシムのどの部分が現実と異なり、どの部分が現実に役立つかを理解し活用することです。
逆にそれを理解していなければ、どんなにリアルなシムを使っても現実とのわずかな差異に苦しむことになるでしょう。

ですから、無理に世界一なんてつけなくても

「当時のヤン(選手)には、グランツーリスモという家庭用ゲームがレーシングシミュレーターとして機能した」

それでいいと思うのです。

もしこの映画を見た人が「ゲームだから劣っている、シミュレーターだから優れている」という考えを持ったとしたら、それはとても残念なことです。映画として分かりやすく、そしてグランツーリスモという商品をプロモーションするために仕方がなかったのかもしれませんが、それはゲームにもシミュレーターにも、そして現実のレースにも理解が浅いと言わざるを得ません。

なお「ティーザーには存在したのに、北米版では『ゲームじゃない。レーシングシミュレーターだ』という台詞が理不尽にもカットされている」という怪情報が入ってきたのですが、こちとらクソゲーハンターからすまじゃないので北米版を買ってまで確かめるほどの気概がありません。べ↑ん↑ご↑し↑を→よ↓べ→されたんだろうか。


映画に戻りましょう。

オンライン選考会に遅れて到着するヤン。
実際には何週間かの競技期間のうちにレース(複数台で走行)ではなくタイムアタック(1台だけで走行)で好記録を出せばよかったので、自宅からの選考会参加だったそうです。

予選に参加できなかったのか、出走19台の19位からスタートです。
ここから10周で優勝しないとGTアカデミーに行けません。

この周20台抜け!ってやつですね。絶望的です。
ただでさえヨーロッパの強豪が集まっているわけですから、1台1台がそう楽には抜かせてくれません。ブロックをかわしながら10周すべてでスーパーラップを叩き出して、それでもまだ勝てるかどうか…

…なんてことはなく、回線落ちして止まってるんか?ってくらい敵が遅いのでサクサク抜けます。

特に3位を抜くときなんかストレートなのに100km/hくらいの速度差があったので

「もしかしてこれ燃料消費ありのレースで、相手は飛ばしすぎてガス欠したのかな?」

と思ってゲームの表示を見返したんですが、普通に燃料消費もタイヤ消耗もない設定のレースでした。たぶんイタチか何かが道路を横切ったんだと思います。それかチート。

そして何もないところで2位がスピン。落ち葉かバナナですね間違いない。

さあ最終ラップだ。前との差は!?

【最終ラップでトップと6秒差!?】


負けたなガハハ。
映画GT完。風呂入ってくる。

レースに詳しくない人に向けて野球で例えると、9回裏で60点差みたいな感じです。

いや負けるでしょ。
1位がPS VR2のVR酔いで嘔吐しない限り負ける。

1秒じゃなくて1/1000秒を争ってるんだぞ?
1周が7分のニュル北(後に出てくる)じゃないんだぞ?
1周が1分30秒しかないグッドウッド・サーキットだぞ?
いま限界で追いかけてるのに突然7%も早く走れたら、疑うべきは奇跡よりチートだろ?
さっき100km/hでギリギリ曲がれたカーブを、いきなり107km/hで曲がれたらおかしいだろ?

しかし勝つ。
1位が嘔吐したのかもしれない。
あるいはトゲゾーこうらでも刺さったか。

ちょろっと流れるMoon Over The Castle。
ぜんぜん感動しない。なぜならこいつはチーターだから。
ゲロとイタチで勝って面白いか?あ、これは別の漫画だった。


GTアカデミーの参加者に選ばれるヤン。
家に帰ってきて、父親とまた口論。

「チーターではなく人間として生きろ、ディビッド!」

(大塚周夫氏のめっちゃいい声)

そうだそうだ!ドライバーアシストの表示も初心者並みの最大設定だったのになぜか勝ててるし、絶対やってますよ、あなたの息子さん!

なんてことはなく、

「ゲームは本当のレースとは違う!レーサーはプロのアスリート、お前は…(体を鍛えていないナードじゃないか)」

(大塚明夫氏のめっちゃいい声)

元アスリートのお父さんらしい、真っ当な指摘です。

前述のとおり、レーサーは体力が求められます。市販車の何倍も重いブレーキを正確な踏力で床まで踏み、何倍も重いステアリングを何周にもわたって正確にコントロールし続けなければなりません。油圧か電動で軽くすりゃいいじゃないかと思うかもしれませんが、ブレーキやステアリングを軽くする=倍力装置で補助すると、極限状態での微妙なコントロールができずむしろ危険です。最近はパワステ・ABS・エアコンつきのレーシングカーも増えてはいますが。

それに対してヤン、お父さんが撮った写真を指して

「この日からレーサーになることだけを夢見てきた!」

(ヤン)

嘘つけ!さっき女の子と会うために身体中にデオドラント撒いて、親父の車でパーティー行っとったやんけ!

そして映るヤンの机。
机の上の本には”HUNT”の文字。

名作「ラッシュ/プライドと友情」のダブル主人公のひとり、ジェームズ・ハント選手の自伝ですね。
日本GPの直前に東京ヒルトンで33人のスチュワーデスと寝た男として有名です。映画でもヤってます。機内で。

これが”LAUDA”だったら、こいつの言葉も信用できたんだけどナ…

【親子関係は最初から良好】


なお、映画ではなかなか緊迫した親子関係が描かれていますが、現実のヤン選手によると、GTアカデミーに選ばれたことを告げたときのお父さんは笑っていたそうです。


あ〜…ヤン選手?
うん。それはね?うん。黙ってたほうが、うん。いいと思うな?
息子のやることに理解のあるお父さん、すっごく素敵。すっごく素敵、理想のパパ。だけど?うん。それは、黙ってたほうが、いい。

びっくりしてメレブみたいな口調になっちゃった。

ところでさっきからチートチートと言っていますが、GT7は今のところレースでのチートは確認されていません。安心してオンラインに参加してください。ミサイルは普通に居ます。


ここまでで「① オンライン選考会編」が終了。

次回からヤンは晴れて現実のGTアカデミーに参加し、挫折と困難を「あっ!ここグランツーリスモでやったところだ!」で乗りこえていきますん。

乞うご期待!


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