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速星 【詩】

螺旋を描きながら
夜の底に沈んでいく
黄色い軌跡

黒猫が窓の縁をよぎり
壁の向こうへ消えた

睡魔が襲う前に
この街をさまよっている無意識を
つかまえておく
この街を
思い出のようにつつみ込む
アルミニウムの光を

(大河に沿って拡がる
 メガロポリス
 都市を包み込んでいる静かな轟音
 赤やオレンジの瞬き
 高層ビルの屋上から
 歌うような叫び声
 全てを掻き消していく静かな轟音
 夜空に映し出される
 巨大なデジタル時計)

(都市の中央部から
 地下に潜るトンネルは
 夕方になると黄色く点滅し
 異界への路を指し示している
 HAYABOSHI
 薄青い街
 都市と郊外をつなげる
 約7キロのトンネル)

速星へ抜けるトンネルは
たった数分で
空気が薄くなり
もの寂しい郊外に抜ける
次第に細くなるトンネル
錆びたガソリンスタンド
鈴虫が鳴き
すすきが風に鳴っている

速星

この不思議な地名の標識を見ると
メガロポリスから来たドライバーは
不安にかられる
今夜も
情緒不安定な中型トラックが一台
浴室から見える国道を
走り過ぎていった

風の隙間でコオロギが鳴いている
犬を連れた老人がピーナッツを囓っている
僕は睡魔に襲われている

その刹那
バスルームの窓をよぎる
速星


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