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「毎日向き合っていたい」うさぎ描き続ける日本画家

※本記事はインタビューを元に制作しておりますが、内容にはプロモーションが含まれています。

ブルーベリー、スノードロップ、ノウゼンカズラ…身の回りに咲く花々と描かれるのは、かわいらしいうさぎたち。その繊細な色合いやタッチから見る人を独特の世界へと誘う安松美由紀さんの絵画作品。作品の魅力の秘密に迫る。


「うさぎが大好き」? 絵に込められた想い


「オルラヤという植物を知っていますか? まるでうさぎが餌を囲んで集まっているような花なんです。かわいいでしょう?」

そう熱っぽく語る浜松在住の日本画家・安松さんの作品には、かわいらしいうさぎと植物が一緒に描かれている。

『かこんでいたかった』左下に描かれているのがオルラヤ
オルラヤの花(撮影:安松さん)


「あと、ブルーベリーの実。熟すまでの間に現れるぐるぐるした模様がうさぎの目に見えて…『目が合ってしまった』んですね。これは描くしかないと」


『春の視線』ブルーベリーとうさぎの瞳を並べた


ブルーベリー(撮影:安松さん)


うさぎの特徴と植物たちが見事にマッチしている。日常のあらゆるものがうさぎに見えてしまうほど、大好きということなのだろうか。


「そして、スノードロップ。うさぎがぴょんと跳ねたような花の形が特徴です。その花を亡くなった子うさぎに見立てて描いたものです」


『なりそこねた』薄暗い闇に浮かび上がる3つの花


スノードロップ(撮影:安松さん)


シンプルに「うさぎ好きの画家」とは紹介できない。作家の中には、自分の中に生まれる葛藤を作品に込めるという方が少なからずいる。安松さんもそのようなタイプの作家と言えるかもしれない。彼女の表現の原点は、かつて飼っていたうさぎたちへの「罪悪感」だという。

「モチーフ選びも含め、『あの子たち』に近づけたい、という気持ちがあります」


「罪悪感」への葛藤 「向き合ってない日に死にたくない」


生まれ育ったのは、愛知県・多米町。家から歩いて5分で山に入れるような自然に囲まれた場所で子ども時代を過ごした。植物や虫・動物たちについて興味を持ち、知っていくことは生活の一部だったという。両親の教育もあり、生き物に親しみ、愛しむような子どもだった。


「小学6年生のときのことです。増えすぎたうさぎをもらってくれという話があって、引き取って来たんです。当時既にメスのうさぎを飼っていたんですが、新しくもらってきたうさぎはオスだった。私は二匹の子どもが見たくなってしまったんです。ある日家族で出かける際に、こっそりうさぎ小屋の鍵を外しておきました。数か月後、メスのうさぎは3匹の子どもを出産したのですが、高齢出産だったため、そのまま亡くなってしまいました。子うさぎたちも、育てる親が居ない環境でうまく生きられず、その後すぐに母うさぎの元へ旅立ちました。あのとき、私が好奇心から鍵を外さなければ、今でも別の形で一緒に居られたんじゃないか。後悔の念が頭から離れなくなりました」

『あやまる』絵を描くきっかけとなったうさぎ



元々、絵を描くことが好きだった安松さん。自分なりに罪悪感と向き合う中で、うさぎたちの絵を描くことが心の支えになっていった。高校生の時に見た丸山応挙の『木賊に兎図』(1786:静岡県立美術館収蔵)から影響を受け、日本画でうさぎを描く表現を追求してきた。



「『今日は死ぬのにとてもいい日だ(Today is good day to die.)』とは、ネイティブインディアンの諺です。私は自分が死ぬギリギリまで、うさぎたちを近くに感じていたい。向き合ってない日に死にたくない。だから、毎日あの子たちの絵を描くんです」



「誰にも言えなかった気持ち話せた」見る人のやさしさに寄り添う絵



「だからといって、作品を見る人に苦しさを感じて欲しいということではないんです」


安松さんの展示を訪れた人の中には、昔飼っていたペットの事を思い出す方や、小さな生き物に対してしてしまったことへの罪悪感を涙ながらに吐露する方もいるという。

「なかなか人には言えないことなんだと思います。だから、そういう思いを抱えてしまう人ってとても孤独で。誰にも言えなかった気持ちを話せたってことが安心に繋がることもあると思います」

作品を見る人の心の中に隠された命へのやさしいまなざしを、安松さんの絵はそっと掬い取ってくれるのかもしれない。


依頼を受け制作した作品


絵画の枠を超えていく 「夢はうさぎに囲まれた空間を作ること」


「今すごく、破砕機が欲しいんですよ」

日本画では、岩石を砕いて粉末状にした岩絵具や、土を使った泥絵具等、自然から採集した材料で色をつける。安松さんは泥絵具として、かつてうさぎを埋めた実家の庭から採れた土を使用することもあるそうだ。

土を乳鉢乳棒で細かくして使用(撮影:安松さん)

「破砕機があれば、石でも簡単に粉末にすることができますから、庭の小石とかも使えるようになる。さらに表現の幅が広がると思います」

ネックは騒音対策だという。

「あと、DIYを覚えたいんですよ。私、日用品の中に描かれている絵も好きで。家中の家具という家具にうさぎの絵を忍ばせていきたい。夢はうさぎに囲まれた空間を作ること。そこを私の終の棲家にしたいなって思っています」

終始明るく語る安松さんが見つめる先には常にうさぎたちと共に堕ちていく未来があった。前向きな破滅願望を実現すべく、安松さんの情熱はとどまることを知らない。絵画という枠すら超えていきそうだ。


個展情報 『きみだったものたち』


安松美由紀 個展『きみだったものたち』
日時:2023年4月20日(火)~5月2日(火)
10:00~19:00(最終日16:00まで) 水曜定休
場所:書繪堂ギャラリー 浜松市東区中田町510-2

うさぎたちが眠る庭に息づくちいさな生き物たち。めぐる命に想いを馳せ、抱えたものが形を変えていく。薄まっていくようで、近くなる。作品の前で沸き上がる感情を、ぜひ体験してほしい。


活動情報 繋がるアートコミュニティ『まるけ 浜松art&culture』


 「浜松のアートシーンをさらに盛り上げたいという思いで始めました」

そう思いを語る安松さん。ギャラリー、作家、鑑賞者、依頼者を繋げるコミュニティ『まるけ 浜松art&culture』を運営している。主な活動は、LINEを通じた展示情報の収集・発信だ。情報を受け取るだけでなく、自分の展示情報を連絡すれば、他の登録者向けに発信してくれる。登録・利用は無料だ。

「アートに触れると、新しい視点を獲得することができます。すると見慣れた日常の世界がまったく新しいものに見えはじめる。それがアート鑑賞の楽しさ。表現することも鑑賞することも、地続きだと思います。だから、私も含め、新しい出会いの場にしていきたいです。今後は作品の展示だけでなく、音楽ライブやワークショップ、演劇など、幅広いジャンルの情報が集まればいいなと思っています。お気軽に利用いただければと思います」

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Profile

安松 美由紀(日本画家)
豊橋市出身・浜松市在住。
大切にしていたうさぎへの罪悪感をテーマに作品を制作。
2011年 ロゼシアター新進アーティスト展・佳作
2013年 静岡県西部学生美術展・大賞(中日新聞社賞)
     ふじのくに芸術祭2013・準奨励賞 他
2016年「わたしとうさぎ 安松美由紀展」(Yellow Passion・焼津市)
2020年 企画展「ながさき動物園展」参加 (ギャラリーIYN・大阪)
2021年 安松美由紀個展「罪とゆくみち」(フェルケール博物館・清水市)
2022年  2人展「そらを想えば」(ARTAGEGALLERY・豊橋市)
他、浜松市を中心に県内外にてグループ展・公募展への参加多数。

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