映画グランツーリスモ 解説③:レース登竜門編

いよいよヤンは現実のレースに参戦します。


参加するカテゴリーはたぶんFIA GT3。史実と違うらしいものの、自分もよく知らない。だってGT3って運営側の性能調整ありありの、ブランドイメージ向上のための出来レースらしいから興味なくて…。この記事はコタツで暖まりなら、酔った勢いで書かれています。この映画と同じくらい信じてはいけません。実のところどうなのかはコメントで教えてくれると嬉しいです。

なお、この「GT3」は2001年発売のグランツーリスモ3とは関係ありません。ここでいう「GT」とは、タイヤ剥き出しのいわゆるフォーミュラカーレース(F1・F2・F3…)とは異なる、高性能市販車と同じ形をしたグランドツーリングカーレース(GT1・GT2・GT3…)全般を指す言葉だと思ってください。

というかなんかアカデミー終わっていきなり参戦してて驚いたのですが、現実のヤン選手には参戦まで約8ヶ月の地道なトレーニング期間があったそうです。国際B級ライセンスもそのとき取得。そりゃそうだ。グランツーリスモでもレース参加の前にまずライセンス取得だし、初心者をいきなりランカーひしめくオン部屋に投げ込むな。まあ映画のヤンはフェードまで再現されているオーバーテクノロジーなグランツーリスモで訓練していたので、そんな修行は不要なのかも。

加入するチームはNISMO(ニスモ)。NIsSan MOtorsports International株式会社の略称です。自動車製造会社が所有するレーシングチーム、いわゆるワークスチームのなかでも大規模で、自社でレーシングカーの設計・開発・製造を行える、いわゆるコンストラクターでもあります。


逆に言うと、そうではないチームもあります。例えばチームCAPAはニコラスの父親という個人が所有する、いわゆるプライベーターチーム。車両も、ランボルギーニのレーシング部門であるスクアドラ・コルセが製造(改造)したものを自己資金で購入しています。東洋のつかない広島カープみたいなものですね。

ニスモは日産が設立して運営しているレーシングチームとはいえ、会社としては別会社です。オフィスも日産本社とは別の場所にあります。レーシングチームの運営と市販車量産とでは専門性も勤務体系もまったく異なりますから、100%子会社を作ってアウトソーシングしているわけですね。中日新聞社の社員さんがプロ野球やらないのと同じです。

なお、同じスモですが、グランツーリスモのスモとは無関係です。タイトルの由来については掘っていくと世界史の話まで突入してしまうので、Wikiをどうぞ。


ニスモは初代グランツーリスモからおなじみ…というより、自分も初代グランツーリスモで存在を知りました。モータースポーツファンには読売巨人軍くらいの知名度があるはずですが、知らない人からするとニッサンとは別系統で暗躍する謎の秘密結社に見えかねないらしいので、ここで解説しました。

ちなみに、実際にはチームニスモからの出走ではありません。映画のGT-R GT3も別チームから貸し出されたものです。


ダニーからヤンに「リミット」が提示されます。

「ヨーロッパシリーズを終えてドバイ戦までに1回でも4位以内に入り、
レーシングライセンスを取得すること」
「これがニッサンとのスポンサー契約の条件だ」

(ダニー)

ゲームと違い、現実は参戦するたびに莫大なお金がかかります。
アカデミーで選ばれたとはいえ、いつまでもリトライはさせてくれません。

「もう敵はゲーマーじゃない、プロのレーサーだ」
「お前は強さもスタミナも劣る。他のレーサーにとっては邪魔」
「ピットクルーにも失望される。特にメカニックには絶対、嫌われるだろう」

(ジャック)

あーあ、まったく、嫌味なおっさんだぜ!
アカデミーのときからそうだったけどさあ!

「だから、何かあったら俺に聞け。いいな?」

(ジャック)

お、おっさん…(トゥクン)

ところで「金持ちのガキを見返してやろうぜ!」って流れなんですが、自分たちがプライベートジェットで移動しているのでなんとも説得力がありません。チームの機材はトラックか貨物機か船便で運ぶので、このシャンパンサービスつき・スカスカなプライベートジェットは本当にダニーとおっさんとヤンだけを運んでいます。

せめてチームニスモの人間を乗せてあげましょうよ。たぶん英国のミルトンキーンズ(欧州ニスモの本拠地)からオーストリアまで陸路ですよ。クルーに嫌われるとしたらそういうところでは。

「ニッサンの金で金持ちのガキを見返してやろうぜ!」って言われてもな…

ただ、Ghone is goneする前は周囲の人間もこんな感じでイケイケだったんだろう、という妙なリアリティはある。もしかしてこのプライベートジェット、楽器ケースとか乗ってない?

いよいよ始まるレース。

あ、レッドブル・リンクだ。

…本当にレッドブル・リンクかな?

あー、これはレッドブル・リンクです。
安心してください!正真正銘のレッドブル・リンクです!信じて!
だってGT6とGT7に収録されてて、俺にも見覚えがあるから!
奥さん出演させたから使わせてもらえたなんてことないよね?

ここからヤンの挫折と栄光のレーサーキャリアが始まりますよ!

…出鼻をくじくようであれなんですが、史実のヤン選手のメジャー戦初戦はドバイ24時間耐久レースでSP2クラス3位です。つまり、いきなり表彰台に上がっています。

たぶん、ドバイ24時間耐久は1人で出場するスプリントレースではなく4人が交代で走ること、使用された車が既に終売のZ34だったこと、いきなりの3位は制作側が望む結果ではないこと、から改変されたのだと思います。

映画ではライセンスの条件も中途半端な「4位」ですし、クライマックスまでヤンを表彰台に上げたくないということでしょう。現実のヤン選手はルマン参戦までに優勝含めて複数回の表彰台に乗っていますので、まさかの逆経歴詐称


なお、ヤン選手を除いた3人のドライバーは、ルーカス・オルドネス選手(初代GTアカデミー勝者)、ジョーダン・トレッソン選手(同2010年勝者)、そしてブライアン・ハイトコッター選手(2011年北米エリア勝者)とGTアカデミーの先輩と同期で、つまり全員がシム出身レーサーなので改変しなくてもいいように思うのですが、よく考えたらヤンを1期生にした時点で彼らは歴史改変の闇に消える運命なのでした。目を覚ませ僕らの世界が何者かに侵略されてるぞ。

「レースでは俺が指示を出す」

(ジャック)

頼れるおっさん。
頼れるおっさん、いいよね。いい…

「いいかヤン、青のシグナルがついたらスタートだ」

(ジャック)

そこから教えんの!?!?
それはグランツーリスモで知ってるよ!?!?!?

メタ的に言えば視聴者に説明しています。
もしかして視聴者もそこから?!

なお、

「F1みたいに停止線からよーいドンでスタートじゃないの?車両間隔バラバラだし不公平じゃない?」

と思うかもしれませんが、緑色灯全点灯シグナルオールグリーンからの指示灯全消灯シグナルブラックアウトでのスタンディングスタートは、発進時にクラッチ操作をミスするとエンストして停止したままとなり後続車に危険が及びます。レーシングカーのクラッチ操作は非常にシビアで急発進には高度な技量を要求されるため、後述するハイアマチュアも混ざる耐久カテゴリーでは比較的安全なローリングスタートが用いられます。

あとは単純に停止線が足りないとか、耐久レースは複数人で十時間前後を走るためゴール時には数周以上の差がついていることが多く、スタート時の誤差0.1秒はあまり重要でないという側面もありますね。

え?
映画ではヤンはまるで1人で走ってる様子だったって?

ほら、よく見てください。
さっきグレージングしたブレーキでGT-Rを走らせてた命知らずのおっさん2号が、なんか知らんけどレーシングスーツ着たままピットに控えてるでしょ?

現実でもアマチュアはまずプロと組まないと出場できませんし、編集でカットされてるだけであのおっさん2号も走ってるんですよ、きっと。

というわけでレーススタート。

そしてさっそくのエンジントラブルで白煙を上げる、期待どおりにとっても俺たちなフェラーリ。

「車は爆発するもんだ!珍しくもないぞ!」

(ジャック)


「(史実と)全然違うじゃん!」

山内P「……」
未央「知ってるよね?F1はともかく、FIA GT3でフェラーリが火を吹いたことなんてないって!この待遇の差はなに?」
山内P「…ニスモは初代グランツーリスモからの常連様ですが、フェラーリはその10年後にようやく収録…当然の結果です…」
未央「もういいよ!私ティフォシ辞める!」

ティフォシ = フェラーリの厄介熱狂的ファン

現実には、現代のグランドツーリングカーは競技中のエンジントラブル自体が非常に稀です。競技規則でエンジン出力はどの車も同じになるよう規制されており、壊れるリスクを負ってまでギリギリ限界の高出力を絞り出す必要がないためです。

ヤン、フェラーリをかわしながらひとまず危なげない走り。
そして給油のためにピットイン。

ですが、ピットインは休憩タイムではありません。
次の走行に向けて集中力を切らさずテンションを高め、
発進時は交換したばかりのタイヤが滑りやすいので、慎重に──

──そこになぜか出てくるおっさん2号。窓を開けてひとこと。

「よお”noob”!!」
「ジョイスティックがあれば簡単だろうになあ!! HAHAHA」

(おっさん2号)

noob = 初心者

バンッ
(俺がキーボードを叩く音)

どうでもいいことわざわざ言ってレーサーの集中力切らしてんじゃないよ!!!!
緊張をほぐしてやろうと思ったのかもしれないが、最悪その一言でミスして死ぬんだぞ!?!?!?

ところでだいぶいい歳してるおっさん2号!!
”noob”なんてゲーマー用語、わざわざお家のインターネットで調べてきたの?!?!煽りの才能あるよ?!?!FPSやる?!?!?

もしかしておっさん2号、ゲーマーは煽られて強くなる 森なつめの漫画でやってた を勘違いしてない?!?!それもインターネットで見たの?!?!なんで現実をゲームの方に寄せようとしてくるの?!?!?


なお、レース中はアドレナリンがドバドバ出ているので、こんなことすると最悪ドライバーから裏拳で殴られます。やめましょうね。
FPSゲーマーが煽りまくるのは、リアルで殴られる心配がないからです。

おっさん1号「落ち着け!深呼吸しろ!平常心だ!

(おっさん1号)

たったいまおっさん2号から初心者煽りかまされたところだよ!!!!
バンバンバンバンバンバンバン
煽るか落ち着けるかどっちかにしてくれ!!!

案の定、アクセルを踏みすぎてホイールスピンしながら出ていくヤン。
なにこれ笑うところ?

おっさん2号の煽りでなにかを掴んだのか、ピットアウト後のヤンは目覚ましい走り。次々と前を抜いていきます。直線で。

エンジン出力は同じのはずなんですが…

チート? アーアーキコエナーイ

…まあなんであれ、予選順位と決勝順位がたいして変わらなかったり、ピット戦略で戦わずして相手をかわす、なんてことが珍しくもないモータースポーツの世界において、コース上での直接バトルによるポジションアップは本塁打に匹敵する大金星です。インを開けるな言われてるのに開けたままのマヌケなキャベツ野郎を直線で抜いただけとか、シフトアップしたのに加速するチートを使って直線でキャパを抜いただけとか言わないように。

というかこの映画、音は素晴らしいんですが映像が見合ってなくて、レース映画のはずなのに全員がパレードランみたいなマイルドスピードと距離を保って集団走行→アクセルを踏んだら主人公だけが急加速(それまで踏んでなかったの?なぜ?)という、大型連休中の片側1車線・たまに2車線の地方高速道路のほうがまだ緊張感がありそうな追越シーンをたびたび見せられ、そうでないシーンはCGかあからさまな早送りで落胆させられます。これだけの本物のレーシングカーを集めて、やることが直線でのゆずり合い安全運転ですか…

ただ、クラッシュ撮影用に製作する比較的安価なスタントカーではそもそもレース撮影に最低限必要なスピードと安全性がなく、しかし外部から借りてきた本物のレーシングカーは接近戦で壊すわけにもいかず、さりとて中途半端な速度での走行を想定していない(やると最悪壊れる)レーシングカーをコーナーで全開走行させられるスタントマンはそういない、というジレンマがあるのでしょう。「共同プロデューサー」が用意してくれた1台は特に、映画公開で箔をつけて売り抜けるという重大なミッションを抱えているでしょうし。

メイキングではよく見ると晴天なのに車両が本来のスリックタイヤ(温度管理がシビア。低速で走ると逆に危険)ではなくレインタイヤ(温度管理が楽。ただし速度は出ない)を履いており、その点からも本物のレーシングカーを低速で撮影しないといけなかった撮影現場の苦労が伺えます。

ですが、そもそも制作側には全開で走らせる気がなかったのかもしれません。コーナーでの限界ギリギリ、お互いタイヤから白煙を上げながらのオーバーテイクなんて、それを実行できるスタントマンも、クラッシュのリスクを許容するだけの予算も、そしてなによりも必要性が足りない。それが見たけりゃ映画じゃなくて本物のレースを見ろ。一般人はとりあえずバカでかい音を出して追い抜きしたら勝手に盛り上がってくれるし、オタク以外は求めてないんですそんなこだわった画は。え?アライブフーン?知らない子ですね…

そんなこんなで4位まで順位を上げたヤン。

しかし最後の最後でキャパに追突されて、残念ながら最下位。見た感じアクセル踏み込んでフロントカウルが吹っ飛びそうな勢いで追突しているのですが、キャパのほうはなぜか無傷でフィニッシュ。このランボルギーニ、ヤタノカガミと思わせて実はフェイズシフト装甲搭載型のようです。

ここでちょっと、追突する直前のニコラスくんの台詞を見てみましょう。

"I'm gonna nerf you, gamer."

(ニコラス)

nerf = 運営による下方修正

吹替は「はじき飛ばしてやるぞ ゲーマー」
字幕は「邪魔だ ゲーマー」

…訳しましょうや。
自分が訳すとしたら「『修正』だ ゲーマー」かなあ。

これ、海外のゲーマーに「映画の歴史上、最も恥ずかしい台詞」と紹介されてちょっとしたミームになっていました。あとは後ほどおっさんが無線で叫ぶ"U mad, bro?"(拙訳:顔真っ赤だなw)も。

ゲーマーでない人にピンとくるかは分からないのですが、"nerf"も"U mad bro"も基本的にFPSゲーマーの用語です。レースゲーマーではなく。

なので、

「レースゲーム初心者のおじさんがチャットに乱入してきて、インターネットのどこかで覚えてきた場違いなゲーマー用語(しかも用法も間違ってる)で若者相手にイキリ散らかしている」

みたいな極めて痛々しい共感性羞恥があります。つれぇわ。

個人的には「いまどきのゲーマーキッズとなんとか打ち解けようと、おっさん1号とおっさん2号が夜な夜な必死でゲーマー用語を勉強した結果」という可愛らしい妄想が捗るのでそこは歓迎なのですが、ニコラスお前はダメだ。半年ROMってろ。

というかここに限らずこの映画、ゲーマーにとって絶対に触れてはいけないファクター「彼女(3次元)」を気軽にお出ししてきたり、現代のゲームとゲーマーに対する解像度がファミコン以下というか、ほんとは脚本も監督もゲーマーのことよく知らずに映画作ってるし、なんなら嫌いでしょ?ゲーム<<<越えられない壁<<<リアルだと思ってるでしょ?って感じなんですよね。ゲームにお出してきていいのは5ZIGENのホイールだけ。

作中に多用されている若者言葉も、現代の"英国"ティーンエイジャーが絶対に使わないであろう90年代の"米国"スラングとかでワケワカメ。超マジバビる。MK5。あまりに酷いので調べたところ脚本家の年齢は43歳と51歳だそうですが、申し訳ないけどその歳のおじさんが違和感なく書ける脚本は「ピクセル」までなんよ…自分だって「レディ・プレイヤー1」の小ネタ、分からなくて真顔になるやつ多かったもの…

とりあえずBoomerは若者に追いつくためにYahoo!でゲーマー用語を検索するなんて無茶はせず、スポーツウォークマンでカセットテープ聞きながら「スピードレース デラックス」の思い出話でもしててほしい。そっちの話の方が絶対に面白いから。

ところで"Amateur"を「アマちゃん」と訳すそのセンスも、とっても『NATSUKO』を感じますね。

ナツコはまだ俺達の中に生きてるぞ!こいつはコトだ!

レース終了。

結果は最下位でしたが、チート級の素晴らしいオーバーテイクを次々と見せてくれたヤン。そもそも最後のスピンもヤンのミスではないですし、これは今後が期待できるルーキーですよ!

そこに流れてくる実況。

「マーデンボローは27位。明らかに実力不足…」

(実況)



……は?

いや、現実のレースを初めて走るルーキーがいきなり予選7位の時点でとんでもない偉業ですが、本戦でそこからさらに3つもポジションアップしたんですが?

こんなルーキー、もし現実に出てきたらそれこそ第2のルイスハミルトンとかいう見出しでトップニュースですよ?
ルーカス選手に続けてルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞は確実ですが、この実況は本当に同じレースを見ていたんですか?

というか実況、さっき同じ口で"Great job!"って言ってましたよね?
いくらなんでも手のひら返しが早すぎません?

気まずいムードが流れるピット。

いや
いや
いや?

おっさんもダニーもニッサン役員もなんでがっかりしてるんです?
いま目の前でスーパールーキーが爆誕したんですよ?

育成なんてなくて結果がすべてだってこと?
育成が下手なのはチーム中日だけで十分ですよ?
というかこの逸材ならほっといてもいずれ表彰台乗りますよ?
もしかしてみんな、ヤンが勝つほうに1万ドルくらい賭けてたの?だとしたらゴメン。

そうだ!おっさんはレースエンジニアだし、テレメトリーを見ればヤンのミスじゃないって分かりますよね?
ついでにニコラスの舵角とアクセルペダル踏み込み量も調べれば、故意に当てたってはっきり分かりますよね?

なのにどうして運営に抗議してくれないんです?
おっさんはヤンの味方じゃなかったんですか?

おっさん?
ねえおっさん?
おっさーーーーーーん!!!!

ハアー…
(クソデカため息)

この映画、あと1時間あるのか…
RRRなら一瞬なんだけど…

もうあとは同じようなレースが続きますし、巻きでいきましょう巻きで。映画も巻いてるし。あと日本政府から税金もらってるならスズカ来てくれよスズカ。どうせお金だけもらってレッドブルリンクあたりを鈴鹿と言い張るんでしょうけど、鈴鹿も同じ右回りだし、レッドブルのモニュメントに"松阪牛WA-GYU"ってキャプションつければ誰も気がつきませんて。

ところで、以後のレースもヤンはほぼ毎回「鼻の差」の勝利を収めますが、現実ではこんな僅差のレースは稀です。

例えば後ほど参戦するルマン24時間では、ヤン選手はゴール時点で4位。5位とは1周差、3位とは3周遅れでした。1周差ってけっこうあるじゃんと思うかもしれませんが、前述のとおり24時間も走ってるとわずかなラップタイム差が累積して20周遅れとかが普通にあるので、1周差でもけっこう僅差なんですよね。

劇中では数時間は走っているであろうレース後半なのに、スピンだけで4位から27位まで落ちていました。1周目ならともかく、後半ではまずありえない描写です。野球で例えると、福留がエラーしただけで一挙4点が入って逆転という感じです。

でも、これ野球映画じゃなくてレース映画なんですよね。悲しいことに、野球やサッカーと違ってカーレースなんてルールすら誰も知らないので、映画のリアリティラインはいくらでも下げられます。やりたい放題です。エンタメは面白くてナンボ。じゃんじゃんやりましょう。

えっ?
実話要素どこって?

【目次に困るくらいには全編ファンタジー】


ほんとこのチャプター、実話どころか実話を元にした箇所すら見つけるのが難しかった。ですから目次もありません。ファンタジーだと思って楽しんでください。この先もルマンで最終リザルト3位になったという結果以外はファンタジーですから、チョコボのポップコーンバケツを抱えながら、ファルシのルシがコクーンな気持ちで観ると精神衛生的に良いと思います。

でも、感動の実話と宣伝しておきながら「ルーキーとおっさんのバディが事故で挫折して復活」という、映画のクリティカルポイントまでファンタジーなのは正直どうかと思います。実話だ(と宣伝されていた)から観に行ったし感動したんだ、という人が内実を知ったら、この映画のプロモーションは優良誤認に思えるのではないでしょうか。

ポップコーンムービーはポップコーンをおいしく食べれることに徹するべきであって、なにも知らない人に「実話です」と言って売りつけるべきではないと思います。


おっ、次は同じドイツのホッケンハイムリンクですね。
ここグランツーリスモには収録されたことがないから、ヤンは苦労するだろうな〜

と思ったらそんな描写は何もなく、そしてピットの看板にはでかでかと

”Circuit de Barcelona / Catalunya”

の文字とコース図が。

「 第 9 地 区 」



…たぶん編集の段階でホッケンハイムにピットのシーン入れようと思いついたけど、使える映像がカタロニア・サーキットのつもりで撮ったこれしか残ってなかったとか、そういう事情でしょう。1秒くらいのシーンやしバレへんバレへん。笑ってはいけないホッケンハイム24時なのかこれ。

ヨーロッパでのさえないレースが続くヤン。
とうとうリミットのドバイ戦になってしまいました。

この1戦にはレーシングライセンスの発行とニッサンのスポンサーシップ契約がかかっています。負けられません。

「シムレーサーは危険だね。現実のドライバーのレースを危険に晒してる」
「表彰台はムリだろうね」

(ニコラス)

オラオラ系金持ちのガキレーサー、ニコラスくん。インタビューに答えて。

おいおいニコラスくん、こんな発言をするとゲーム会社どころかコンピューター会社も誰ひとりスポンサーについてくれなくなりますよ。表彰台だって例えば10台出走して完走3台なんてレースも稀によくあるわけですから、もしヤンが表彰台に登ったら自分が恥をかくだけです。自分にマイナスしかない発言です。そこは”Let's wait and see.(ンなこと俺が知るかよクソボケが)”と答えておくのが大人の対応でしょう。

ですが、こう考えることもできます。彼にはスポンサーが不要なのです。なぜならお金持ちだから。自分のお金で好きなマシンを買って、自分で好きなスタッフを雇って、自分で好きなように走る。だから、なんでも好きに発言できます。モエ・エ・シャンドンも「自分が好きだから」くらいのノリで親が勝手に貼ってる可能性があります。ドバイで街乗りしてた車もランボルギーニではなくKoenigseggisseggggnignigsegigiseggggなので、ランボルギーニからスポンサード(=車両提供)も受けていないと思われます。つまり、現実でグランツーリスモみたいなことやってる人種です。

それこそリアリティがないと思うかもしれませんが、これは現実でも普通にいます。この世には「これゲームのバグ?」ってくらいの桁数の資産を持つ人がけっこうな数いて、自腹で全てを揃えてカーレースをやっています。「今日は雨降ってるからグランツーリスモで遊ぶか(晴れた日は1日サーキット走ってる)」みたいな人種です。親ガチャという公式チートです。運営への苦情は神様にお願いします。

ところで、ここで皆さんに少し考えていただきたいことがあるのです。
ニコラスとヤン、どちらのほうが”良い”ドライバーでしょうか。

ヤン?どうして?彼は真面目だから?…うん…まあ、見えるとこでサボってはいないから真面目だし、グランツーリスモが絡むとちょっとイキる癖はあるけど、年相応の普通の青年だよね。普通の人がどちらを応援したいかと言われれば、当然ヤン。一般家庭のゲーマー出身が親の金レーシングを倒すなんて、これ以上なく痛快だ。まるで映画みたいで。

でも、こうも考えられないでしょうか。

”ヤンは人様に借りたマシンを何台も潰して、しかし自分は金銭的に何も痛い思いはせず、それどころか贅沢にもプライベートジェットで移動して、そして結果は何も出せていない”

…しんどいよね。俺も、これを書くのはしんどい。でも事実だし、書かないといけない。

ニコラスがマシンを壊しても、自分のお金で直しますから誰にも迷惑がかかりません。ニコラスがスタッフにキツく当たるのも、ある意味では当然です。言い方はちょっと棘があるけど、自分のお金を払ってるんですから。スタッフもプロとしてきちんとした仕事をして欲しい。結果が出なくても、誰にも迷惑はかからない。せいぜい親ががっかりするくらい。

じゃあヤンを見てみましょうか。ヤンのマシンは、ヤンの所有物じゃなくてGTアカデミーの所有物。ヤンはそれを運転して、レースに勝つ仕事を任されている。でも壊す。なぜなら未熟だから。車を壊すとお金がかかる。なぜなら、これはゲームじゃなくて現実だから。でもそのお金は、ヤンが支払うわけじゃない。GTアカデミーを運営するニスモが負担する。結局はさらにその上部組織のニッサンが、さらにいうと、ニッサンの新車を買った人が間接的に支払う。株主への配当、会社の成長、未来の新車の開発に使われるはずだったニッサンの貴重な資金が、ヤンのせいでどんどん広告費として外部に出ていく。ただでさえカルロスなゴーンがけっこうな額ガメてるのにな。そして、アクセルをブラジルまで踏んでも加速しない日産デイズで日々営業に駆けずり回った社員の、そのカットされたボーナスが、600馬力もあるGT-Rのアクセルをうかつに床まで踏んでスピンした、ゲーマーのガキの自己実現…という名を借りた広告活動に使われるわけだ。なあヤン、ニッサン社員の子供たちのクリスマスプレゼント、もしかしたらPS5とGT7になるはずだった金で食う、日本のスシの味はどうだ?美味いか?そうか美味いか。次も彼女と食えるといいな。次があれば、だが──

ですから彼は、こう言われないために結果を出さないといけません。可及的速やかに。

ヤンは以前、GTアカデミーで「負けて実家に帰って、みんなが正しかったと認めること。それがいちばん怖い」と話していました。ですがこんな大舞台まで来たらもう、そんな個人のプライドだとか、家族とのわだかまりがどうこうの話じゃない。ヤンのために億単位のお金が動き、何十人というスタッフが働きます。負けても実家に帰れるはずがありません。結果が出るまでやらされます。だって、彼の敗北はプロジェクトそのものの、言うなればニッサンそのものの敗北なのですから。これは諦めて途中でリセットができるゲームじゃない。現実なんです。

残酷?私も残酷だと思います。19歳のゲーム好きの青年をいきなり送り込んでいい世界じゃない。ですが当然だとも思います。何歳だろうと、他人のカネとモノで行う自己実現には、それなりの重みがつきまといます。投資に見合うかどうかを常に判断され、見合わないとなれば投資を引き上げられる。広告塔として突然てっぺんに登らされ、そしていきなり梯子を外される。ダメならリセットボタンを押されて、ザ・エンドってね。

映画ではそんな暗いところは描かれませんし、なぜか営利企業のはずのニッサンから無尽蔵のお金が湧いてきます。ですが、人のお金で夢を叶える「人の金レーシング」のプレッシャーと危うさは、ほんの少しでいいので描いて欲しかったと思います。

幸い彼はリセットボタンを押さなかったし、押されなかったからこうして映画になった。でも日産の金で夢を叶えて、しかし途中でリセットボタンを押したり押されたりした他の人間たちは、この映画に名前すら出てきません。

ちなみにここまですべて『カペタ』に書いてありますが、読んどいたほうがいいですよ、『カペタ』は・・!

つまらない話になりましたね。
レースに戻りましょう。

あからさまにぶつけてくるニコラスくん。

……ニコラスくん、もしかしてここをグランツーリスモと勘違いしてる?現実だよこれ?自分もそれなりにダメージ受けるし、ヤンに構ってるぶん遅くなるよ?ペナルティで最悪ライセンス停止だよ?誰よりも君自身が厄介オンラインレーサーみたいな運転してるよ?それとも、ぶつけまくってくる割にプレイヤーと違ってペナルティも発生しない、グランツーリスモのおバカNPCを再現してるの?

というか、君がそこまでしてヤンくんにぶつけにいく激重感情なに?一緒に観ていた妻がBLの匂いを嗅ぎつけてしまったよ?その因縁どこから?あ、おっさんがキレて退職したからか。いやおっさんのせいやんけ!そのままピットに入っておっさんにぶつけろ!

おっさん、口ぶりからするとアウディとも因縁があるようです。
おっさん可愛い顔してマジで何やらかしたの?おっさんの因縁はおっさん個人が解決しといて?

ダニーの人探しリストにも「こいつは…無いな!」みたく最後に書かれてたし、おっさんの過去が本当に気になる。人死が出たとはいえ、本当におっさんに責任がない事故だったのであればあそこまで嫌われるはずがない。ということは、その後のレースエンジニア時代に出禁レベルの何かをやらかしたと思われます。映画ではついぞ語られませんが。

現実でもぶつけてくるレーサーはいますが、あれほどあからさまではありません。「ちょっと押しただけ」や「ブレーキングしてたから避けられなかった」という言い訳が通る場面、かつ、ちょっと押せば相手がすっ飛んでいくブレーキング開始直後やコーナーの入り口で押しにきます。

また、当然ながら現実はフェイズシフトできないので、あんなぶつけかたをするとお互いにかなりのダメージがあります。カーボン製の外装があっさり砕けて粉々に飛び散り、もし部品を引きずりでもしたら「危ないからピットへ戻って修理交換しろ」フラッグが振られて、無視したら失格です。勝負権は完全に失われますので、もしやるなら「ダブルクラッシュといこうぜ!」の精神でお願いします。

えっ?
これは映画でエンタメだろって?

これ、野球映画で例えると「試合中、打者が『こいつを◯れば試合終了だ』と言わんばかりにバットで投手を殴り始める」みたいなシーンなので、映画でエンタメだとしても申し訳ないですがドン引きですよ。

でも、実写版アストロ球団のポスターに「実話を元にした感動のストーリー」と書いてあったら、ちょっと面白いですね。絶対に観に行きます。

前を走る2台がクラッシュ。
タイヤが飛んでくる。当たる。

当たる???
あれ当たるの????

いや外れて→飛んできて→ワンバン→当たる、まで2秒120フレーム以上あったし、ゲーミングお嬢様じゃない俺でも見てからお回避余裕でしたわよ?!?!?!
さっきおっさんにやらされてた反射神経のトレーニングは無意味だったってこと???

というか怖いからって目をつぶるなヤン!
透明でもなく薄皮1枚しかないお前のまぶたより、ポリカーボネート製のシールド(バイザー)を信頼しろと訓練で最初に教わるだろ!
目を見開いて、最後まで回避の努力を続けるんだ!

あっ、なんか知らんけどシールド上げてた。
じゃあつぶっていいよ!怖いからね!

グランツーリスモではクラッシュしてもタイヤが外れることはないし、部品が外れて飛んでくることもないので、もしかするとそういう意味での描写かもしれない。現実は厳しいんだヤン。グランツーリスモって自称シミュレーターなのにそんなことも実装されてないの?と言われると返す言葉もないんですが。だってゲームだし…

なんだかんだ4位になって、レース終了。
FIA "LICENSE"をゲット。よかったね、おめでとう。
ここから分かるとおり、この映画は冷食にチーズかけてコーラで流し込む国の映画です。

「どういうことだ!ふざけるな俺を殺す気か!」
「これがレースだ!」

(注:上が主人公で下が敵です)

ピットに怒鳴り込み、ニコラスくんに掴みかかるヤン。

あれだけあからさまな危険行為をしても前回と同じくニコラスくんに運営から制裁は課されなかったようなので(なんで?)、自ら鉄拳制裁をしに行くスタイルです。敵を間違えるなヤン。お前が殴るべきは運営だ。あと殴っちゃうとニコラスくんと同レベルなので、チームを通して正式に抗議したほうがいいと思うな。

結局、殴らない。

殴らなくて良かったね。殴ってたらたぶんライセンス貰えなかったか、貰って即日停止だよ…国際AだかBだか知らんけど…

でも、現実でも危ないことをしてくる人にはとりあえずブチ切れておくべきです。こいつ危ないぞと思ってくれれば、いざ次に勝負になったとき引いてくれる確率が上がるからです。これも『カペタ』で見た。こんなクソ映画とクソ長い解説を見る前に、みんな『カペタ』を読んでくれ。

なお、いまさらですが現実には

「何戦してそのうち何位以内じゃないと、FIA(国際自動車連盟)はライセンスを発行シマセーン!」(フランス語)

という条件がつくのは国際A級ライセンスからです。ヤンが出場しているFIA GT3やルマン24時間耐久に必要なのは国際B級なので、映画のニッサンはルーキーのヤンに不必要かつ理不尽な要求をしているということになります。ルマン表彰台RTAの乱数調整という説は捨てきれませんが。

ちなみに専業ドライバーでも国際A級保持者はそういないので、おじさんが夜のお店で言う「俺A級ライセンス持ってるよ」はまず例外なく「国内」A級か佐藤琢磨氏です。

"専業"ドライバー?

そう、ここで解説しておきますと、モータースポーツの世界には専業ドライバーがいれば兼業ドライバーもいます。本職としてレーサーを選んだ人ではなく、別の分野で既に成功している人が、つまりニコラスではなくニコラスの親父が、週末の刺激的な余暇のため、または人生の新しいチャレンジとしてレースに参戦しています。例えばヤン選手は2013年のルマンLMP2クラス3位になっていますが、そのとき同じLMP2クラス2位の車を運転していたのは、Ruby on Railsの開発者であるデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン氏です。世知辛い話ですが、天才プログラマのおじさんがルマンで2位になっても映画にはしてもらえません。

もちろん本業も忙しいので専業レーサーほどの練習ができるわけではないですし、年齢的にも"ガチ"なカテゴリーへのステップアップはチームも本人もアウト・オブ・眼中な場合が多いとはいえ、彼らはなんといっても金払いがいい。給料払うどころか逆に持ってきてくれるわけですから。ですので、現代のツーリングカーレースではルマン含むほとんどのレースで兼業ドライバーの参加できる制度とクラスが設けられています。

そこ!そこそこ!

「カーレースって血気に溢れたオッスオッスな男衆わこうどたちが賞金と栄誉と命を賭けてガチマッチしてるんじゃなかったのか…」

と落胆(?)した、うちの妻とそこのあなた!カイジの金持ちと同じ思考になってますよ!そもそも兼業ドライバーだってちゃんと自分たちなりに努力研鑽してるし、時には専業ドライバー以上にすごいことやってるんですよ!

いま配信終わっちゃってるけど、もし未来で機会があったら見てみてください。

でもやっぱり、おっさんが「本物のプロレーサーが相手だ」と言ってるのは現実とちょっと違う。自力で参戦費用を稼いでくるセミプロも多い世界で、食い扶持の心配をせずシルバーストンで8ヶ月も専属コーチつきの練習に打ち込めるのはプロの側…どころか、専業プロよりはるかに恵まれた超特別枠。当然、そこまで投資するからにはしょぼい結果が許されるはずもなく、日産も誰に投資するかは慎重に選ぶ必要がある。だから、GTアカデミーをやる必要があったんですね。

なので、後ほどヤンが叫ぶ「GTアカデミーが設立された理由を覚えてる?」についてですが、自分の認識と現実に即して夢のない回答をするとすれば

「投資先の選定」

または

「当代随一の有力選手とチームに巨費を投じて不確実なトップカテゴリー優勝1回に挑戦するより、人目を引く経歴の選手をプロアマ混合クラスで複数回『優勝』させるほうが広告としての費用対効果が高い。その事実に日産が気がついてしまったから」

となります。

この世界、プロとアマの違いなんて曖昧ではある────
だが、そこは流石に────
プロとして────

映画だからまあいいか────
いやこれ実話か────
実話なわけあるか────
しっかりしてくれ────
映画のプロとして────

夢もへったくれもないつまらない話ですが、もう少しだけ続けましょう。

なお、山内一典氏は

「GTアカデミーの選手は公式レースの出場経験がないのでアマチュア枠での出場になったけど、趣味でやっている兼業ドライバーよりはるかに速いからぶっちぎりで勝ってしまう。レースで結果を出し始めると今度は『彼らをアマチュア扱いするのは汚い』ということで別枠になった(くらいには速い)」

とインタビューで誇らしげに語っていましたがそれはそうで、厳しい選抜をくぐり抜けた上でプロが8ヶ月も鍛え上げた高校球児ドリームチームを社会人の草野球に送り込んで、

「ウッス!自分、初心者ッス!甲子園目指してます!練習するとこ、ここしかないッス!試合お願いしまッス!」

ってコールド勝ちしたらそりゃお帰りくださいとしか言えません。大企業とプロチームの全面バックアップ受けてますけどジュニアでもないし公式戦の経験もないです、みたいな選手を運営が想定していなかったのも悪いですが、いくら企業宣伝が目的とはいえ何のために細かくクラスが分かれているのか考えてエントリーしてくださいよ、と。下位カテゴリーのモータースポーツで独走するのは必ずしも良いことではなく、見てる側も走ってる側もつまらない、クラス違いの「弱いものいじめ」として認識されることがほとんどです。間違ってもそんな戦績を誇ってはいけない。

モータースポーツはお金がかかる。だから、自分のお金で走れない人は企業を利用する。企業もその人を利用する。そういうビジネスでモータースポーツの世界が発展してきたことを否定はできません。

ですがモータースポーツはあくまでもスポーツであって、必ずしもその全てを企業の営利活動の場にしていいわけじゃない。参加者の努力と身銭で回るならそれでいいんです。あれ使え、これ話すなの面倒事もないし。一般の人に知られていない(知られる必要もない)だけで、参加者の努力と身銭で回っている面白い競技はたくさんあります。レーサーになりたいだけなら、ヤンは今すぐ親父のVWコラードで地元の草レースに出るべきだったし、それでもたちまち「永遠」になれたでしょう。

それでも、ここはゲームじゃなくて現実ですから、安全な競技環境と安全な車両の用意にはどうしても相応のお金がかかります。大舞台で大観衆からの歓声を浴びたいと言うのなら、競技者に高度な訓練を施してGT-Rに乗せ、興行エンタメとして成立させる必要も出てくるでしょう。

なので、そういう遊びをしたいならその規模に応じて相応の身銭を切ってくださいね、という、ある意味で当たり前の話なんです。金持ちに支配されているわけでも、支配されたいわけでもない。それは逆です。身銭を用意できない人が大企業を連れてくるから「支配」が始まるんです。

みんなでお金を出しあって整備して遊んでいた砂場に、大企業にスポンサーされた大物Youtuberが突然入ってきて「うぃいいいいいいいいいいい↑っす!!ここが金持ちの砂場です!!これからここにぃ↑〜!!砂のお城を建設します!!」と宣言されたら、いい気分がする人はいないでしょう?

それぞれが身銭を切って自分のできる範囲で競っていたところに、大企業の都合と無限の資金力で勝ち星集めにきたのは、じゃあいったいどっちの側なんでしょうね。

ん?
「ルマン出場のための実績解除最速チャート」?

「だいたいこの映画、元は"Sim-Racer"って仮題の荒唐無稽な完全フィクションだった企画で、そもそもがグランツーリスモに関係がなかった」?

「なのにある男に声をかけたら企画にガッツリ絡んできて、プロダクトプレイスメント盛り盛り、自称実話、有名監督を連れてきて大映画にしていった。でもそのせいでプリプロダクションの時点で関係各所と揉めに揉め、現在の形に落ち着いた」?

そんなこと知りたくなかった…
知りたくなかったな…

映画に戻りましょう。現実はしんどいので。

なんかニッサンからめちゃめちゃ高額な契約金をもらうような流れになってますが、今のところヤンはニッサンに合格圏内ギリギリとしか評価されていないようですし、他チームが契約金を積んで獲得に動くとも考えにくいため、この契約形態ですと現実には悪い意味で驚くほどの額しかもらえないと思います。

ニスモとしてはむしろ、あれだけお金と手間をかけて育成したんですから、スポンサー見つけてきて持ち込んでくれるなりで幾ばくかでも費用を返済してほしいところでしょう。

ニッサンとの正式契約のために、恋人と東京へ来たヤン。

いまどきのティーンエイジャーってこういうのに憧れるのかな〜、というシーンの後、ふたりは幸せなキスをして終了。

残念ながらこの恋人が史実かどうかは調べきれませんでした。
ただ、現在のヤン選手は未婚だそうです。
あっ・・・(察し)

ここまでが登竜門編。

次回はいよいよクライマックス。
ヤンは挫折から立ち上がり、史実の順位でゴールできるのか?
なんか脚色が行きすぎて優勝とかしちゃいそうだぞ?

乞うご期待。


この記事が参加している募集

#映画感想文

66,565件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?