見出し画像

担当書『生きもの毛事典』をPRしたい編集者の制作記 ①誠実に(生きものの)毛の本をつくりたい

企画担当した書籍『生きもの毛事典』が、6月8日に発売になる。
もっともっとPRしなければならない!
しかし、もはや発売直前。それでもやれることは…?
生物系編集者(私)が、少しでも担当書籍のPRになればと、生きものの話に脱線しつつ制作過程を書き連ねていきます。

そもそもなぜこの本を企画したか?

私は出版社で編集者をしている。マニアックな生物(イモムシとかハエトリグモとかウニとか)の図鑑や専門書を扱うことが多いだが、かねてからマニアックな生物も含めた生きもの全体のおもしろい話題を紹介する本をつくれないかなと考えていた。

いきなり話は飛ぶが、『ざんねんないきもの事典』という本をご存知だろうか? いろんな生物の「残念」とも言えるおもしろい小話をくすっと笑えるイラストつきで紹介する楽しい本なのだが、これが爆発的に売れに売れまくった。あとに続けとたくさんの生きものの本が発売されたが、私は生きものが大好きなので、その類書たちを見てすこし苦々しく思っていたことがある。

それは、いっぱい売れてていいな……ではなくて、「一昔前の怪しい知識も引用文献なしに入っている」ということだ。たとえば、「マンボウは一度に卵を3億個産む」という情報を聞いたことがあるかもしれないが、実はかなり怪しいものだということをマンボウ研究者の澤井悦郎さんがしっかりと解説してくれている(参考「教えてマンボウ博士! 「3億個の卵→生き残るのは2匹」説はウソ?」)。

図鑑や専門書を作っていると、参考文献や引用した論文の情報が非常に大事になってくる。なぜなら、本に載っている情報は短い言葉で説明するためにいろんなニュアンスや情報が抜け落ちてしまうため、「元の情報源はどこだ?」ということを確かめる必要があるからだ。たとえば、読んだ人が「この解説は自分の知っていることと違うな。確かめよう」と思った時に参考文献が載っていれば、その情報源を見ることで、更に研究や調査をすすめ、より確からしい情報が更新されていくことにつながる。

もちろん、絵本やページ数が限られるといった制約で参考文献を載せなかったり、いろいろな説があっても子どもたちが読めるように「○○は〜〜〜である」と断定した言い方をしてしまうこともあるだろう。また、多くの人の興味をひきつけるために「残念」というような形容詞を(ほんとうはそうではないけれど)付けることもある、とは理解できる。

しかし、私は曲がりなりにも学生時代は生態学という生物分野について学び、図鑑や専門書などを作り科学的に誠実であろうとする出版社に勤める人間である。そしてこう思ったのだ。「私もバカ売れ生きもの本作りたい!」
…ではなくて、そうも思ったが、「やっぱりもっと誠実に、きちっと最新の情報を引用を付けたり誤解されないように、おもしろい切り口でつくりたいな!? 生きものの本を!」と。

そして、ある日ふと、こう思いついた。「毛っていろんな生きものに生えすぎじゃない?」「毛という切り口なら、イケるのでは!?」

思い出してみてほしい。かわいいワンちゃんネコちゃんウサギちゃんにはもふもふの毛があり、ミツバチにも毛があり、食卓に出てくるキウイフルーツのような果物にさえ生えている。そして何より、人間だって赤ちゃんからご老人まで至るところに毛が生えている。身近というよりもはや身に生えている毛の悩みというのは、なかなか話題には上らない一種「タブー」のような話だが、だからこそおもしろく、興味を引きつけるのではないか?

※この理由とは別に、学生時代に衝撃を感じたある虫の体験から「毛」について思いを馳せるようになったのだが、それはまた別の機会に書こうと思う。→https://note.com/shiraguma/n/nfe4a8106e2fc

どんな本?

今まで書いてきたように、『生きもの毛事典』では毛という切り口からさまざまな生きものが登場する。少し本書から要約して紹介してみよう。

シマウマのしましま模様はなぜあるのだろうか? 
その議論は150年も続いているそうだが、最新の研究によると、しましまの毛には寄ってくるアブを撃退する効果があるという。本書で紹介している研究によると、ウマとシマウマに寄ってくるアブの動きを調べた結果、ウマの体に着地するときは減速して着地する一方、シマウマには原則せず通り過ぎたり、体にぶつかったりしてしまい、ウマと比べるとシマウマに着地するのは1/4ほどの数だったそうだ。サバンナで目立ってしょうがないように見えるしましまの毛には、アブを撃退するという効果がありそうだ。

右ページで毛の話、左ページではその生物にまつわるおま毛話が満載。

……他にもパンダあり、食虫植物あり、ヒトの鼻毛ありと多彩な毛の話が川崎悟司さん(衝撃ビジュアル満載の著書『カメの甲羅はあばら骨』など)のイラストでシュールかつ豪華に描かれている。聞くより見るのが早いと思うので、ぜひ見本ページを御覧いただきたい。
生きもの毛事典(Amazonへ飛びます)

また、難儀な引用文献(英語論文)を調べ、読み、要約し、毛の生きものの話題を書きまくるという作業を行ってくれたのが、著者の保谷彰彦さんだ。ちらっと聞いた話では、コロナ禍だったということもありその調べ物と執筆作業は「心が折れかけた」ということだ(「でも楽しかった」とも仰っていただきました…)。

で、どうPRする!?

そんなこんなでとても豪華に楽しく仕上がった『生きもの毛事典』だが、販売前にあまりその存在が周知されておらず、予約数が厳しいことになっているらしい。ちなみにこの予約数というのは、ネット在庫や書店に確保しておいてくれる数が決まるだけでなく、初速(最初の勢い)を決める重要な数字だ。最初の勢いというのは肝心だ。新しいものができたときのエネルギーで一気に勢いをつけることで、その後の売上の伸びも違ってくる。

どうしよう!?

どうしてこうなったかというと、私に重大変化が起こったせいもあるのだが、それは……!? 次回、毛に興味を抱くきっかけとなった「②トビケラとガの違い事件」、その後の「なりふりかまわず発信しなければ!〜つわりで生ける屍になった経験から〜」編に続く(かも!?)


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?