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五六郎 【詩】

三四郎は成長して
五六郎になった
ミネコは大きくなって
コネコになった

三四郎池が澱んでいる
いちめんが藻に覆われている

まるまると太り
巨人になった五六郎は
コネコとともに崖下の家に棲む
その顔は
家屋からあふれ出し
大仏さまになっていた

三四郎池が澱んでいる
怪魚がゆっくりと泳いでいる

あれほど元気だったコネコは
今では あの その
あんなふうになってしまい
ひっそりと音もたてずに
動けない 五六郎に
日に一度の食事を与え
五六郎はあんぐりとそれを食べ
僕が訪ねていったときには
ひっそりと
穏やかな微笑を
凍らせていた

三四郎池には
氷が張っている
その周りだけ
奇妙に気温が低い

(あなたはなぜそこから出ていかないのですか)

ミネコが
顔をもたげ
水面に
青黒い鼻を一瞬のぞかせた

五六郎の血の跡が
こびりついていた襖

(見てはいけません)

コネコが
僕の膝に寄ってきて
ボールのように丸まった

(その前にお焼香を)

三四郎池に映る
君の顔には
見覚えがある

(ストレイシープ ストレイシープ)

僕らは今でも池の底に澱んでいる
散らばった手紙の欠片を拾い集めている

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